夢がいっぱい (月曜日の図書館204)
夢を見ない、というおばあさんがまたやってくる。以前は夢を見る方法を知りたがっていたが、今回は夢を見るために実践していることを報告しにきたのだった。ヨガとか瞑想とかに取り組んでいるらしい。
おばあさんは話しはじめるとなかなかカウンターから離れない。つかまったW辺さんがそれとなくまとめようとすると、一旦は立ち去りかけるのだが、途切れそうになる瞬間に次の波がせりあがってくるらしく、またもや盛り返す。追いかけてる歌手の写真集がどこで買えるのか。ザワークラフトはどうやって作るのか。
今がすでにおばあさんの夢の中なのではないだろうか。
シュレッダーが壊れてしまった。ネットで調べたら耐用年数が5年ほどのところ、10年以上は使っているので、これはもう寿命だろう。
書庫出納のとき、申込レシートに名前と連絡先を書いてもらうので、放っておくと使用済のレシートがどんどんたまっていく。綿棒で内部を掃除するとよいという情報を得て、K氏が家から持ってくると言ったのに毎日忘れてくるのでもうあきらめて、新しいシュレッダーを買ってもらえるまで(買ってもらえるのか?)、ある程度たまるごとに1階に降りて裁断することとなった。
1階のシュレッダーは業務用で、博物館の「昔の道具」コーナーに並んでいてもおかしくないような重厚感たっぷりの見た目をしている。いつから使っているのかはわからない。
赤いボタンを押すとゴウンゴウンと怖いような音がして、レシートを容赦なく吸いこむ。投入口には「手が吸いこまれないように注意してください」と書いてある。ずたずたになった手を想像する。
ネットで日本におけるシュレッダーの歴史を調べると、1960年頃から普及していったらしい。意外と最近だ。昔は会社といっても家族のような関係だっから、機密情報が外に漏れるという概念があまりなく、そこを理解してもらうのに苦労したらしいことがシュレッダーの会社のHPに書いてあった。
それまでは別に対策をせずとも生きてこられたのに、シュレッダーが登場したために新たな不安を植えつけられてしまった。ついでに手まで吸いこまれないか気をつけなければならなくなった。
おばあさんは夢を見ない理由を、自分は「頭が悪」くて、物事を想像したり立体的に捉えることができないからではないか、と自己分析していた。
一度も夢を見ない人間などいるのだろうか。
しょっちゅう電話をかけていろんな職業について尋ねてくる人がいて、毎回かなり細かいところまで調べさせるのに、次にかけてくるときはまったく別の職業に興味が移っていて、あれだけ調べたわたしの時間と労力はなんだったのだ。
俳優になりたいと言ってきたときは、近くで通える学校を探させて、3通りある通学経路を全部読み上げさせた挙句、「遠いからやっぱ通いたくない」という結論だった。小説家になると言って一枚も原稿を書かない人間と同じマインドを感じた。
その後もデイトレーダーになりたい、タピオカを売りたい、絵をギャラリーで展示したいなどまったく前後の脈絡のない質問が続いているが、実現している気配は今のところなさそうだ。
ぺりかん社の「なるにはBooks」シリーズを自分で読んでほしい。
夢だけが生まれつづけて、そのうつわであるはずの本人の意思がふにゃふにゃなので、あふれてあふれてこちらにまでなだれこんでくる。調べるうちに、わたしはタピオカをつぶさずにパウチできる機械がいくらで買えるのかを学んだ。
が、わたしとしてもタピオカで儲けるほど詳しく追求するつもりはない。いろんな人の質問に答えるたび、半端な夢だけがどんどんたまって、図書館の中をただよっている。
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