園江洋平/Sonoe Yohei

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園江洋平/Sonoe Yohei

主に小説を書いています。たまに小説以外も書くかもしれません。更新は不定期です。twitter は@sonovel199へ。

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  • 園江のぼやき部屋

    音楽や本についての所感、その他諸々ぼやきます。気分を害しても、謝りません。

  • 【短編集】『白狐』

  • 妄想お悩み相談室

    こちら妄想お悩み相談室です。リアルのお悩みお断りの、ちょっと変わった相談室。でも、ちょっと変わっているからこそのお悩みを受け付けています。今日は、どんなご相談が寄せられているのでしょうか。

  • 【連載小説】『晴子』

    全33本

  • 読み切り小説集

    すぐ読める短編を集めました。

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【連載短編】『白狐』1

 自転車で通学しているせいで、いつも風向きを気にして走る癖がついてしまった。自転車を漕ぐ人にとって、向かい風か追い風かは目的地に到着した時の体力の残量に大きく関わる。母親にこのとこを話すと、「若いうちからそんなこと言っててどうすんの?」と軽くあしらわれた後、自分の身体が若い頃に比べていかに老いたか、それに比べたら高校生の俺の体力がいかに有り余っていて、それがいかにありがたいことなのかについて長いスピーチを聞かされる。それでもやっぱりこの主張は譲れない。  幸い今日は追い風だ。

    • 【エッセイ】政治的左右盲

       幼い頃、僕は右と左の判断が他人よりも一瞬遅かった。今でも、友人を隣に乗せて車を運転している時に、突然「次を左ね」とか、「ここを右」とか言われると、瞬時に反応できない。別に、左右の判断が遅いのは確かだが、左右が分からないわけではない。時間をかければ(本当に取るに足らないほどの時間をかけさえすれば)、正しく左右を判断できる。  このことに「左右盲」という名前があることを知ったのは、つい最近のことだ。左利きの人や、幼少期に利き手を矯正された人がそうなりやすいらしいが、はっきりとし

      • 【エッセイ】雨のち晴れ

         夏の夕方。一日の暑さが盛りを過ぎようとする頃。  ポケットの中の携帯が長く震えた。着信の画面を見ると、中学の同級生の名前が示されていた。俺にとって特別に用がある相手ではなかった。恐らくそれは向こうも同じ。要するに、唐突な連絡だった。  電話に出ると、向こうはどうやら騒がしい。声が聞こえてくる。意外にも懐かしいとは思わなかった。  どうやら電話の相手である彼は、中学の頃の同級生数人と飲んでいて、その場にいない同級生に片っ端から電話をかけていたそうだ。 ——今どこに住んでんの?

        • 【散文】「金縛りの少し前から」

           深夜2時頃。インターホンが鳴った。この時間の来客なんて、明らかに不審だと思った。俺とどういう関係なのかは分からないが、一緒に暮らしている女の人が(夢の中で、俺は明確にそうと認識していた)、俺に先立って玄関に向かい、来客に対応しようとした。俺が玄関に着く頃には、ドアを開けていくらか言葉を交わしていた。俺はこのあまりに不審な来客に対して、念のため気狂いを装って、低く不気味な唸り声をあげながら姿を現した。なんてことはない。客は宅配便だった。  でも、なぜ彼らは二人いたのだろう?

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        【連載短編】『白狐』1

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          【エッセイ】男のにおいと警察―男性向け香水に好意的な理由

           先日、大学院の仲間と一緒にとある洋食店に入った。昼時ということもあってか、また店内の瀟洒な雰囲気もあってか、客は女性が多かった。中年の婦人たちは家族の話を、子連れの母親は子どもの様子に気を配りながらママ友との話に花を咲かせ(ベビーカーにのった女の子に向かってこっそり頓狂な顔をしてみたが、笑ってもらえなかった)、大学生くらいの女の子たちは恋人の愚痴や友人のちょっとしたスキャンダルを交換し合っていた。  食事が終わって少しくつろいでいたのだが、トイレに行きたくなって席を立った。

          【エッセイ】男のにおいと警察―男性向け香水に好意的な理由

          【エッセイ】「家に帰りたくない」

           今、大学の図書館にいる。別にここは、居心地がいい訳ではないけど、特別悪い訳でもない。  ふと、「家に帰りたくない」と思った。それがどうしてかは、分からない。ネットで検索してみると、僕みたいな一人暮らしで独身の男性が「家に帰りたくない」と思う理由の大半は寂しいから、らしい。  自宅に帰っても誰もいない。迎えてくれる誰かがいない。今日一日のお互いを労い合う誰かがいない。電気の点いていない真っ暗な部屋に明かりを灯すのも、夕飯の匂いを漂わせるのも、全て自分から、自分のために、自分で

          【エッセイ】「家に帰りたくない」

          【連載短編】『白狐』12

          「吉田さん」  トイレを出てすぐ、後ろから声をかけられた。  振り返る前に、それが八尾君の声だと分かった。 「びっくりした」  びっくりしたのは事実だった。彼は学生時代、私を下の名前で呼んでいたからだ。 「ごめんごめん」  どこか照れ臭そうに笑う彼の身元には、遠くから見た時には気付かなかった細かい皺があった。近くで見ると、彼も着実に年齢を重ねているのが分かった。  しばらく、沈黙があった。多分、お互いに沈黙の理由は分かっていた。どこか照れ臭くもあり、どことなく後ろめたいような

          【連載短編】『白狐』12

          【連載短編】『白狐』11

           八尾君が現れたのは、同窓会がまもなく始まろうという時だった。  司会の幹事が会場に呼びかけ、教員代表のあいさつと乾杯を促したとき、会場の後ろの派手な扉がひらりと動いた。  細身の体にぴったりと合ったスーツを着て、短く揃えた髪をグリースで整えた八尾君の姿が現れた。遠目から見ても分かるくらい白髪が混じっているが、身体は50間近の男にしてはかなりほっそりとしていて、顔も若々しかった。  歓談の時間になると、八尾君の周りには色んな人が集まった。約30年ぶりの再会という人もいるのだか

          【連載短編】『白狐』11

          【連載短編】『白狐』10

           私と八尾君が付き合い始めた時、私たちはお互い高校2年生だった。  高校生にも恋人がいることがそんなに珍しくない時代のことで、校内にもそれなりに成立しているカップルもいた。私たちの高校は色恋沙汰が好きな人が多くて、恋愛事情がどこからともなく耳に入ってくるような、そんな学校だった。単純にそれが楽しかったというのもあるが、もっと言うと人を好きになることにものすごく無邪気だったんだと思う。  みんな随分と無邪気に人を好きになった。私も同じように八尾君のことが好きだった。私の友達も、

          【連載短編】『白狐』10

          【連載短編】『白狐』9

           ホテルの駐車場を何周もして、ようやく空きが見つかった。  どうして今日に限って、こんなに車が埋まっているのだろう。ホテルというのはどこでも金曜日の夜は人が多いものなのだろうか。  徳島は車社会で、電車やバスもあることにはあるがそれを利用することはめったにない。私の住む、そして私の故郷でもある町に至っては、18を超えたら車がなければ生きていけない。車が多いこの土地では、ホテルの駐車場はすぐに埋まってしまうのかもしれない。  車を停めてエンジンを止める。少し早く着きすぎた。  

          【連載短編】『白狐』9

          【連載短編】『白狐』8

           鳥居の前で二人して立ち止まった。  本殿に続く石の階段は長く続いていて、その上を高く伸びる木が覆いかぶさっていた。その木にはもう葉があまり付いていないことが暗い中でも分かったのは、風が吹いても葉擦れではなく、枝が空を切るような乾いた音しかしなかったからだ。階段を上った先に、本殿のシルエットがぼんやりと浮かんでいる。 「ここでいいんよな?」  清水はこれには答えなかった。スマホの地図を確認しながらやってきたのは俺だから、清水に聞くのは間違っている。それでもそう聞いたのは、そう

          【連載短編】『白狐』8

          【エッセイ】サボテンレコード

           大学時代の友人が結婚した。  その友人とは、大学時代に同じ軽音楽部に所属していた。彼の結婚相手は、同じクラブの1つ上の先輩だったから、俺も面識のある相手だ。二人は学生時代から付き合っていた。彼らの仲は部内では周知のことだった。そんな二人の仲が、卒業した後も続いていて、結婚にまで至ったのだ。なんとも感慨深いものがある。  その友人は、俺の大学生活を語るには欠かせない人間だ。  彼と初めて会った時の事を覚えている。部内の新歓の集まりでのことだった。その時、彼は長い金髪のパーマで

          【エッセイ】サボテンレコード

          【連載短編】『白狐』7

           街灯に白い息。  俺は自転車を漕ぎながら、彼女は本当に来るだろうかと思った。彼女の真面目さはどちらにはたらいても不思議ではなかった。「約束はちゃんと守らなきゃダメです」といって、律儀に待ち合わせに時間通り来る可能性が半分。「すみません。やっぱり夜遅くに外出は危ないので、やめませんか? 私から言っておいて、本当にすみません」こんなメールが来る可能性が半分。どちらも同じ理由でありえることだった。  学校の横を通りすぎる。分厚いダウンジャケットや首に巻いたマフラーが挙動を妨げる感

          【連載短編】『白狐』7

          【連載短編】『白狐』6

           親のたてる物音は、どうしてこんなにも煩わしく感じられるのだろう。  反抗期は既に終わっても、彼らのたてる物音がやはり好きじゃない。皿が重なる音、足音、唐突な深いため息、洗濯物を干したり取り込んだりする音、車のドアを閉める音、雨戸を開け閉めする時の音。  親がたてる物音は、自分が人生で一番なじみ深い分、ただの物音として処理することができない何かがある。 「お帰り」 「ただいま」  仕事から帰ってきた母親が、玄関で靴を脱ぐ。 「もう、ちょっと聞いてや。大変なんよ、仕事が」  母

          【連載短編】『白狐』6

          【連載短編】『白狐』5

           終業式の日は、12月をさらに冷やす雨だった。  午前中で下校になった俺は、昇降口で清水を待っていた。彼女のクラスのホームルームが長引いているらしい。なかなか彼女が現れない。  ホームルームが終わって、先生に呼び止められた。 「神谷。ちょっとええか?」  俺は先生と一緒に廊下に出た。わざわざ2学期最後の日に呼び出されるようなことをしただろうか。俺には心当たりがなかった。俺は少し身構えていたが、それをあっさり見破られた。 「まあ、そう肩肘張らんと」  先生はそう言って俺の肩を軽

          【連載短編】『白狐』5

          【連載短編】『白狐』4

           放課後のホームルームで、教師がもうすぐ始まる冬休みについての話をしている。  年末年始はダラダラ過ごさないこと。家の手伝いもやること。勉強を怠らないこと。大体この時期に言われることは代わり映えのしないものだ。中学、いや、もしかしたら小学校からずっと、似たようなことを忠告される。  俺の今の席は窓側で、外の校庭を眺めやすい。気に入っている席だが、外に近い分この季節は教室の中では寒い席になる。俺は洟をすすりながら、外の方をボーっと眺めていた。晴れ間がのぞいているが、冬の分厚い鉛

          【連載短編】『白狐』4