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【新刊試し読み】『ふるさと再発見の旅 四国』|撮影 清永安雄

残しておきたい風景や語り継ぐべき物語を丹念に取材してオールカラーでお届けする写真紀行のシリーズ『ふるさと再発見の旅 四国』が2024年4月15日(月)に発売されたことを記念して、本文の一部を公開します。


本書について

〈ふるさと再発見の旅〉第9弾は四国地方!
日本の原風景に出逢う旅へ
もういちどニッポンをひもといてみませんか―
日本全国津々浦々、歴史ある門前町や港町から、知られざる漁村や在郷町まで。残しておきたい風景や語り継ぐべき物語を丹念に取材してオールカラーでお届けする写真紀行のシリーズ。
第9弾「四国」は香川、愛媛、高知、徳島を収録。
コラムでは地域に伝わる祭りやノスタルジックな商店街をピックアップ。各県の重要伝統的建造物群保存地区も全て掲載。
――掘り起こせば私たちの国は、虚実入り混じった、数えきれぬほどの歴史や伝説、言い伝えに彩られています。そんなふるさとの町や村に埋もれてきた、歴史譚や懐かしい原風景に出逢う旅――


試し読み

伊吹島いぶきじま(観音寺市伊吹町)

イリコとともに暮らす小さな島

讃岐うどんの味を支えている濃厚でうま味の強い「イリコだし」。イリコとはカタクチイワシなどを乾燥させたもので、このイリコの生産量で香川県は全国でもトップクラスとなっている。なかでも、伊吹島でつくられるイリコは、その品質の良さから「伊吹イリコ」と呼ばれ、高級ブランド品として高値で取引されている。
 イリコの島、伊吹島は香川県の西端にある。観音寺港の沖10キロあたりに浮かぶ島で、周囲5.4キロ。明治の頃には800人いた島民も、現在は400人程度で、そのほとんどが漁やイリコの加工に携わっている。
 伊吹島という島名の由来は諸説ある。島の近くの海に漂っていた光を放つ不思議な木「異木いぼく」を弘法大師が引き上げ、その木で多くの仏像を刻んだことから「異木島いぼくじま」と名付けられ、それが転じて伊吹島と呼ばれるようになったという。
 伊吹島へは、観音寺港から船に揺られること25分あまり。島の入り口である真浦港まうらこうから上陸する。港に入る前、船上から見えた伊吹島は岩盤にへばりつくように家が建ち並び、港のすぐ横にはイリコの大きな加工場が並んでいるのが特徴的だった。
 イリコ漁とその加工は、6月から9月が最盛期。漁場と加工場が近く、漁獲から加工まで網元が一貫して行えるのが伊吹島の強み。より鮮度の高い上質な伊吹イリコを生み出す秘密はここにある。残念ながら時期が合わなければ、イリコの加工の様子は見ることができない。だが、港近くにある販売所に行けば、新鮮なままパッキングされた伊吹イリコを手に入れることができる。
 港から集落に続く道は、かなり傾斜の強い坂道になっている。建ち並ぶ家の間を必死になって登り歩いていくと、その横をうしろに人を乗せたバイクが次々と追い抜いていく。どうやらバイクは島の人々の重要な移動手段のようで、船が着いたあとは何台ものバイクが坂を猛スピードで疾走していった。
 海風に背を押されながら、急な坂道をひたすらのぼっていく。途中、うしろを振り返ると眼下には漁師町特有の家々の屋根が連なり、その向こうに瀬戸内の海が広がる。
 イリコ加工の最盛期には、朝早くから船が港を出入りし、加工場の機械の動く音が港に響き渡り続けるという。そんな活気ある島の風景も楽しいだろうが、シーズンオフの静かな島の風景もなかなかいい。坂を降りて港をぶらぶらすれば、どこから来たのか島の猫たちがこちらに寄ってくる。何か食べたいのだろうか。おいしい餌にありつけるカタクチイワシ漁が始まるまで、猫たちにとって我慢の時間が続くのだ。


ふるさと再発見の旅四国
ふるさと再発見の旅四国
ふるさと再発見の旅四国


目次

【香川】
伊吹島/引田/多度津/生里/仁尾
コラム:平賀源内旧邸/名画名作の舞台『八日目の蝉』/高松ライオン通商店街/うみまち商店街「おけいちゃん」/仁尾まつり
重伝建:塩飽本島笠島

【愛媛】
伊予小島/三津浜/砥部/狩浜/岩松
コラム:三津浜商店街/正岡子規生家/浪漫八橋/どーや食堂/うわじま牛鬼まつり/名画名作の舞台『旅の重さ』
重伝建:卯之町/内子町八日市護国

【高知】
土佐久礼/須崎/佐川/奈半利/甲浦
コラム:久礼大正町市場/天神橋通り商店街/ひろめ市場/名画名作の舞台『陽暉楼』/岩崎弥太郎生家/南川百万遍祭り
重伝建:吉良川町/土居廓中

【徳島】
椿泊/上勝町/高島/阿波池田/一宇
コラム:赤松神社奉納吹筒花火/名画名作の舞台『眉山』/ポッポ街商店街/おさかな食堂
重伝建:東祖谷/出羽島/脇町南町


著者紹介

清永 安雄(Yasuo Kiyonaga)/撮影
1948年、香川県生まれ。写真家。京都写真美術館代表。公益社団法人日本写真家協会会員(JPS)。 写真集に 『日本人の道具』、 『パリスケッチ』、 『樹々変化』、『古鎮残照』、 ノスタルジック・ジャパンシリーズ、 『美しい日本のふるさと』シリーズなどがある。


ふるさと再発見の旅四国

ふるさと再発見の旅 四国
【判型】A5変型判(200mm×148mm)
【ページ数】224ページ
【定価】2,750円(税込)
【ISBN】978-4-86311-402-9


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