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【短編小説】次元寿命

#短編小説 #ショートストーリー #ファンタジー #フィクション #魔女伝説 #鏡 #ダイアモンド #アンク #ネックレス #ロザリオ #ステンドグラス #サタン

毎月1日は小説の日という事で、1年間書き続けてきました。
へたくそでもなんでもいい。
好きな物語を好きなように書きたかった。
ただ、それだけの想いで、書き続けてきました。
激務のサラリーマン生活を送りながら、空想だけで書き上げるのは
とっても大変でしたが、楽しくもあり、生き甲斐でもありました。
読んでくださった皆様には、本当に、心から感謝しています。
ありがとうございました。

本日も、2021年最後の
つたない小説を掲載させていただきます。
本日は約10000文字です。
お時間のある時にお読みください。

次元寿命

不思議な彼女

「ねぇ私のこと好き?」

浩子はベッドの中で昭夫に向き直って言った。

「好きじゃなきゃ、一緒にベッドになんかいないよ」

「へーでも、ただやりたいだけの男もいるじゃない」

「それは女も一緒だろ」

そう言って、昭夫は浩子の額をちょんちょんと、
人差し指でついた。

「ねー、もし私が300歳だって言ったら信じる」

「あのねー、300歳がこんなお肌もちもちで
 胸もぷりぷりなわけないだろ」

昭夫はわざと浩子のはだけた胸を揉んだ

「もーーエッチ、でももう一回して」

そう言うと浩子は昭夫の上に乗ってきた。


昭夫が浩子と出会ったのは
近所のカフェだった。
毎朝通勤前に朝食を食べるために立ち寄る
昔ながらのカフェ・ソルティガ
カフェというにはお洒落過ぎるくらいので
喫茶店と言ったほうが似合っているカフェだった。

昭夫はいつも、トーストと目玉焼きに
ブラックコーヒーをオーダーした。
駅から5分程のカフェなので、
時間帯によってはお客も多かったが、
駅前のに立ち並ぶチェーン店のカフェ程の混雑は無かった。
昭夫はいつも出勤前の静かな時間を過ごしていた。


丁度三か月前、昭夫がいつものように、
カフェ・ソルティガに入ると

「いらっしゃいませ」

と聴きなれない柔らかい声が聞こえた。
少し舌足らずなのか、発音がおかしいのか
甘い柔らかい声だった。

そこには黒いエプロンをかけた
少しタヌキ顔の女性がいた。
ツインテールは肩までかかり、
大きな瞳は少しグレーがかっていた。
日本人にも見えなくはないが、どこか日本人ではない、
違和感みたいなものを感じていた。

角刈りで強面の高根マスターに聞くと
住み込みのアルバイトの子でとだけ
紹介してくれた。

浩子は満面の笑みをうかべ、ひとなつっこく

「常連さんですね」

そういって、カウンターの中から挨拶をしてくれた。

昭夫はいつものように
トーストと目玉焼きとブラックコーヒーをオーダーした。
高根オーナーはネルドリップでコーヒーを煎れてくれた。
浩子は目玉焼きを焼いているようだったが、
カウンターの中からうっすらと煙があがった。

「オーナー目玉焼き焦げました」

温かい声がオーナーに向けて発せられた
オーナーは一瞬ムッとした顔をしたが、
すぐに冷静になったようで、
静かな低い声で。

「作り直して」

とだけ言った。
昭夫はそんな二人のやり取りを見ていた。

「それでいいからください」

そう言ってオーナーを見た

「少し焦げているくらいがすきなので」

オーナーは苦笑いしながら

「昭夫さん、申し訳ないです、お代はいいですから」

そう言って彼女の方を向いてうなづいた。

「いやいや、フードロスにするくらいなら、お腹の
 処理機でエネルギーに変えますよ」


そう言って昭夫も微笑んだ。

浩子は目玉焼きとトーストを載せたお盆を持て
昭夫のテーブルに来た。

「ごめんなさい、助けてくれてありがとう」

そう言って笑顔を見せた。

朝の出勤前の重苦しい空気を、
笑顔が包んでくれた。
昭夫は少しだけハッピーな気持ちで
カフェ・ソルティガを後にした。


カフェ・ソルティガは、
喫茶店であるが、金曜日の夜だけ
お酒も出していた。
通常、平日は夜6時で店を閉め。
土日も休店だった。
平日のサラリーマン相手のカフェなので、
駅前のチェーン店とは違うようだった。

昭夫は時々夜のカフェ・ソルティガへ出向いては
カクテルを飲んだ。
マスターが有名なホテルのバーカウンターで
バーテンだったという噂があった。
そのせいかわからないが、
マスターのカクテル目当てに、
夜の客はそこそこの人数が入っていた。
時々マスターにそのことを問いただしても、

「そんなたいしたもんじゃない、我流ですよ」

としか言わなかった。

ただマスターの作るドライマティーニは格別で
ついつい飲み過ぎてしまうのだった。


今日も昭夫はカフェ・ソルティガで
ゆっくり、ドライマティーニを飲んでいた。
夜中11時を回るころまでは記憶があった。

「そろそろ閉店です」

というう所までは覚えていた。
その後、昭夫は完全に記憶を失っていた。
普段酒に飲まれる事はないが、この日は
気を失ったという表現が合っていた。


昭夫は時計を見た。
夜中の2時だった。
昭夫はカフェ・ソルティガのソファーに寝かされていた。
全身が色とりどりになっている事に気が付き、
昭夫は跳ね起きた。

「あれ色ついてない」

カウンターで洗い物をしていたマスターが、
顎で天井の方をしゃくった。
昭夫は天井の方をみると
月明かりに照らされて、ステンドグラスの光が、
ソファーまで届いていた。

何年も通っているが、
昭夫はいつも入り口付近のテーブルか、
カウンターでしか食事をしていなかった。

ソファーなどがある奥のスペースは初めてだった。
そこにはステンドグラスと
2メートル四方の大きな鏡があった。

「マスター、こんな大きな鏡あったっけ」

「この店が出来る前からずっと鏡とステンドグラスはあったよ」

マスターはステンドグラスを見ていた。

 「私の曽祖父の時代からあったようだよ。この蔵を改装する時に
 出てきた遺言書に、<鏡とステンドグラスは決して壊してはならぬ>
 そう書いてあったんだ」

「へーー歴史的なモノなんですね、なんか隠れなんちゃらの
 集合場所だった感じもしますね」

昭夫が笑いかけても
マスターは笑っていなかった、どこか真剣なまなざしだった。


あの夜、自分の身に何が起きたのか
昭夫は知らないまま、毎日同じようにカフェ・ソルティガに
通い続けていた。

金曜日もまた、マスターのドライマティーニで
一週間の疲れを取るのが日課になっていた。
何晩めだったか、浩子が一緒に飲みたいと言い出した。
その日は昭夫しかお客が居なかった。
マスターは

「店じまいだな」

そういうと、入り口付近の明かりを消した。
やはり11時くらいになると、昭夫は気を失い
2時に月明りで目覚めた。
目覚めると浩子の顔があった。

昭夫は、本能のままに浩子に口づけをした。
浩子も昭夫を受け入れた。
二人はその晩、男と女になった。
なぜかマスターは居なかった。
昭夫は浩子が住み込んでいる蔵の二階で
朝を迎えた。
昭夫と浩子の男女関係はそれから始まった。


「ねぇ。昭夫、今日は土曜日だけど、カフェにきてくれる?」

浩子は甘い声で、昭夫の上に乗ったまま
昭夫の耳元でささやいた。

「ずっと暇だから、べつにいいよ・続きは蔵の上でするのかい」

昭夫の問いかけに、浩子は答えず
昭夫の体を激しくむさぼった。

時の彼方から

土曜日の夜11時、昭夫と浩子はカフェ・オルティガに居た
マスターはソファーに座っていた。
昭夫と浩子もまたマスターの傍に座った。

「昭夫さん、すまないね休日に」

そういうと、昭夫の目を真剣に見た。

「私達の秘密を共有してほしい、もしも叶えられない場合は
 ここで死んでもらわないといけない」

いつものマスターの雰囲気でない事は昭夫もわかっていた

「マスター、死んでもらうなんて大げさな、秘密は守りますよ」

そういうとマスターは浩子を見た。
そして静かな口調で話し出した。

「私の曽祖父は、300年前のイギリスから転送されて
 この地に根をおろした。前の世界へ帰るために
 いろいろ実験をしたようだが、やがて、こちらで子をもうけ
 ひ孫をもうける事になった。それがわたしなのだ
 私に力はなく、いまここにあるのは、祖父が作ったであろう
 この鏡とステンドグラス、そして父と母は私が子供の頃
 居なくなった。おそらく300年前に戻ったと考えられる。
 この鏡は転送装置なんだよ」

黙った聞いていた浩子がその話の続きをしゃべりはじめた。

「私は25歳の時、魔女狩りにあった両親から転送魔法で
送られて、気が付いたらここに居たの。
マスターは驚いていたけど、すぐに理解して、二人で
いろいろ調べたの、そしたらサタンと交わる事で
エネルギーを得た魔女が時空を超えたという話が出てきたの
だからお願い、私に協力して、私を逃がすために転送魔法を使った
両親が心配なの、もう一度あの時代へ戻って・・・」

いつしか浩子は泣いていた。

「両親の想いに反するけど、でも死ぬならあの地で死にたいの」

オーナーも真剣な顔をしていた。

「ちょっと待ってください」

昭夫は戸惑いながら二人に問いかけた。

「空想的な話をしているのは解りました。
 マスターが秘密の話と言うなら、口外はしません。
 浩子が両親を助けたい気持ちもわかります。
 けれど、何がなんだか、あまりに飛び過ぎた話じゃないですか?
 僕にどうしろと言うんですか?」

昭夫の悲痛とも怒りともとれる言葉に
マスターが優しく答えた。

「無理もないが、もう少し話を聞いてくれないか」

マスターはそう言うと、昭夫の所に来て右手を
手を差し出した。
昭夫はその手を握った。
丁度握手する形になった。
マスターは左側にある2メートル四方の大きな鏡を見た。
二人が握手している姿が映っている。

「昭夫さん、鏡を見てくれないか」

マスターの言葉に昭夫は2メートル四方の鏡を見た。
鏡の縁に刻まれていた、ヒエログリフが光り出し
昭夫の手の甲に〇に十字架の模倣が浮かび上がった。
昭夫は何が起きているのかもう一度鏡と手の甲を
見比べた、
この鏡にだけ、〇に十字架の模様が映し出されていた。

「昭夫さん、これはアンクというロザリオの形だよ
 ステンドグラスのサタンの手の甲にも刻まれている」

そう言うと、マスターは蔵の天井を見た。
そこにはほうきをもった女性と剣をもった男性が
描かれ、男性の手の甲には昭夫の手の甲に映る
模様と同じものが描かれていた。

昭夫はにわかに信じがたいと思いながら
マスターに向き直った。

「マスター、わかったよ、信じ固いが、
 浩子とマスターの話、300年前に時空を超えて
 現代に来たことを信じるよ」

「昭夫さん、すまない、実は何度か君を眠らせて
 この実験をしたんだ、紋章が出るかどうか、
 実験したのは昭夫さんだけじゃなく、沢山の人に
 やってみたけど、紋章がでたのは昭夫さんだけだったんだ
 この紋章がサタンの証である事は間違いないようなんだ
 だから君に協力してほしくてね」

マスター話を聞いていた昭夫は、自分の生い立ちを話し出した。

サタンの血を引き継ぐもの

「実は僕は孤児院で育ったんだ、だから親の顔は知らない
 ただ、唯一僕の傍にあったのが、アンクのロザリオだった
 それを今でも大事にしているんだ、この鏡に映った
 文様と同じ形をしている」

昭夫は悲しい顔をして言った。

「それは今何処にあるの」

浩子がの顔色が変わり、迫るように聞いた。

「アパートにしまってあるよ、なんか普段してはいけないように
 思ってね」

「お願い、それを見せて・・」

浩子は一瞬考えて

「お願い、私にそのアンクのロザリオを預けてくれない?
 もしかしたら返せなくなるかもしれないけれど」

昭夫は真剣な浩子の眼差しをみていた。

「わかった、今から取りに行ってくる」

そう言うと、昭夫はカフェ・オルティガを後にした。
昭夫が孤児院に預けられた時、確かにアンクのロザリオしか
一緒に添えられたものはなかった。
ドラマとかでよくある、入り口に置き去りにされた子供を、
園長は優しく育ててくれた。
昭夫は、なんとか園の助けになればと猛勉強して
ITの会社に入った。
高校は定時制に通い、昼間は鉄工所で働いた。
大学には行けなかったが、ITの専門学校を卒業して
なんとか今のIT会社に勤める事ができた。

昭夫は、つつましやかに暮らしながら、
いまでも育ててくれた園に仕送りをしている。
そんな昭夫が唯一両親のぬくもりを通じ合える事ができるのは
アンクのロザリオだった。
昭夫はこれを付けると、全身に力が湧いてくるのだった。

「これが、アンクのロザリオです」

20分程でカフェ・オルティガに戻った昭夫は
二人の前に、アンクのロザリオを置いた。

浩子がそのロザリオを手に取って、
2メートル四方の鏡の前に立った。
鏡の縁のヒエログリフが光だし、
鏡の中には、一本の剣が映し出された。

「サタンの剣」

マスターが言った。浩子もうなづいた。

マスターが浩子からロザリオを受けたった。
アンクのロザリオの円の部分には、
二つのダイヤモンドがはめられていた。
1カラットはないが、0.7カラットくらいはありそうな
ダイヤモンドは、表には普通のダイヤモンドが
裏側にはブラックダイヤがはめられていた。

「次の満月は12月19日だ」

マスターは浩子に言った。

「マスターどういう意味ですか、説明してください」

今度は昭夫がマスターに詰め寄った。

「そうだね、これをもっていたんだ、
 君にも知る権利はあるな」

そう言うとマスターは昭夫に説明を始めた。

「これはサタンの剣だ、昭夫さんがこれを持っていたという事は
 おそらくサタンの血を継ぐものだと思う。
 ただ、サタンの力は現代には不要だ。
 だから形を変えて封印してあるのが、
 おそらくこのアンクのロザリオだと思う。
 私も初めてみるからね
 その辺の事情は曽祖父が書きしるした
 メモくらいしか残っていないんだ」

マスターは自分のコーヒーを一口飲んだ

「このロザリオには、もう一つ大きな役目がある。
 それは、魔女が使う転送魔法の、
 エネルギー源にもなるという事だ。
 ただ、普段は発動しない。満月の夜に、
 魔女とサタンが交わった時、それは起きるとしか
 曽祖父のメモには書いてなかった」

マスターは昭夫に一通り説明すると
少し考え込んでいた。

「満月の夜に、昭夫とエッチすればいいの」

浩子がマスターにきいてきた。

「いやそんな単純ではないと思うが、とにかく
 試してみるしかない。ただ・・」

「ただ???」

「君の覚悟はいいのかい?この世で幸せに暮らすこともできる。
 せっかく両親が命がけで魔女狩りから逃がしたのだよ。
 その気持ちに反してまで、
 300年後に帰る意味があるのかと思ってしまう。
 私はこっちの世界で生まれているからね、
 もうなんの力もない。
 そのふがいなさと、君のような心の強さをうらやましく思うよ」

マスターはそれからだまってしまった。

転送の夜

12月19日の夜がやってきた。
その間、浩子は毎晩昭夫のアパートにやってきて、
二人は時間を惜しむように、抱き合った。


浩子はアンクのロザリオを首にかけて
2メートル四方の鏡の前に立った。

ダイヤモンドを表に、ブラックダイヤを
自分の胸側にして立った。

やがて満月は、ステンドグラスに光を入れだした。
すると、2メートル四方の鏡のヒエログリフが光だし
ステンドグラスに反射した。
ステンドグラスに描かれた女性の手から、ほうきは消え
赤ん坊を抱く姿になった。
男性もまた、手にあったアンクの紋章は消え、
赤ん坊の手には、浩子がしているアンクのロザリオが
握られていた。
よく見ると、ステンドグラスに描かれたアンクの丸の部分にも
ダイヤモンドらしい宝石がはめられれていた。

昭夫も、マスターもステンドグラスの変化に
驚いていた。
昭夫は浩子を見た。
浩子はお腹に手を当て、泣いていた。

やがて、ステンドグラスのダイヤモンドに
月明りが差し込んできた。
その光は浩子のアンクのロザリオのダイヤモンドと
光の線で結ばれた。
すると今度は鏡が光だし、同時にブラックダヤから
ブラックホールのような闇が噴き出して
浩子を包みだした。

「昭夫、ありがとう、そして、・・・」

浩子の涙は大粒の雨に変わった。

「あなたの事が好き、大好き、ずっとずっと愛している」

そう言うと、闇は浩子を包み、鏡の中に吸い込まれて言った。
同時に大きな音を立てて、鏡は割れ、ヒエログリフも消えた。
鏡が割れた後のべニア板には、
サタンの剣の絵が描かれていた。

昭夫もマスターもなぜか泣いていた。
そして、満月がステンドグラスから外れると
描かれていたサタンの剣もまた消えて、ただの
べニア板だけになった。

ただ鏡の破片だけがそこに散らばっていた。
昭夫は、浩子を飲み込んだ鏡の破片を拾って
自分も深く浩子を愛していたのだと気づき
鏡の破片を握りしめたまま
大きな声で泣いた。
鏡の破片で切れた指から血が滴っていた。

ヒロコ14世

朝になっていた。
昭夫は、マスターと一緒に、店の片づけをしていた。

「昭夫さん、今日は月曜日だよ、会社はいいのかい」

急に現実に戻された昭夫は

「とてもそんな気分にはなれませんから、さぼります」

そう言って作り笑いを浮かべた。

「もうじきクリスマスですね」

昭夫はマスターに言った。

「ああ、もうそんな季節だったね」

昭夫は浩子と過ごすクリスマスを夢見ていた。
何処にデートに行って、何を食べるのか
昭夫にはプランがあった。
今はそれもかなわず、虚脱感だけが残っていた。

その時、喫茶店のドアが開いた。
そこには浩子に似た少女が立っていた。

「あのー、高根マスターと昭夫さんですよね」

昭夫とマスターは顔を見合わせた。

これを返しに来ました。
そう言って差し出したのは、アンクのロザリオだった。
ただ、ヘマタイトで出来たロザリオはボロボロで
アンクの丸の部分にもダイヤモンドははまっていなかった。

「これは・・」

昭夫が少女にそう言うと
少女は少し微笑んで

「私は300歳じゃありませんよ」

そう言ってまた笑い、話をつづけた。

「300年前、魔女族は、魔女狩りを逃れ
 別の地へ転送しました。
 その時、魔女狩りから救ってくれたのが
 浩子一世が持ち帰ったサタンの剣だと
   言い伝えられています。
 浩子一世は子供を産みました。
 昭夫さん、あなたの子供です。
 私は14世のヒロコです。
 ですから、
 私と昭夫さんは少し血がつながっている
 という事になりますかね」

浩子には似ているが、日本人離れした容姿の
ヒロコ14世と名乗る少女は
流暢な日本語を話した。
そして、話は続いた。

 「代々、魔女族に生まれる女の子には
 ヒロコの名前を付けるよう
 しきたりができました。
 浩子一世は、魔女族のクイーンだったのです。
 また魔女族を救った英雄にもなりました。
 なので、浩子一世は唯一のしきたりとして
 歴代ヒロコを永遠に引き継がせようとしたのだと
 思います。
 浩子一世はもう一つ一族にいい伝えるように
 お願いしました。それはこのロザリオを
 2021年12月20日にカフェ・オルティガへ
 届けるように、いい伝えよというものでした。
 私はなぜそれが言い伝えになっているか
 わかりませんが、
 とにかく2021年は私の代という事で
 届けにきました。
 当時の地図がボロボロで、迷いましたけど。
 何とかたどりつけました。
 ちゃんとお渡ししましたからね。
  これでミッションコンプリートです。
  もう魔女族なんて古いんですよね。
  だれもそんな力残ってませんし、
  媚薬も作ってませんから」

そう言ってヒロコ14世はロザリオを
昭夫に渡した。

ロザリオを受け取った昭夫は
その場に崩れ落ち
ロザリオを抱えて、泣いた。
人目もはばからず、泣き続けた。

ヒロコ14世は昭夫が何で泣いているのかわからず
ぽかんと見つめていたが、さばさばとした態度で
カフェ・オルティガを出て行った。

どのくらい時間が経ったのか?
今は何時なのかわからない程、
昭夫は呆然としていた。
マスターは昭夫の横でヒロコ14世の存在について
何か考えているようだった。

「昭夫さん。浩子の転送魔法は、私の曽祖父の
 メモの通りやったんだ、ただ、魔女とサタンが交わる時の
 意味が解らなかった。けれど浩子は気が付いていたようだ」

昭夫はマスターの方を見た。

「浩子は転送の瞬間、いや、ステンドグラスに
 赤ん坊が出現した瞬間、お腹を押さえていたよな
 あの時、浩子の中には君との子供がいたのではないかな?
 そうでなければ転送は完成しかかったとも思っている。
 浩子は本当の名前ではないんだ、
 彼女はマーガレット・アン・ミッシェルという名前なんだ
 ただ、ここで生きていくために、私が浩子と名付けた
 ヒロコ14世と名乗る少女が、300年の時を経て、
 そのメッセージを伝えてくれた。
 マーガレットは、いや浩子は君との愛の証を、
 永遠の証を、浩子という名前に託し、
   代々の名前としたのではないかな」

 永遠のロザリオ

電話がなっていた。

昭夫は相変わらずIT企業で活躍していた。
沢山の収入を得ているはずだが、
つつましやかな生活をしていた。

孤児院の園長は代替わりしたが、相変わらず
仕送りは続けていた。

浩子が300年前に帰ってから、
10年の月日が流れていた。
昭夫は35歳になっていた。

「ハイ・・もしもし」

「ジュエリー響のものですが、昭夫さんですね
 ご要望のダイヤモンドがやっと手にはいりました
 ロザリオにセットしてありますので、
 いつでも取りに来てください。」

「わかりました、取に伺います」

昭夫は、都内の宝石商にロザリオの修理を依頼していた。
大きな宝石商には高額で、とても頼めないので、
小さく、融通の利く宝石商に、事情を話して、
ロザリオに合う、ダイヤモンドとブラックダイヤを
探してもらっていた。

昭夫が宝石商に着くと
ジュエリー響の店主が、新しいケースに入れた
アンクのロザリオを出してきてくれた。

「ヘマタイトのキズは直せなかったが
 磨いておいたよ、こうやってダイヤモンドが入ると
 なんかエネルギーが充填されていくように感じるね」

ジュエリー響の店主が、アンクのネックレスを見ながら
しみじみと言った。

昭夫も店主の言葉にうなづいた。

「昭夫さん、1点申し訳ないのだが、
 表にダイヤモンド、裏にブラックダイヤと職人に
 伝えてあったのだが、逆に着けてしまったようだ
 少し値引きをさせていただく代わりに、
 このまま受け取ってはくれないだろうか?」

ご店主の申し出に昭夫はうなづいた。

「これ付けて帰ります。いいですか」

そう言うと

「もちろんだよ、喜んでもらえるように
 職人たちと頑張って作ったからね
 ぜひ付けて帰ってください」


そう店主が言うと、楕円形の鏡を昭夫の前に置いた
鏡の中に浩子の顔がちらついた。
10年前の12月20日の満月の夜を思い出していた。

昭夫はあの夜いらい、あまりカフェ・オルティガへ
立ち寄る事はなくなっていた。
今日は、アンクのロザリオが出来た日なので
久しぶりにカフェ・オルティガへ向かった。
しかし、そこはすでに更地になっていた。
マスターの姿も、ステンドグラスの蔵も無くなっていた。

昭夫はしかたなく、自分のアパートに戻った。

テレビのニュースで、
<2031年12月29日はゴールドムーンです>
そう言っているのが聞こえた。

「そうか10年前も満月だったんだ」

昭夫はアパートの窓からゴールドムーンを見ていた
胸にはアンクのロザリオが輝いていた。
昭夫はゴールドムーンを見ながら
浩子を思い、いつの間にか眠りについていた。
ステンドグラスも、鏡ももうない
このペンダントを使って、浩子に会いに行こうと
思っていた夢は破れた。
昭夫は落胆の中で深い深い眠りに入っていった。

昭夫はベッドの違和感で目が覚めた。
隣で浩子が昭夫を見つめていた。
昭夫は驚いて、ベッドから飛び起きた。

<これは夢だ・・きっと夢だ・・・だけど
 夢でもいい、覚めないでほしい>


瞬間的に昭夫はそう願っていた。

「夢じゃないよ」

浩子が微笑みながら言った。

「ただいま、ダーリン」

浩子の笑顔が涙で滲んでよく見えなかった。
昭夫は浩子を抱きしめたまま
涙を流した。

「ずっと言えなかった事がある・・
 僕も浩子を愛している」

そう言って浩子の唇に自分の唇を重ねた。

昭夫の胸にはアンクのロザリオがかかっていた
けれど、ブラックダイヤは取れて無くなっていた。

昭夫がそれに気づき、あたりを探していると
浩子が

「ブラックダイヤは私、浩子2世が10歳になった
 満月の夜、そうちょうどゴールドムーンの日
 私は自分で、このロザリオに私自身を封印したの
 いつかこのロザリオが昭夫に届くように、そして
 昭夫はきっと、このロザリオを復元すると思ったの
 ブラックダイヤは私を封印から解き放つ鍵だったの
 そして、昨日のゴールドムーンの光が
 ブラックダイヤからロザリオに流れ込み
 封印は溶け
 私がここに居るの、335歳になっちゃったけどね」


浩子の言葉に、昭夫は

「何でもいい、君が、浩子がここに居るなら
夢でもなんでもいい、ずっと会いたかった
ずっとずっと会いたかった。」


そう言うと、もう一度浩子を抱きしめた。

「もう帰れないから、ずっとここに居てもいい?」

昭夫はさらに強く浩子を抱きしめて

「もう話さない、どこにも行くな
 何があっても離さない、300歳だって関係ない
 僕にとっては浩子は唯一無二の存在なんだ」


年が変わろうとしていた。
昭夫の隣には浩子が居た。
昭夫は幸せをかみしめ、浩子もまた
丸く大きな目を輝かせていた。

「浩子、初詣に行こう・・」

昭夫の言葉に

「はい・ダーリン」

そう答える浩子がそこに居た。

終わり

あとがき

世の中バッドエンドの物語のほうがうけたり、
話題になって売れたり。
ドロドロの物語のほが受け入れられたりします。
けれど、私はやっぱりハッピーでありたい。
人はハッピーになるために生まれてきたのです。
どんな困難があっても、ハッピーでありたいと願い
ハッピーであるべきなのです。
きれいごとだと、言われる人もいるかもしれません。
ただ、きれいごとだとわかっていても、
そのために、誰かの為に何かをする。
Giveする、与える心を持ち続けたいと思っています。

300年の時を超えても、スキという気持ちは永遠でありたい
そんな思いを込めて、今年最後の小説を書きました。

部署が変わり、激務の中、気が付けば
3日しかなく、なんとか書き上げる事ができました。
今回も、プロットのような小説になってしまいましたが
ご容赦ください。

そして、少しでも幸せを感じてくれたならうれしいです。

いよいよ師走、そしてクリスマス
そしてあっという間に新年になってしまいます。
皆さんもやり残したこと、好きと伝えられていない方は
ぜひ今年中にスキを伝えてください。
寿命は時限的に動いています。
今がスキを言うタイミングだと思いますよ
明日が同じように来る確率は50%、フィフティーフィフティ
ですから。

今回も最後まで読んでいただき
ありがとうございます。
皆様に感謝いたします。


サポートいただいた方へ、いつもありがとうございます。あなたが幸せになるよう最大限の応援をさせていただきます。