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最近読んだ本の話 vol.123

 「最近読んだ本の話」の第123弾です。寒さが本格的になってきました。今週は最近読んだ本を3冊ご紹介します。

1、高瀬隼子『いい子のあくび』

芥川賞受賞第一作。
公私共にわたしは「いい子」。人よりもすこし先に気づくタイプ。わざとやってるんじゃなくて、いいことも、にこにこしちゃうのも、しちゃうから、しちゃうだけ。でも、歩きスマホをしてぶつかってくる人をよけてあげ続けるのは、なぜいつもわたしだけ?「割りに合わなさ」を訴える女性を描いた表題作(「いい子のあくび」)。
郷里の友人が結婚することになったので式に出て欲しいという。祝福したい気持ちは本当だけど、わたしは結婚式が嫌いだ。バージンロードを父親の腕に手を添えて歩き、その先に待つ新郎に引き渡される新婦の姿を見て「物」みたいだと思ったから。「じんしんばいばい」と感じたから。友人には欠席の真意を伝えられずにいて……結婚の形式、幸せとは何かを問う(「末永い幸せ」)ほか、社会に適応しつつも、常に違和感を抱えて生きる人たちへ贈る全3話。

Amazonより引用

 3篇の物語が収録されています。1篇目の「いい子のあくび」は、歩きスマホをしてぶつかってくる人をよけてあげ続けることに不満を感じている主人公が、スマホを見ながら自転車に乗る中学生をわざとよけずにぶつかる場面から始まります。私もしょっちゅう人をよけて歩いているので、人ごみはめっちゃ疲れます。自分の安全のためによけないといけないのですが。体格の大きい男性は自分がよけなくても相手がよけてくれると知った時には憤りを感じました。主人公は最後窮地に立たされます。よけなかったら加害することになるのか。やっぱり今後もしっかりよけないと。
 「末永い幸せ」は、結婚式に出席するのが嫌いな主人公が、友達の結婚式に欠席することにしたのに、当日結婚式が行われるホテルに泊まって上の方の部屋の窓から見守るというお話です。主人公には考えがあって欠席したいんだけど、周りの人からなんで⁉という反応はされるだろうなあ。同じようにしないと許さないという圧力は確かにある。

 

2、青山 美智子『リカバリー・カバヒコ』

5階建ての新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。近くの日の出公園には古くから設置されているカバのアニマルライドがあり、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで”リカバリー・カバヒコ”。アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。高校入学と同時に家族で越してきた奏斗は、急な成績不振に自信をなくしている。偶然立ち寄った日の出公園でクラスメイトの雫田さんに遭遇し、カバヒコの伝説を聞いた奏斗は「頭脳回復」を願ってカバヒコの頭を撫でる――(第1話「奏斗の頭」)出産を機に仕事をやめた紗羽は、ママ友たちになじめず孤立気味。アパレルの接客業をしていた頃は表彰されたこともあったほどなのに、うまく言葉が出てこない。カバヒコの伝説を聞き、口を撫でにいくと――(第3話「紗羽の口」) 誰もが抱く小さな痛みにやさしく寄り添う、青山ワールドの真骨頂。

Amazonより引用

 公園に置かれたペンキのはげかかったアニマルライドがカバヒコです。自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説があり「リカバリー・カバヒコ」と呼ばれています。登場人物たちはそれぞれの理由でカバヒコに会いに来て、話しかけながらカバヒコに触ります。登場人物たちの考え方がいい感じの方へ変化するところがいいです。もしうちの近所にカバヒコがいたらどこを撫でるかなあ?


3、岡崎 琢磨『鏡の国』

大御所ミステリー作家・室見響子の遺稿が見つかった。
それは彼女が小説家になる前に書いた『鏡の国』という私小説を、死の直前に手直ししたものだった。
「室見響子、最後の本」として出版の準備が進んでいたところ、担当編集者が著作権継承者である響子の姪に、突然こう告げる。
「『鏡の国』には、削除されたエピソードがあると思います」――。
削除されたパートは実在するのか、だとしたらなぜ響子はそのシーンを「削除」したのか、そもそも彼女は何のためにこの原稿を書いたのか……その答えが明かされた時、驚愕の真実が浮かび上がる。

Amazonより引用

 2063年8月の鎌倉から物語は始まります。主人公の叔母は大御所ミステリー作家で、亡くなった後に発見された遺稿を出版することになり、準備が進められていました。担当編集者から呼び出されて鎌倉の邸宅を訪れた主人公は、叔母の遺稿である『鏡の国』という私小説には削除された部分があるようだと告げられ、もう一度読み直してほしいと頼まれます。そして遺稿の小説『鏡の国』と、この小説の物語とが交互に描かれて展開していきます。
 削除された部分はどんなことが描かれていたのか?興味が湧いてぐいぐい読みました。思いもよらないことが次々に発覚して、読むのをやめられなくなります。遺稿の小説が最後まで終わって、こういう終わり方なんだ、と思いながら鎌倉の現在の場面に戻ってきたら、驚くべきラストが!削除された原稿を読むことができて、このラストの方がいい!と私は思いました。それにしても凝った構成の小説です。『鏡の国』というタイトルには4つの意味があるそうです。それを「クアドラプルミーニング」というそうです。面白かった!


 年が明けてあっという間にもう月末です。体調も回復してやっと落ち着いて少しずつ本を読めるようになりました。最後までお読みくださってありがとうございました。

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