見出し画像

壊れた脳 生存する知(著:山田規畝子)【読書紹介なのが、若干春めいて、すると降り方からしてこれまでの単語帳がざわざわ冷たいですね】

医学ネタ。
もやもや病というのがありまして、脳の血管がおかしな形で出来てしまっているので、そこで脳内出血を起こして大変なことになったとある女医。

その後、リハビリに成功して回復するのですが、
しばらくは高次脳機能障害で身動きもままならない状態だったようです。

この状態って、外部からは観察できるのですが、実際にそうなった中の人(こういう表現を使う時がきたか)がどう体験しているのかは、皆目わからない状態というのが基本でした。

おそらく何も感じてないのだろうとか、
条件反射で反応しているだけとか、
いわゆる植物状態とか。

しかし著者は医師。
しかも回復して自己の体験を語れるような状態になったので、
世界の医学者や脳生理学者がよだれを垂らすような体験記を書けるようになったのです。

それがこちらです。

脳というのは場所によって担当する範囲が決まっておりまして、
前の方ならこれ。横の方ならこれとやる作業範囲が決まっています。
だから障害が起きた部分によって、できることとできないことが不思議な分かれ方をするんですね。

医学の不思議な国にやってきた。という感じです。

意味不明な言葉が勝手に流れ出て制御できないハイパーラリア。
(ウェルニッケ失語と違いがよくわからない当方素人大陸)

ヒトの顔が認識できない相貌失認。
なぜか特定の作業だけがふしぎとできない。
和式便器で用を足そうとすると足を突っ込んでしまう。
なぜか足が両サイドには行かない。

モノの形が変な風に視える。
奥行きがわからず、絵の具をぶちまけたように視えるのでぶつかりそうで歩けない。ところが触ると形がわかるので、ああこれか、という風に動けるようになる。
視えてはいるんだけど万華鏡のようにしか視えないので、手で触りながら移動する。

プレートの上に乗っかった料理が、見分けできないので、食べ物が無い部分にむかってフォークを突き刺してしまう。これも手で触ると識別できます。
こうなるとナポリタンとかぐっちゃり系を食べるときは最悪の様相を呈します。

ちょっと本が手元にないので、思い出した限りですが。
(この本の内容以外から入手した情報も入ってしまっていると思います)

これが高次脳機能障害という世界なんですね。

よくバイク事故とかで「残念ですが植物状態です」みたいな言い方があるそうなのですが。

意識が取り戻すまでの間も、まったく何も感じない状態から、
薄明かりでなんとなく側で誰かが話しているのが聞こえているという段階、
さらには目覚めているけど理解できない、
さらに目覚めているし理解もできるけど体が動かない。
さらに眼だけは動かせるとか(巌窟王の話で出てくるアレですね)

という感じでグラデーションがあるみたいなのです。

脳が部分的にダウンしたときの感じは、こんな感じなのか?

しかも医師なので医学の用語で語ってくれるという、
こういうのは貴重な資料になるようなのです。
専門は整形外科なので脳とは直接関係ない部分みたいのですが。

・・・・・
足が無い人が歩けないのは見ればわかるし、
眼が見えない人がうまく歩けないのも、視ればわかります。
しかし、発達障害みたいなのもそうですが、
脳が障害だと、社会の無理解に苦しまされますね。
普通の人が当たり前にできることがなぜかできない。
トムクルーズとかスピルバーグは難読症でしたが、
日本だったら大成できないかも、と考えてしまいます。

日本の社会は外見的に識別できない落差に対して、信じられないほど無知で冷たいところがあると感じることがしばしばあります。
おそらく世界でいちばん他人に冷たい民族のひとつかもしれない。

みんな同じが当たり前って、もしかすると人種差別とかよりもきついかもしれません。
どれだけ差別されても、その理由が外見から分かる理由なら、まだ耐えられるのかもしれない。
肌の色より、脳で差別される方がつらくないですか?
ぜんぶ自己責任だって言われるんですよ。
障害になったお前が悪いって。

とかなんとか、そんなことをつらつら考えることもあります。

****
それにしても、この本をどこへやったか?
見当たらないんだよなー。

#読書感想文 #医学 #ノンフィクション #医師の体験記 #脳  
#高次脳機能障害 #植物状態 #回復 #脳部位による障害  
#容貌失認 #ハイパーラリア #ウェルニッケ失語  
#クモ膜下出血 #もやもや病 #巌窟王 #モンテクリスト伯  
#医学的に貴重な体験記 #リハビリ #リハビリの問題点  
#見えない障碍者 #障碍者差別 #難読症 #社会の性質  
#貴重な意見 #半側空間無視 #回復 #アナログ時計が読めない  
#病気  

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?