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冬と春の帰り道 1693文字#シロクマ文芸部

振り返ると、君が居る。
「真冬君、今日は部活どうだった?」

「うん。楽しかったよ。練習はキツかったけどね」

「やだな〜真冬君。キツイのに楽しかったって、ん?さては、ドMなのかな〜」

「違うよ。まったく」

俺は振り返っていた体を前に戻し、歩幅を広くして前へと進んでいく。

「あっ、!ごめん!待ってよ真冬君!!」

春と俺の出会いは、高校一年生の時に席が後ろ前だった事がきっかけだ。
俺はあまり目立つ存在ではなく、どちらかというと地味な生徒だった。

前髪も少し長く、眼鏡をかけていた事も、何となく自分の中で自分をそういう位置づけに置いていた様に思う。

春はそんな俺に気さくに話しかけてきた。最初は何で?と思っていたものの、春と会話をすることは自分にとってとても心地の良いものへと変わっていき、俺の中に小さな恋心が芽生えた時だった。

そんな俺は、今は部活でバスケット部に入っている。
長かった前髪もバッサリ切り、眼鏡も邪魔だからとコンタクトに変わった。
バスケ部に入ったきっかけは、俺の友達の児玉から「帰宅部なら入部してほしくれない?」という誘いからだった。

俺の高校のバスケ部は全学年で5人しか人数がおらず、おまけに弱小校。5人で試合は出来るものの、もし何かあった時の控えが欲しいと思っているという内容。

俺は特に気にもせず、毎日退屈にしていたし、それに、小学生の頃にミニバスに所属していた事があった為、入部をOKした。両親にこのことを話すと、とても喜んでくれ「その前髪を切ろう」とか、
「眼鏡じゃなくてコンタクトにしなきゃ」と、あれよあれよとバスケ部入部の準備が整っていった。

本当は中学校でもバスケをしていたけれど、ムカつく先輩が多くて辞め、その後は科学部に入っていた。
なまった体での部活は最初はキツかったが、段々とあの頃の感覚は蘇ってきて、今ではエースなんて呼ばれてしまっているし、万年初戦敗退だったうちの部が、初戦を突破し2回戦まで突破したときは盛り上がってしまった。

そんな事を経験してか指揮も上がり、人数は少ないながらも部員の実力はメキメキと上達していっている。

そんな俺の事を誰よりも喜んでくれたのが春だった。
春はとても可愛いい顔で「すごーい、すごーい」と褒めてくれた。
春は帰宅部ではあるが、成績優秀で頭もいい春は、バイトで小学生に簡単な勉強を教えている。生徒からはわかりやすいと評判らしい。

そんな春とは、たまにこうして俺の部活が終わるまで春が待ってくれて、一緒に帰る日がある。
スマホに『今日一緒に帰ろう!』とわざわざ連絡してくるのが不思議ではあるが、俺はそんな連絡が来るのが待ち遠しくもある。

といっても、俺と春は恋人同士ではないし、春がどう思っているかもわからないままなのだが。

「真冬君!まだ、怒ってるの…?」

先を行っていた俺に追いつき追い越し、春が俺の目の前に立って上目遣いで確認してくる。

………可愛過ぎる、……

「別に。もう怒ってないよ」

「本当にっ!」

「こんな事で嘘なんかいうかよ〜」

そういうと、春は嬉しそうに笑い、俺の隣で歩きはじめる。

こんな日々が、ずっと続けばいい。
春の隣にいられることは、なんて幸せな事なんだろう。

もし、告白したら何かが変わってしまうのだろうか?
そう思うと、何だか怖い。
今の関係を続けていたほうが良いのだろうか。……でも、こういう関係で、結局は、結ばれないドラマや映画を散々見てきた。俺は、そんな二の舞いにはなりたくない。





「ねえ、春……………」

「うん?何?」

俺は、春と並んで進めていた足をとめ、春は少し振り返る。

「もし、もし、俺が、春のことを好きだって言ったら、俺達の今の関係は、変わる?」

「えっ……?」

「俺が、春のことを好きだっていったら、俺達の関係は変わっちゃうのかな……」

少しの沈黙があった後、春が答えた。

「…………変わるよ…」

「………っ!えっ………、…」

「だって、友人から、彼氏彼女になるんだから…」

そういった後、春は軽くステップをするように先に進み始めてしまう。

「あっ!春っ!待って!!」

俺はドキドキ鼓動を打っている心臓の音を聞きながら、先を行った春の隣へと、また向かうのだった。


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