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戦闘霊ベルゼバブ(SF連載小説)「第2次戦闘」

第628惑星侵攻防空戦闘団。要するに何でも屋だ。
同胞と思われる種族の惑星を無差別に守り、しかし場合によっては敵性勢力から解放すること。
使用する機材はたった4機のスキールモルフ、ビルキース。
無限動力期間をもっているからゆえの、支援母艦などは存在しない独立遊撃小隊だ。
無限アーク転送エンジンはどこまでも宇宙を駆けることを約束してくれる。
しかし支援母艦無しの場合にはデメリットがある。
戦闘中撃破された場合のリブートが効かないことだ。
機械化種族であるスキールモルフは、バックアップ人格から自己を再生できる。
クリスマスローズが再生したアーカーシャ力場を使用する方法は、通常バックアップルートを迂回するイレギュラーなものだ。通常はやり直しだが、クリスのはほとんど生まれ変わりに近い、支援母艦を持たぬゆえの荒療治だ。

「まあセーブポイントみたいなものだね」
小隊のナンバー2、ネーネが言った。
彼女は古い人工知性で、そのルーツは21世紀初頭にまで遡れる。
本当かどうかは誰も知らない。そもそもそんな歴史区分があったことさえ本人が主張しているだけで、どのような根拠もない。
ネーネはステルン宇宙軍でのトップエースにして最大の問題児。
その功罪によって中佐から二等兵まで常に行ったり来たりしている。
功績が無ければ消去刑を受けてるかもしれないくらい。
「あ、セーブポイントって知ってる?いやあ、この期に及んでゲーム解説ができる日がくるとは、おねーさんはうれしい!」
21世紀初頭のゲーム事情について語りたいらしい。
「いやね。あたしは結婚してからも旦那と息子たちと一緒にクリスマスゲーム大会を必ず開催しないと新年が迎えられないという体質で」

「そこ、無駄口をたたかない」
注意したのは小隊長、ザリンタージュ。
とある放射線量の多い惑星出身の彼女はクリスマスローズと同じ黒い肌。
ただクリスとは違い、体の内部も全体的に黒い。
クリスの肌が黒いのは、ララフリヤ大陸から連れてこられた奴隷の子孫だからで、由来も所以も違う。
放射線量の高い惑星で生命体として生きていくための適応だ。
スキールモルフになった今は、ただの外装でしかないけど。
厳しく有能な小隊長、しかしその実態は、
誰もいないところではネーネに甘える妹のような態度を見せる。
ネーネの名前がネーネなのは、最初はこの人の姉妹だからだと思ってた。
しかしみんながいるところではちゃんとしたリーダー。
「今は作戦中なのよ。誰かが耳を済ましていたらどうするの?」

目的とする星系の進行途中、まだその太陽系のオールトの雲を超えるか超えないかくらいだ。
「この辺には誰もいないと思うけど。文明レベルもそんなに高くないし、探査機の痕跡もないよ」
小隊の3人目、ビャクダンことビャッキー。
彼女に至っては元非人類だ。
他の生物を食べてそのゲノムを内在化し、その生物の姿かたちをそっくりに乗っ取ってしまう、ビャッキー生物群。その確認されてる限り最初で最後の一個体が、そのままスキールモルフに転化した。
彼女の役割は偵察及び外交任務だ。異質な思考法を簡単に内在化することができる。
非既知の勢力と接触する可能性のある任務では重要なポジションだ。
「この星系の勢力だけとは限らないわ。シズが先に来ているかも」ザリンは釘を刺した。

シズ共同体。
ステルン(星の子)宇宙軍がいつのころからか戦っている敵。
シズは自分たちが人類に奉仕していると考え、その安全のために潜在的に脅威となる相手を滅ぼしている種族だ。シズが使えている人類そのものを見たことがあるものはいない。

ステルン(星の子)宇宙軍も、人類由来であると自負しているが、シズにはその人間性を認められておらず、戦闘用のAI機械だと認知されている。

くしくもステルンの方も自分たちのことをあんまり人間そのものだとは思っていない。ステルンにおいては、人類の概念がそもそも違う。
人類から生まれた機械化種族は、人類の内部に属している、というのがステルンの考え方だ。

ネーネに至っては、嘘か本当か知らないが、21世紀初頭の日本人女性の脳アルゴリズムをデータ化したもの成れの果てだという。本当かどうかは誰も知らない。
ネーネ自身が語るところによると、厚木生まれで、アメリカ海軍の夫と結婚し、息子が二人、しかし何らかの病気で早くに亡くなる、といった人生だったらしい。ただ亡くなる前にデータに取られて。その末がネーネだ。日本やアメリカといった国名もネーネ以外のものが語ることはなく信憑性は限りなく低い。

ザリンやビャクダンも、もとは生体だった者がスキールモルフになったものだ。
ステルンには数万年ごとの世代交代のために、人間の体に戻ることも可能である。
その時にはもちろん宇宙を飛び回ることはできず、惑星人類として一定の環境を必要とする。しかしその時期が終われば、水辺から飛び立つトンボのように星の海をもっぱら居住区にする。

これから進む星系は、バルフと呼ばれていた。
自然の惑星ですら貴重だが、このバルフは自然に作られたものではない。
人工惑星だ。
惑星の赤道部分に大きな溝があり、そこから内部の地下構造へ通じる入り口がある。
恒星の放射が大きいので、生物圏は地下にある。
元来の地上には大気すらもない。赤道の溝にのみ空気が溜まり海もある。
しかも内部も。地殻の移動は存在しない。核の熱はなんらかの機構により外部に安定的に漏出しているらしい。要するに地震はあまりない。地下構造を長期間維持するためには必須なので不思議ではない。
前回の調査隊はその人工惑星に、その惑星とは別の起源をもつ謎の入植者が勝手に住み着いたことを報告していた。
人工惑星自体の起源については分からなかったが、それ以上の調査は行わず、調査隊は撤収した。ふしぎは宇宙に腐るほどあるのだ。珍しくはなかった。

しかし、別の人工惑星に意外な機能が発見されたために、過去に調べられたすべての人工惑星が再チェックされた。

ある人工惑星が、巨大な宇宙船としての機能を持ち、居住者をどこかに導こうとしていたのだ。そしていつの間にか住み着いていた居住者たちもある種の宗教的信仰として、その行き先を理解しているようだった。
その人工惑星は戦闘で破壊されてしまったが、問題は彼らの行き先にあった。
始まりの宇宙。
ステルンもシズ共同体もその座標を知らない。

星間帝国を建設するにあたり、光の速度を超越した移動手段が必要とされる。
何らかの文明が築いたとされるルートワールがその手段となった。
ルートワールの原理については不明。何者が築いたのかも不明。発見されたときにはすでにそこにあった。
ただしその空間は特定方向に対しての移動が、それ以外の数千倍も加速される。
特にルートワールの中心部の加速度は計算不可能なほどだ。
光速道路は宇宙の隅々にまで張り巡らされ、上りと下りがそれぞれあり、それを流用することによってあまたの銀河帝国はその領域を維持していた。
そしてそのルートワールはさながら迷路のようで、すべてを通りつくすことは未だにできていない。
しかしその起源が宇宙誕生の極初期、まだ空間が晴れ渡る前の開闢歴40万年以内だということは何とか解明することができている。
しかしそこに至る迷路を突破することができない。
組み合わせ爆発は偶発的な巡り合わせを不可能にしている。

人工惑星は迷路の解き方を知っている生きた道案内だ。
始まりの宇宙は過去の世界であり、この宇宙での戦争は、戦略的高地である過去を制圧することが戦争に勝利するための最初の原則である。
最初期の宇宙に先にたどり着ければ、以前以後を問わずすべての戦闘を有利に改変することが可能だからだ。

敵性勢力に先駆けて、次の人口惑星を確保しなければならない。そして何としてでも先に、その「始まりの宇宙」に、敵より先にたどり着かなければならない。
まずは忘れていた人口惑星を確実に確保することからだ。
対象はしかし無数にある。そこで多数の分遣隊が派遣された。ごく少数づつ。
「私たちのが当たりだとは限らないけどね」
ザリンはつまらなそうにいった。

バルフィン連合宇宙軍サナック・スペサラキ大尉は、自らの機体の遅さを嘆いた。
この時に至るまで、そのような思いをしたことは一度もない。
自分が乗るトルガナーク重航空機は、これまでのバルフ空軍が使う機体の中では最も優秀な軌道戦闘機だったはずだ。だが相手の異星メカの性能はけた外れだった。
「この機体では勝てない」思い知らされた。
敵の空襲に際してスクランブルしたバルフ連合宇宙軍20機のうち半数以上が10分以内に撃墜された。位置エネルギーのハンデがあるにしろ、速度と攻撃力の差は一方的で、こちらが敵を落としたことはまだない。敵はたった2機である。
異星メカは左右非対称の二つの角を組み合わせたような独特なフォルムだった。
あんな形のものが、薄いとはいえ成層圏を自在に飛び回れるとは信じられないが、何の動力を使ってるのか分からないが、少なくともガス噴射の類ではない。
彼らが残すのは薄い大気を切り裂いた後の筋雲だけ。
何らかの弾帯を撃っているのはわかるが、まったくその軌跡は見えなかった。
それもそのはず。その弾頭は実質的に瞬間移動しているからである。
相手との時間差を検討する必要はこの距離では異星メカには必要なかった。
反物質転送爆弾。
かつてとある超高速航行の開発が行われ、失敗に帰した。
転送した物質が、反物質に変換されてしまったからだ。
だが兵器として使うならば、再利用の道があった。
星間帝国のほとんでは標準武装とされているこの兵器は、バルフィンの人たちが見知らぬ兵装だった。勝ち目は全くない。
サナック大尉が、終わったなと自覚したときに、意外な援軍が到着した。

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