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まほらと翳と、ひかりと

先日通販でご購入いただいた原画《Water color Wolf -Jewel shade 》

ご購入いただいた"後"に購入者の方に制作についてのお話を訊ねていただく、という私としては珍しい体験(勿論、光栄という意味で)をしまして、なんだか嬉しかったのでnoteにまとめてみます。

理想の夜

まずこの絵を描いたのは2022年の年の瀬。
大変多忙で、(冬はいつもそうなのですが)例によって虚弱故体調のコントロールに振り回され、連日の寒さに頽れ蹲るように絵を描く日々でした。
そういう中、肉体的にしんどい状態ではあっても、こういう風に描きたいという意志の通りに、なんの引っかかりもなくさらりと描けた絵です。

"絵描き"が私の仕事です。コンディションやスケジュールによってペース配分は変わっても、とまらず絵を描き続けます。
制作は過酷で、孤独で、その時の心持ちはその時々です。
私は夜が好きで、深夜に絵を描いている事が多く、制作のたび穏やかだったり楽しかったり、焦燥したり打ちひしがれて、ひとり夜を過ごしています。

この時、他にも並行して数枚同時に制作を進めていたのですが、そのうちの一枚が《まほらの月、幻想》という抽象画です。
この絵と《Water color Wolf -Jewel shade》は、隣に並べて交互に筆を乗せて制作した謂わば映画や小説でいう姉妹編で、相互に共鳴しあっていました。
その共鳴が心地良くて、多忙さや肉体の苦痛といったノイズの中で台風の目のようにこの二枚を描いていた時は凪いで穏やかで。

まほらとは、完全な様を指す古語。
まどかな気分でいられる事は私にとってとても価値がある事で、そういった気分の時は主観においてはある種の”完全な世界”であると認識しています。
理想の夜。そういう夜に描かれた作品です。

《まほらの月、幻想》
ちなみに《まほらの月、幻想》の方は、どこにも展示に出さず、完成後すぐに友人に贈った為、原画をご覧いただく機会は今後もありません。

「宝石の翳りのように煌めいて」

最初は《まほらの月、幻想》と対でストレートに《Water color Wolf -MAHORA》という題名でした。
改題したのは、なにかしっくりこなくて。

「宝石の翳りのように煌めいて」
作品毎に題名以外に一言、ワンフレーズ。キャッチコピーのようなものも付ける事にしているのですが、この時は絵を眺めていて、パッとこういったフレーズが出てきたのでこれを元に改題しました。
そう、陰。翳。マイナスイメージのある言葉。でも、つるりと光る綺麗なだけの実体の無いものに物語があるだろうか。
完全とは本物だという事。"本物"には物語があって、物語には様々な側面が、陰影がある。それが本物をうつくしくする。
まほら・完全という言葉のイメージには”翳り”がある。
そこから、Jewel shadeと名付けました。
連想やマインドマップを作るのが好きで、よくこういう風に思考を巡らせています。

まほらと翳と、ひかりと

2/25に名古屋市で開催されたイラストレーターイベント、土筆座2023への出展にあたって、イベント用の看板作品が必須で、その為に描いた絵でもありました。
沢山の方の目に留まればいいなと思って描いた絵でもあります。

絵具を紙に広げて、透明水彩が水の気配を残したまま乾くのを待つ時間。
室温10度の部屋では乾くのが遅いので、じわりと変化していく画面を愛おしい気持ちで眺めた絵でした。

とりとめなく、制作時のエピソードを書き連ねてみました。
これまで描いたどの絵にも、それぞれ最低限ここに書いただけの文章量で書けるくらいはストーリーがあるのですが、作品毎に毎回文章化するのは流石に時間が足りない。
書けるタイミングの時だけ書く、というスタンスで今度も制作についてお話する機会が持てればと思います。

最後に、作品を待っていただける、という事はクリエイターとしては本当に幸せな事で、文字通り”ひかり”です。
自分の為に制作をしていても、誰にも届かないじゃないかという不安は常に付き纏います。そんな時、ファンの方の存在は光明になり得る。
購入者の方は数年前、気に入ってくださった絵を買い逃した後、以降これぞという一枚を待ってくださっていたそうで。
購入までの経緯を教えていただけてとても嬉しかったのです。

瞳のうつくしいオオカミを描いた絵です。
繊細な描写のアナログ作品にありがちですが、データではその辺りの絵の活力というか鮮明さは原画には及ぶべくもなく”死んで”います。

この煌めきは、もう購入してくださった方だけのもの。
絵画の個人所有の価値というか醍醐味はこういうところにもあるかと思います。
そういった面も併せて、この世にたった一枚の絵を賞味していただければ幸いです。

BGMは『富める人とラザロの5つのヴァリアント』でした。

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