ビジネス系自己啓発本として読む『構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌』
毀誉褒貶の激しい竹中平蔵氏。
しかし郵政民営化と不良債権処理という大仕事を成し遂げた功績は否めない。なぜそのような大仕事が可能だったのか。その過程を学ぶことは、国政ほどスケールの大きな仕事ではなくても、社会人として誇りの持てる業績を上げるための手助けになるであろう。
何か、私の仕事に役立つ知見はないか。という問題意識を持って読むと、様々な学びが得られる。その一端を紹介したい。
通常の仕事・業務をこなす際に、つい目の前のタスクに集中し、その背後にある「目的」や「理論」をつい忘れがちになる。まあ、普通はそれらを忘れたまま社会人人生を終わるのだが、「タスク ⇔ 理論」を意識しながら仕事を進めることができたら、社会人生活の充実度はいかばかりか。その第一歩が、書くこと。タスク内容を書き出す、要旨をまとめる、疑問を感じていることを列挙する、他部への要望事項をリスト化する。自ら書いたものに説得力を持たせるため、おのずと理論に目を光らせるようになる。
上記の「タスク ⇔ 理論」。いずれも重要だが、多くの社会人はタスクに集中し、理論は無視。一部の「理論派」は現場の事情を無視して理論を説くため、煙たがられる。そのバランスが重要だろう。
普通の企業においても、異なる利害関係を持つ者同士が時には対立し、時には協力し合う。竹中氏が政界で経験した日本社会の縮図のような対立の構図・・・そこから学べることは多い。
この「戦略合宿」についてはたびたび言及され、「これがあったから速やかに検討委員会が動き出した」等、その成果が強調されている。
多くの社会人は、真剣に議論する、ということを軽視している。
「議論する暇があったら手を動かせ」「客と会ってなんぼ。経験を積むにつれて智慧がつくのだ」
考えずに流されるように仕事をこなしてしまうのが日本的組織の特徴。
担当者が何時間もかけて資料を作り、部長に決裁を求めている事項が、実は①過去に否決されたことがなく有名無実化している、②実質的な検討は既に他部で行われている、というのが日本大企業のアルアル。
社内で影響力を及ぼすには社内規則の理解は重要。特に銀行の場合、社内規則は金融庁のガイドライン、バーゼル規制、現地法制度などと密接に結びついており、この理解なしに社内変革を起こすことはできない。エリート街道を進みたいなら軽視できないのが社内規則。
さらに上級編として、その社内規則を絶対視するのではなく、その功罪を評価し、論じることができなければならない。
このように仕事を進めたいもの。特に大きなプロジェクトについて綿密な計画を立てるメリットは大きい。しかし、たいていの場合は大まかなマイルストーンだけで管理され、細かい工程については行き当たりばったりになることが多く、思わぬ遅延、思わぬ障害に出くわすことになる。そして周りにこう思われる。「あいつは詰めが甘い。」
このような状況で武者震いが起こるか、あるいは縮こまってしまうかが運命の分かれ目。
竹中氏は郵政民営化に取り組みにあたり、「活性化の原則」「整合性の原則」など5原則を定めている。大仕事をスムーズに進めるためには、このような、いつでも立ち返って振り返ることができる「原則」を定めておく。
これは難易度の高い交渉に臨むときに有効。譲れない大原則は何か。その大原則を支えるロジックは何か。それを整理して頭に入れておくと焦点を外すことなく、ブレない交渉が可能となる。
どれだけ仕事ができる人でも、リラックスする時間は必要だし、リラックスする瞬間に実はブレークスルーが起こる、という好例。
自分のチーム、趣旨に賛同し協力を期待できる同僚、社内横断的ネットワーク上の信頼できる仲間、これらを利用して戦略を練る。フルに関わってもらう必要はなく、適所でそれぞれの知見に応じたフィードバックをもらうだけで、戦略に穴が無くなり、輝度が増す。
次に部内で影響力を持つキーパーソンへの根回し。異論に対する防波堤にするとともに、議論の過程で自らの戦略に磨きをかけることが可能となる。
最後にマネジメントの賛同。典型的には自分の部署の部長や担当取締役の賛同を得ることにより、社内のどの部も貴方の戦略を真剣に検討すべき立場に追い込まれる。
この三点セットを備えるように心掛けたい。当たり前だが、この三点セットは当たり前に得られるものではなく、これを得るために大きな努力が必要。
会社員の方は、部署ごとにそれぞれの目標を負い、必ずしもその目標間の整合性が取れていないことを経験済みだと思う。経営陣への報告についてもそれぞれが独自に行い、重複や矛盾が発生している。この両部を俯瞰できる立場にあれば、どれだけの業務効率化提案が可能だろうか。そして、そのような提案は、部の利益をある程度優先せざるを得ない部長陣よりも、むしろ中堅部員の方が、俯瞰する目を持ち得るのである。
改革に関して、理想的解決策を示すことは簡単。しかし、そのような解決策は「現実的にはなかなかハードルが高いですね」「もう少し慎重に検討しましょう」と言われて、なかなか前には進まないもの。しかし、目の前にある届きそうな提案については、理想論にかこつけた反論が難しく、現実的に想定される仕事の内容まで想像しながら、可能性を探らざるを得なくなる。
理想的解決策は、分割して現実的解決策の集合体にトランスフォームすることにより、最終的な理想的解決策に近づくための貴重な第一歩にすることができる。
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仮に竹中平蔵氏がこれらの改革に取り組んでいる際に、秘書として付きっきりで行動し、周りの圧力を肌で感じることができたら、そこから得られる経験値は恐ろしく高いであろう。
それは望むべくもないので、次善の策としてこの本を読むのである。実際に肌で感じるのとは次元が違うが、これまでの自らの仕事や人生の経験をもとに、著書が経験したことを自分なりに想像・追体験することにより大きな知見が得られることが必定である。
これが、並みのビジネス書を読むよりもはるかに多くを学ぶことができる所以である。
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