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【連載小説】リセット 6

 芳樹が生まれ育った『余目』は、山形県東田川郡庄内町である。
 JR東日本の余目駅は大正三年にできた駅だ。駅舎の屋根には丸い円錐形をしたレーダーらしきものが設置している。平成の世になり七、八年ごろに列車事故があり、それ以降に設置された。一日の乗降客は五百人ほど、羽越本線と陸羽西線の二路線が乗り入れている。いたって小ぶりな駅だが、それでも特急が停まる。

 芳樹は広々とした駅前広場の先にある古い木造二階建ての旅館の方へ足早に向かった。
 旅館に着き、二階の角部屋に案内された。女将にお願いして、おにぎりを用意してもらった。芳樹は礼をいった。その女将に、以前余目駅で撮影をした映画のタイトルを聞いてみた。
「んだ!その映画は美香扮する広末涼子ちゃんが何番線だったかな? そこで撮ったんだっす。めんこいお人だったんだず。映画の題名はなんじゃったかな」女将は思案顔になった。
 近年『おくりびと』という映画の撮影で四番ホームが使われた。
 おにぎりを食べ、芳樹は布団に包まり眠った。

 次の日、目が覚めたのが午前八時ごろだった。洗顔を済ませ、一階の食堂に向かった。テーブルが四つ程の小さな食堂で、その部屋の片隅には造花のバラが三本飾っていた。
 芳樹は窓際のテーブルに座った。他に昨夜泊まったお客様は居ない。味噌汁が昔味わった味でフーフーして啜った。ごはんをお代わりした。
 部屋に戻り、物思いに耽った。時間の経過は早く、既に朝の十時になろうとしていた。すぐさま一階に降り清算を済ませ外に出た。

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