恋人ごっこ


普通のカップルにはもうなれないのかな?
付き合う前に身体の関係を持つことが
今までなかった私にとって
今の自分は汚れている感じで
彼とお別れした瞬間に虚無感に襲われる。
周りの友達がそうだと聞いても
私はそうはならないと
どこか自負していた。

彼とは付き合ってはないけど
身体も心も相性がいいと私は感じてる。
身体で繋がったからそう感じてしまう
単純な女性脳なのかもしれない。

あと、私すっごく彼の顔が好きだ。
今まで性格が好きってなると
顔もかっこよく見える
フィルターがかかるタイプの人間だったのに
初めて顔を見て好きってなる人に出会った。
まだ目を見て話すのも恥ずかしくなるし
キスする時にすっごく幸せな気持ちになる。



上京してきてから恋愛を避けてきた私に彼は
「寂しくないの?」と聞いてきた。

「寂しいよ」

素直に私は答えた。
だからといって私たちの関係が変わることは無い。

「身体が寂くなってアプリ始めたの?」
次に彼はこう聞いてきた。
こう聞かれた瞬間彼はきっとそうなんだろうと
女の勘ながらに察した。
だから私も寂しさを埋めるために、
女の子とそういうことをするために
アプリを始めたの?って聞いてみた。

「違うよ」

そう彼は言った。

その言葉を信じたくって
それ以上深堀できない自分がいた。


私たちは

2人きりの空間じゃない時、

誰がどう見ても純粋な
カップルに見えていると思う。
飲食店に行けばお互いが頼むメニューを
当て合いっこしてはしゃいでみたり、
見つめあって照れあったり。
嫌いな食べ物は全部食べてくれるし、
水を取りに行ってくれたり、
そういう些細な気遣いをされればされるほど
大切にされていると思い込んでしまう。
そして彼はなんだかんだ外での食事では
お会計を済ませてくれる。
私がお財布を出しても今日はお祝いだよって
サラッと奢ってくれる
そういう所作が上手だ。


可愛い女の子はみんな着ている
某ホームウェア店の前を通る時には
モコモコのパジャマ欲しいね
なんて言いながら私たちは
手を繋いで駅に向かった。

分かってはいたけどとぼけた振りをして私は

「どこ行くの?」

と言った。

「俺ん家来る?」

返事をするよりも前に改札を抜けていた。



彼は前に家も教えてない子に執着され
家に行きたいと
強請られたことがあると言っていた。 
本当の話なのかは知らないが
私には家を教えてもいいのかぁなんて、
愉快なことを考え浮かれていた。
わずか2駅で到着してしまう車内で
彼はどんなことを考えていたのだろう。


コンビニで甘いチューハイを買う。
彼はミックスジュース味を選んだ。可愛い。
彼の家までの帰路で私たちは手を繋いで
寒いねって肌を寄せ合った。


彼の部屋は物が少なく綺麗に片付けられていた。
真っ白な床に真っ白な壁。
まだ建てられたばかりの
新しいマンションだと言う。
チューハイで乾杯したところで
私は心の中で「今日こそは軽い女にならないぞ」と
勝手に1人で決意表明をする。


そこからしばらくはお互いのこと、
仕事のこととか家族のこととか、
この棚自分で作ったんだーなんて自慢されたり
そういう話をずっとする。
信頼を得るための彼の作戦なのか
単純に知りたいと思ってくれているのか。
彼のことを知っていくことができる
この時間がたまらなく好きだ。

しばらくして彼は布団に寝転ぶ。
私は頑なに床に座って彼との距離をとっていた。

「床冷たくないの?こっちおいでよ」


私は「冷たくない」と嘘をついた。

きっと彼はつまらないと思っただろう。
簡単にヤレる女とは思われたくない。
ここで素直に言葉に甘えなくてよかったと
今思い返してみても思う。

彼は私をくすぐってきた。
私はそういうのにめっぽう弱い。
じゃれているうちに彼のそばまで引き寄せられた。

「もう戻れない」

心の中で次はそう感じた。

彼の腕の中は心地よい。
このまま眠ってしまおうかと思った。
私にはヤれないもう一つの理由があった。
予定より数日早い。
身体がやめなよって言い聞かせてるようだ。

ぼーっとしていたら
いつの間にか彼の顔が目の前にあった。
彼はキスが好きだ。たぶん。
長い間ずっとキスをした。
息が出来なくなるくらい激しかったり
小鳥のように優しかったり
いろんなキスをずっとした。
先に進む前にできないと早く言わなきゃって
思えば思うほど怖くなる。
私をただの身体目的としてしか見てなかったら
怒られるんじゃないかとか、
なんで家まで着いてきたのって言われるかと思うと
怖くなってなかなか言い出せなかった。

「お風呂行く?」
私がモタモタしているうちに
彼の方が先に口を開いた。
あー、きっと捨てられる。
そう思いながら私は
「今日はできない。ごめんね。」
先に謝った。

「いーよ、大丈夫だよ。」

そう言って優しく抱きしめられた。
ますます彼が分からない。
彼は本当に優しい人なんだろう。
身体目的だけど
優しいからたくさん知ろうとするし
優しいからお金も払ってくれるし
優しいから優しく抱きしめてくれる。
原動力は全部体を重ねるため。
こんなに疑ってる私は心が汚いのだろうか。

再び熱いキスが始まった。
耳、首筋、胸、だんだん深くなっていく。
彼の手は私の下腹部にあった。
汚いからって言っても汚くないよと言い返す彼。
「挿れていい?」
私は断れなかった。

彼が入ってくる。
私は簡単に彼を受け入れてしまう。
そういう運命なんだろう。
好きな人との行為は
こんなに気持ちよかっただろうか。
汗ばんだ背中が愛おしくてたまらない。
以前よりも激しく彼は私を抱いた。

行為後彼の腕の中で休みながら軽く泣いた。
きっと彼も気づいていたのだろう。
何も言わずに撫でてくれていた。
優しさの中にある残酷さが際立つ。

チューハイと一緒に買ったチョコシューを
自分の口と私の口に交互に運ぶ彼。
今どんな気分で私の横にいるんだろう。
いつも一人で寝ている布団で
私とくっついて眠る夜はどんな気持ちなんだろう。
私と同じ気持ちで居てくれたら
幸せなのにな。

抱き合ったまま朝を迎えた。
仕事が始まる彼は
リモートワークの準備をしている。
夜とは違って明るくなった彼の部屋を
改めて見て真っ白だねとまた私は言う。

仕事前なのに駅まで送ってくれた。
彼はやっぱり優しい。
手を繋いで駅に向かう。
寒いねって彼のポケットに一緒に手を入れる。

「次はいつになるかなあ」
気づけば私から次に会える保険を
かけてしまっている。
「土日は休みだし平日も
そんなに遅くにはならないからいつでも会えるよ」
なるべく空いてることをアピールされると
舞い上がるじゃないか
なんて思いながら来月から仕事が始まる私は
具体的な日程を提示することが出来なくて惜しい。

「ばいばい、またね」
次は私ひとりで駅の改札を抜ける。
試しに振り返ると彼は笑って手を振っていた。

私たちはどんな関係なんだろう。
彼は一つ一つが本当に丁寧で優しくて
私はもう正式な彼女だと錯覚する。
次は、次こそは、

きっともっとちゃんと愛を伝える。

どこかの人気バンドの曲そのものだ。

好きだと言って壊れるくらいなら
このままのほうがいいのだろうかとも思う。
本当は長らくそういうことをしていなかった
自分のほうが
身体を求めてしまっているんじゃないか
そういう気持ちにもなる。

電車で揺られながら窓の外を眺める。
デートの後は楽しかったよって
連絡を入れるべしって
恋愛系YouTuberが言ってたと思い出して
急いで彼とのトーク画面を開く。

「今日もありがとう〜☺️お邪魔しました🙇🏻‍♀️
お仕事頑張ってね!!」
無難なことしか言えないなと思いながら
送信ボタンを押すと
いつも既読の遅い彼が秒で既読した。
彼も私に連絡を入れようと
ちょうどトークを開いていたらしい。
ますます彼が分からない。

「昨日、今日ありがとね!
気をつけて帰ってね☺️
また日程合わせて遊び行こ!」

彼が分からない。

ひとつになっていたはずなのに
考えてること想ってることは全く分からなかった。

私はまだ彼を知らない。


大人になってからの恋愛には
いろんな意味や条件も重なってくるし
面倒なことが増えていく。
それなのに時間が経つのばかりはやくて
みんな生き急いでいる。
私は何をしているのだろうか。
このまま都合のいい女でいいのだろうか。
私に好きという勇気なんてあるのだろうか。
私は幸せになれるのだろうか。

今日もそんなことを考えていたら一日が終わった。

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眠れない夜に

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