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「ガウディと比べて私ったら」

サグラダ・ファミリアの中を端から端まで見尽くした後、ヘナータはショックを受けて立ちすくんでいた。

「ガウディは31歳の時にサグラダ・ファミリアの責任者になってこの偉大な建造物を建設をし始めたわけでしょ。31歳よ、私と同い年。それなのに私ったらこの歳でまだ何も、"自分の情熱を注げるような大きなもの"に取り組んだことがないわ・・・

そもそもアントニ・ガウディという世紀の天才と自分を比べるという発想がすごいなと思ったが、彼女は真剣だった。


へナータとはカナダ留学時代のブラジル人ルームメイトである。
10年前の留学当時、日本人の私(21歳)、ブラジル人のへナータ(21歳)、チェコ人のヤナ(26歳)との女三人でシェアハウスをしていた。

当時通っていた語学学校の友達は「ルームメイトがキッチン片付けなくてさ。昨日もパーティー開催されてたんだけどマジ勘弁」とか愚痴を漏らす人が結構いたが、うちの家はへナータ閣下によって統制されていたのでいつも家は綺麗だったし(へナータ手書きのお掃除当番表がありましてね、ええ。)、パーティーをする時は事前相談制だったのでとても快適に過ごせた。

恐怖のメモ書き

2階に住んでる中国人オーナーとの交渉ごとは大体へナータが片付けてくれてたし、何かモヤっとすること(日本人が焦がした鍋を放置しっぱなしで迷惑、ヤナのSkypeの声がさすがにデカすぎるetc)があれば、すぐへナータから恐怖のメモ書きがドアの隙間からスライドされてくるので、即話し合い、解決できていて、私たちの心強いおかん的な存在だったのだ。


さてそんなへナータと会うのは実に7年ぶり!
留学後、なんとか有給を繋ぎ合わせてヘナータに会いに行った5日間のリオデジャネイロ旅行ぶりだ。

今まで行った旅先で、一番刺激的だったリオ

今回はヘナータの友達、カルロスのお誕生日を祝う旅行とのことで、二人でバルセロナへやってきた。

「カルロスったら、計画は全部私任せだし、髪の毛のセットに私の倍以上時間をかけて、待ち合わせ時間には毎回遅れてくるし。"明日は丸一日別行動にしましょ、自分で計画立ててみて"と言ってやったわよ!彼のためにもね」

久しぶりに会ったへナータは変わっていなかった。

バンクーバー留学後どうしてたのと尋ねると、フランス語を学ぶためにカナダフランス語圏のモントリオールに渡り、その後また出身地リオに戻り大学で薬学部で学位を取得したが、今は父親の不動産会社で秘書的に働いている、とのことだった。

給料は良いが仕事のやり取りはストレスが多いと、少し不満げだった。

どこか思うところありそうな彼女の表情が気になりながらも、一緒に観光地巡りに繰り出した。

するとヘナータは行く先々で足を止めては、カメラを取り出してびっくりするくらいの回数のシャッターを切りだした。
納得がいくまでそのスポットから動かない。

「何?写真、好きなの?」と聞くと、インスタグラムの写真用アカウントを見せてくれた。

 「最近始めたんだけど、フォロワーも増えてきてね。写真好きの人がメッセージを送ってきてくれたりして結構楽しいの」

そんな話をしていると、ヘナータが新婚旅行らしきカップルに写真を頼まれたので、私はカルロスとおしゃべりしながら待っていた。

結構喋ったと思ったが、ヘナータがなかなか帰ってこない。

声をかけられていた方面を見ると。
「もうちょっとこっち!そう、今の良いね!もう一枚いくわよ」

もう一枚どころか、わんさかシャッターを押し続けている・・・!!

「沢山取ったから好きなの選んでね!」
と、思わずチップを払いたくなるようなカメラマン対応!

私はこんなに何かにのめり込んでいるへナータを初めて見た。


そして最後に訪れたのがサグラダ・ファミリア。

「ガウディと比べて、私ったらこの歳でまだ何も、"自分の情熱を注げるような大きなもの"に取り組んだことがないわ・・・」

真っ青になっているへナータはまだ気づいてないらしかった。

でも、私は見たと思う、彼女の中に。
"情熱を注げるような大きなもの"となりうる光を。

そのヘナータの姿を私はどこか過去の自分に重ねていた。
本当は心が躍る、全力で飛び込みたい世界があるのに、お金が、仕事が、できるかわからないから、いつか、とそっと目を逸らしていた自分。

あの時、私の中の光に気づかせてくれたのは、友人のたわいもない一言だった。
「私、好きだよ。あなたが畑で野菜に向き合ってる姿。なんか目が輝いてるもん」

そっちに全力で走ってみなよと言われたような、背中を押された一言だった。

だから私は、ヘナータにとって写真が彼女のそれではないかもしれないけど、彼女の目の輝いた瞬間のことを、伝えるべきな気がして別れ際に言ってみた。

「私、好きだよ。写真撮ってる時のへナータ。
今初めたらガウディと同じ歳に始めたことになるね」

目を丸くしたへナータは。

「あ、ありがとう・・・。It means a lot to me!! ( =あなたがそう言ってくれたことは、私にとってとても意味があることだわ、ありがとう。)
と、ところで、家に着いたら絶対連絡するのよ。昨日ホテルに着いた時、私に連絡入れるの忘れて寝たでしょ!心配なんだからね!」

まだまだ若い31歳のブラジルのおかんは、お気に入りのカメラを大事そうに抱えて帰って行った。

トップの画像は、サグラダ・ファミリアに売っているガウディの幼少期からのストーリーを描いた絵本です。
日本語含め複数言語版が現地で売ってるので、訪れた際は興味のある言語のものを手にとってみてください。"ガウディの中の光るもの"が見える気がします。

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