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90私が覚えていなくても…(エッセイ)

父方の祖母のお葬式の時のお話。
父は地元から離れて暮らしているので、親戚の方々と会う機会は、まったくと言っていい程なく、顔も良く知らず、覚えていなかった。
お葬式が始まる前、父の従兄弟であるマチコさん(仮名)と少し話す時があった。傍らには母がいて二人でこんな事を話していた。
「娘さんと会ったのって、まだ赤ちゃんの時でしたよね」
「そうですね!赤ちゃんの時だったとおもいます。もうこんな大きくなりましたけど、」
「やっぱり、そうですよね。赤ちゃんの時抱っこしましたもの」
……なーんてお話。
私には全くと言っていい程記憶にない。
もちろん、赤ん坊だったのだからそんなの当たり前のことだ。
けれど、私が覚えていない出来事を誰かが憶えているということに、なんだか切なさと温かさを感じたのだ。
私は覚えていない。けれど、私は確かにマチコさんに赤ん坊の頃抱っこされた。
その時マチコさんはどんな顔をしていただろう。どんなことを感じただろう。
私は赤ん坊の頃、少しでも誰かに癒やしを与えてあげられていただろうか?
私を抱っこした人は、優しい顔で見つめてくれていたのだろうか?
考えだしたらキリがないが、私が覚えていてなくても、記憶になくても、ちょっとした事でも誰かが覚えてくれている。そんな当たり前で、でも尊く、温かいものを少し、心が味わった気がする。

私自身も相手は覚えていなくても、私が覚えているものはこれからきっと増えてくる。そんな記憶たちは、温かく優しいものたちばかりではないと思うけれど、
私の中には確かに残ってる。
忘れたりなんかしない。
そう、伝えるときは来るのだろうか?



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