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#47★6歳の息子から見た夕陽は

雲の隙間からうっすら見えている夕陽を見て、息子は言った。

「あれってさぁ、太陽が隠れちゃったの?あ、雲が隠しちゃったのかなぁ。」

6歳になったばかりの息子は、時々こうして面白い視点をくれる。

素朴な疑問ほど、ハッとさせられる時がある。

煌々と輝く夕陽を見て、綺麗だなぁと見とれることはあるけれど、

雲がかかっている時には大して空を眺めることはしてこなかったような気がする。

綺麗な夕焼けか、それほどでもないか。

そんな風にしか、夕陽を眺めていなかった自分に気が付く。

しかし息子は、夕陽を覆う雲を見ても、心が動くのだ。

それも、夕陽が雲に隠れたがっていたのか。

それとも、雲が夕陽を隠してしまったのか。

想像しながら眺めていたのだから驚きだ。

私はそのような疑問を抱いたことがなかった。

そんな視点すら持ったことがなかった。

「どうなんだろうねぇ。〇〇くんはどう見える?」

私が問うと、彼は数秒考えてから答えた。


「なんかさ、もしかしたらさ、風がヒューンって雲を集めちゃったのかもしれないよね!!お日様が、どいてよ~!って言ってるんじゃない?」

また新しい世界観を教えてくれた。

息子の瞳には、私には見えない世界が広がっているんだろうなぁ。

「そっかぁ。お日様が隠れたんじゃなくて、雲が隠しちゃったんじゃなくて、風さんが雲を集めてきちゃったのか!面白いねっ!!風さんはなんで集めてきちゃったんだろうね。」

ママが興味津々で聞いてきたのが伝わったのか、息子は晴れやかな表情になり、意気揚々と答えた。

「それはね、それはねぇ、、、春だから!!!」

一瞬、時が止まった。

キラキラした眼と目が合ったまま、私は微笑みながら固まっていた。

「春だから」は、全く予想していなかったのだ。

「春、だからかぁ…。春だと、風さんが元気になるのかな?」

息子の手を握りながら聞いた。

息子はふいっと目をそらすと、

「んー。わかんないっ!!」

と、あっけらかんと答えると、「小学校に行ったら何のおかずが美味しいか」を予想し始めた。

夕陽と雲の話が終わる頃には、少しだけ雲が流れ、夕陽が降り注ぐように町を照らしていた。

陽の光に呼応するように、私と息子の影が地面に映し出されていた。

手を繋いだ大きな影と小さな影がふたつ並んでいる。


この時間も、この会話も、きっと記憶からは雲のように流れてしまうのだろう。

もう、この影を見ることも減ってくるのだろう。

夕陽を見る度に、愛しさと寂しさだけが込み上げてくるかもしれない。

だからこそ、ここに残しておこうと思う。

彼の世界を共有する時間が、私にとっての幸せな時間のひとつであったことを。


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