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#小説

【短編】のこされたもの

【短編】のこされたもの

取り壊しの決まった祖父の家に、早季子は自分の車に乗ってひとりでやってきた。祖母がさきに他界したあと、五年も一人暮らしを続けてきた祖父が、この春に亡くなり、誰も住むもののいない古ぼけた一軒家は、親戚一同で協議した末、つぶしてしまうことになったのだ。

早季子は30歳の誕生日を迎えたばかりだったが、去年看護師の仕事をストレスから休職して、両親の住むマンションに居候していたところだった。祖父の遺品を片づ

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身軽になった気持ちと荷物、「まるで夢の景色のように」【タイ・バンブー島】

身軽になった気持ちと荷物、「まるで夢の景色のように」【タイ・バンブー島】

「それはまるで、夢の景色のように」と、船に乗った帰り道、星空へと変わっていく夕焼け空を見つめながら、心の中で何度も、なんども繰り返す。

昼から夕へ、夕から夜への、息を呑むような空、波、音の変化と調和。誰もいない無人島の海のビーチで、ひとり立ち尽くすのは私。止まらないのは、シャッターを押す指だけ。

降り注ぐ陽射しに肌を焼いていたのは、ほんの1時間ほど前のことだった。信じられないほど透き通った、海

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