『落研ファイブっ』第二ピリオド(9‐3)「暴走する男」
〈三日後 早朝練習時〉
〔三〕「やってられねえよ」
朝早くから電車を乗り継いで室内練習場にやって来た三元に、多良橋は目を丸くした。
〔多〕「三元が朝っぱらからこっち側に来るなんて、大会当日は雪でも降るんじゃないのか」
〔下〕「いっそ試合前だけ雪が降ってほしいっす。まだ朝七時だって言うのにもうこの暑さですよ」
〔シ〕「例のプールで浮かびたい」
下野のボヤキに、シャモが一部の好事家に有名なプールを思い浮かべながら応じる。
〔餌〕「もうお腹いっぱい。新入部員募集のポスターはがそうかな」
〔飛〕「そうしたら、あの二人は餌さんが全部面倒を見ることに。もう少し犠牲者と言うかお世話役と言うか、そんな部員を増やした方が」
飛島は見た目に反して時折ブラックである。
〔餌〕「松田君が抜けた代理は飛島君なんだから、飛島君がお世話してよ」
〔飛〕「嫌です。長津田君は禅画も好きらしいから仏像さんが」
〔仏〕「Never! うんちく垂れると脳汁があふれるタイプだろ。俺と正反対」
〔餌〕「いいや、仏像トークしてる時の仏像だって同じじゃん」
〔今〕「だから、その口が利けなくなるまで大量集中的にインプットさせるんだってば。落語千本ノック」
げっそりとため息をついた一同に、野球部アルプス席の今井はひょうひょうとしたものである。
〔三〕「それを勝手にやり始めたかと思ったら、正式な入部届も出してないくせに、うちの部員だって名乗って大騒動を引き起こしやがった」
〔多〕「どういう事」
多良橋はアメリカ代表のレプリカユニをぱたぱたさせる手を止めた。
※※※
〔下〕「俺が聞いた話では、素行不良で日吉幼稚舎から中等部に上がれんで、一並学園創立者の縁で一並中が引き取ったらしいっす」
〔長〕「日吉幼稚舎に入るなんて、よほど家柄が良いか資産家か。それもおつむが良くなけりゃ入れないだろ」
〔服〕「でもあの能天気な多良橋先生に落研部員があそこまで頭を抱えるなんて、よっぽどだよ」
下野からもたらされた情報に、長門と服部が首をひねる。
※※※
〔多〕「関係の方々にはこちらから詫びを入れるから同じような事がまたあったらすぐに報告してくれ。その時には落語研究会への入部希望を却下する」
三元が助かったと胸を撫でおろす中、多良橋はスマホ片手に走り去った。
〔下〕「三元さん、何があったんすか」
多良橋の後ろ姿を見送ると、下野は食い気味に三元にたずねた。
〔三〕「中林屋菊毬師匠に弟子入り志願して断られて、出待ちのあげく熱中症で救急搬送されやがった」
〔餌〕「一並高校落語研究会って名乗った事と、その日は小柳屋御米師匠と菊毬師匠の二人会だった事で味の芝浜に連絡が入ったって」
何でそんな奴を仮入部させたんだよと、仏像は恨めしそうに餌を見た。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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