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戦闘霊ベルゼバブ(SF連載小説)「第3次戦闘」

その星はほとんどが白い砂でおおわれている感じだった。
ただ一部分にのみ青い糸のような線があった。
バルフの海だ。
極地方にはいくつかの火山があるがほとんどは不活発。ただ痘痕のような高さを示しているだけ。雲は。
雲は青い線の上にわずかにあるだけ。
水循環とかどうしてるんだろう?
とクリスマスローズはふしぎに思った。
自分が少し前に過ごしていた世界を思い出して、あの世界はどうなったろう。友達はどうなったろう、と思い返す。宇宙航行種族にとってはつい昨日のことでも、惑星種族にとっては文明が交代するほどの時が経過している。
まあでも思い悩んでいる暇はない。
そのまま上位宇宙速度で惑星にピンポイントで体当たりする軌道を取る。
遺憾ではあるが、状況から奇襲の優位は放棄しなければいけない。
「現地民が攻撃されている。救助を優先せよ」とザリンが命令したからだ。
理不尽とは思わない。むしろ興奮した。ようやくこの翼を使い倒すことができるといううれしさの方が勝る。あるいはこれは機械化種族の本能なのかもしれないが。
惑星衝突コースを最大速度で飛んでくる隕石のようなものを見て、すべての勢力が「何かが来る!」ということを認知した。

サナック機を落とそうとしていた機体は、角度を変え、迎撃の姿勢を取った。
この新しい未確認機体は、この星の現地勢力、原住民勢力とは違う。
自分たちと同等近い戦力を持っていると一瞬で察知。そちらの迎撃を優先する。
今度は無人機ではない。
アシンメトリーの角を前方後方に互い違いでくっつけて、申し訳程度の翼を付けた形状をしている「天翔ける奇抜」ツヴァイコーンがその牙をクリスに向けた。
シズ共同体の汎用機体モデルだ。こちらも同じくスキールモルフ。
ただしシズ自身は自分たちのことをリクターと呼んでいる。
人類を守護するもの。そういう意味だ。
そういう風にしつけられているからだが、クリスにはよくわからない。
百歩譲って私たちは人類外だとしても、バルフィンは人類じゃないの?
彼らは肉の体を持っており、投影物質で出来たほころびない自分たちの躯体とは違う。
まあ、敵の信念体系などを気にしても仕方なかった。
自分たちと違いシズは必ず母艦が同行しているから、リブートできるだろう。
まあ遠慮することなど機械化種族の思念にはない。
弾幕射撃。
反物質転送弾を斉射するが、もちろん遠すぎてまったく当たらない。
敵ツヴァイコーンの半径数百キロ以内でまばゆい爆発が起きるだけだ。
火力は小さめにして連射速度を上げているつもりだがやはりかすりもしない。
そのまま惑星衝突コース。
時間的限界地点に達して、ひっくり返って重力スラストを逆向きにする。
目の前の空間が歪むのを目視で確認できるほどの強度で重力傾斜が発生。強力なブレーキをかけるがこれでは的だ。逃すことなくツヴァイコーンが射撃に入る。
着弾。クリスは爆散した。はずだった。

実のところ、投影物質の機体を自ら爆砕して飛散膜を作り、むしろ質量はそちらの方が大きかったので照準はそちらについて。そうしてより小さい本体はまんまと被弾を免れたのである。とはいえシズも一瞬の後にそのことに気がつき刹那で対応してくる。
そうこうしているうちに見えない宇宙空間を比較的穏やかに飛来してきたザリン機とネーネ機によって遠隔からの射撃も開始された。
特にザリン機の照準は至近となり、シズ側の2機は回避機動を取る必要が生じた。
ただ軌道上にもシズは待機状態の2機を忍ばせていた。こちらが射撃位置に入る。
だが戦闘開始前に早くも更なる別軌道を取っていたビャクダン機によって一機が炎上する。

「くそ、今一歩だったのに」しまんとは呻いた。
“しまんと”はシズ共同体の巡洋艦クラス、かつての庇護者たちの歴戦の名鑑から名前を受け継いでいる第1世代艦の1人だ。僚機もそれぞれ“コンステレーション”“バルフルール”“あきつしま”とそれぞれ伝説の名称を受け継いだモデルたち。
だが“バルフルール”が被弾し、フォルムマテライザの損傷まで受けてしまったので、戦場を離脱するしかない。あきつしまがそれを補佐する。
「役立たず、なんのためのカヴァーだ」
一方で敵の一番機は何度も被弾させた割には大きな損傷を受けているようには見えない。完全に釣られているというか。“しまんと”は我慢できずののしってしまった。本当は良くない。
“バル”と“あき”が不甲斐無さ過ぎると“しまんと”には感じてしまう。
いつもこういうところがある。
ステルンにたいしてスペック的には決して劣ってはいないはずなのに、実戦となるとなぜか遅れをとる。もどかしい。あいつらと自分たちとどこが違う?
「逆に下に降りよう。今昇っても頭を叩かれるだけ」
“コンステレーション”の素早い判断に、その通りと感じて、しまんとの気分が晴れやかになる。さすが僚機。私よりも頭がいい。こうでなくちゃ。
しまんとは自分が頭に血が昇りやすいのが美点だと思ってる熱血漢だが、それを冷静に諭してくれるパートナーが適していると思っていた。
地上付近にまで降下すると射撃が止んだ。識別が難しくなったのと、彼らにも人口惑星を無駄に傷つけないという意識が働いているからだろう。
ただこのまま周辺の空を抑えられる前に反対側からでも逃げ出さないと、まずいことになる。最悪、脱出のために味方が応援を出してくれることを期待しなければいけない。あまりの不覚さみじめさに体の中で泣いた。
この屈辱を“しまんと”が忘れることはない。

一方、再生をして再飛行できるようになったクリス機は、惑星への衝突コース、を少しかすめるようなコースに変更。エネルギーをそのまま利用して再び上空に上がる。彼女の目的は敵の攻撃を引き付けることにあり、その役割はこなした。

代わりにザリン機とネーネ機が下に降りる。
相手が下に降りている以上、こちらも下に降りないと難しい。
狙撃能力が双方にあるため、位置エネルギーの有無では勝敗が決定的ではない。
決定的な勝利で止めを刺すためには「古代的なドッグファイトの時間だよ」ネーネが言ったとおりに。ネーネだけが語る古代のトップエースたちの戦いの範例。
実を言うと自信があった。
宇宙区間での狙撃戦の方がメインと思われているかもしれないが、惑星侵攻防空戦闘団という空にちなんだ部隊名が付けられている故は、流体圏内戦闘の特別習熟をしていることにある。宇宙空間での狙撃戦だけでも優勢ではあった。といって狙撃なら相手の方にも強みがあったかもしれない。何より通常はそっちの戦いしかない。
だが翼を使った戦いならそれはゆるぎない自信になる。
飛ぶ戦いなら負けない。

通常であれば2対2の戦いはどちらかがカヴァーに入れるように、片方は上に留まる。
しかしこの空戦においては例外的に4機がすべてインファイトゾーンに乱入した。
ステルン側ビルキースの大きな翼を見て、ツヴァイコーンの空力学的不利を“コニー”が慮ったからだが、一瞬のことだったので“しまんと”も制止する余裕がなかった。
フィシュと呼ばれる過去にミサイルとされてたものに近い誘導弾を素早く大量に打ち放って、さらにフィシュがさらに小さなセルフィシュをばら撒く。表面的には10機以上が空戦しているようにすら見える。
シズ側の目標は相手側が上位軌道を占めていない空から離脱することに、すでに目標が切り替わっている。
ネーネ機がまずはフィシュの群れよりも先に飛び出すような形で肉薄した。通常とは逆の発想である。相手の数百メートル圏内まで突撃し直接昇順で転送弾を絞り放つ。ぎりぎりのところで“しまんと”は回避した。“しまんと”から発射されたフィシュがネーネ機に突っ込む直前のをザリン機が撃ち落とす。ザリン機の横に“コニー”がつけて攻撃。ザリン機は機体をねじって回避した。

遠方から観測していたサナック大尉にもこの空戦については理解できた。
とはいえ、火力と速度はやはり及ぶところではない。飛行する機体群は時折直角に近い速度で角度を変える。自分たちの機体で同じことをやればあっさり空中分解するだろう。

でも、これだったらまだ介入できるんじゃないか?
と少しだけ考えた。サナック大尉は自分の機体を、無謀にも戦闘空域に向けた。

“しまんと”はマイクロ秒単位で自分に近づいてくる避けがたいフィシュ4発を迎撃破壊、ただし彼女は自分の遅さに同時にいらつく。もっと早く反応できるはずなのに!
斜めに飛来するネーネ機を見た“しまんと”は角を傾けて射撃。もはや転送弾ではない。弾丸は曳光弾だ。この戦いで初めて使われる質量砲弾である。それで幕を作ったつもりで、当然、ネーネ機は翼の位置を変えて、急角度で回避する。回避させたのだ。そこを狙う。
だがそのつもりで、“しまんと”は逆に被弾した。
周辺視野を巡らせると敵のもう1機は“コニー”が引き付けている。こいつじゃない。
ネーネ機からの攻撃だった。
ネーネ機が弾幕を使われた場所と意図を逆に読み取って攻撃したのだ。
いわく「手を出した瞬間を狙え」という武術の心得に近い技を使うネーネ。
「降りて、“しま“」
”コニー“が叫んだ。言われたとおりに”しまんと“は急下降する。

一方、“コニー”こと“コンステレーション”は、自らをザリン機に近づけて、その瞬間に加速した。ただの加速ではない。天文学的な最大加速だ。
もちろん流体圏でそれをやればどうなるか。覚悟の上。
“コンステレーション”は衝撃に耐えられず、プラズマ素粒子(グラズマ)の雲になった。
実質的な自爆。そしてザリン機はそれに巻き込まれた。
ザリン機の機体はねじ折れた。

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