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BOOK REVIEW vol.080 世界は贈与でできている -資本主義の「すきま」を埋める倫理学-

今回のブックレビューは、近内悠太さんの『世界は贈与でできている -資本主義の「すきま」を埋める倫理学-』(NewsPicksパブリッシング)です!

以前、矢部太郎さんの『プレゼントでできている』を読んだ際、参考文献として近内悠太さんの『世界は贈与でできている』を挙げられており、「贈与」にまつわるお話にとても興味がわいたので、さっそく読んでみることにした。

贈与と聞いてパッと思いつく言葉は、「生前贈与」や「贈与税」…(苦笑)少し分厚めの書籍を手に取った時は、「ちゃんと理解できるだろうか」と不安を感じたけれど、“まえがき”に書かれていたスイスのお話がとてもおもしろく、そのあとに続く、“目次”にも興味をひかれるタイトルがズラリと並んでいたこともあって、好奇心のままに読み進めていくことができた。

「贈与」とは何か

著者の近内さんは書籍の中で、「お金で買えないもの=贈与」と定義し、映画や小説、漫画や曲の歌詞など、あらゆる作品や哲学者の言葉などを引用しながら、「贈与の原理」を説いている。哲学的な解釈も多く、理解に少し時間がかかる部分もあったが、引用されている題材が馴染みのある曲の歌詞や漫画だったのでイメージしやすく、贈与の原理について順を追って理解することができたように思う。そして、これまでまったく気づかずに過ごしていたけれど、私たちの身近にも、実は意外と多くの“贈与が隠されている”ことを知って驚いた。近内さんの解説を読んだことによって、それまで抱いていた贈与の縁遠いイメージが払拭され、視野がぐんと広がったような気がする。

読み進めていくと同時に、私自身が今まで、どのような贈与を受け取ってきたかについても考えてみた。“想い”がこもったプレゼント、落ち込んだときにかけてもらった言葉、仕事で失敗した日に、誰かがそっと机に置いてくれたチョコレート・・・どれもお金では買えないものばかり。すべてが私にとっての贈与だった。

著者の言葉が、贈与に気づくきっかけだった。

贈与はそれが贈与だと知られない場合に限り、正しく贈与となります。
しかし、ずっと気づかれることのない贈与はそもそも贈与として存在しません。
だから、贈与はいつかどこかで「気づいてもらう」必要があります。
あれは贈与だったと過去時制によって把握される贈与こそ、贈与の名にふさわしい。
だから、僕らは受取人としての想像力を発揮するしかない。

『世界は贈与でできている -資本主義の「すきま」を埋める倫理学-』P93より引用

こちらの一節を読んで、ふと気づいたことがある。

昨年12月、101歳で亡くなった祖母は言葉数の少ない人だった。施設に入る前までは、実家の部屋の片隅で編み物などの手仕事を黙々と楽しんでいた祖母。毎年冬が近づくと、前年に自分で編んだセーターを解き、また一から新たなデザインのセーターやベストを生み出すのが恒例で、編み物はプロ級の腕前。小学生の頃、“手芸クラブ”に所属していた私に、手袋の編み方を教えてくれたのも祖母で、あの時のいきいきとした祖母の目は今でも記憶に残っている。

祖母は生まれ育った時代の影響や、貧しい暮らしを経験したこともあり、何でも自分で作る人だった。私はただ黙々と手を動かす祖母の姿に憧れ、そんな祖母が作り出す作品によって、手製の丈夫さや質の高さ、世界に一つしか存在しない特別感、またそれらから伝わる“ぬくもり”を知ることができた。そして、自然な流れで私も手仕事が好きになり、今は青森・津軽の伝統技法、“こぎん刺し”を楽しむようになったのも、元を辿ると祖母の存在が大きく影響していることに気づいた。

祖母から届いていた手紙の封を開けてみる。

P117に『届いていた手紙の封を開けよう』という言葉がある。はたして祖母自身に「贈与」の意識があったかどうかは、今となっては確かめようがない。しかし、何十年と月日が流れた今、一冊の書籍から得た気づきをきっかけに昔の思い出を振り返ったことで、祖母から届いていた手紙の封をようやく開けることができたような気がする。たとえ祖母に贈ったつもりがなかったとしても・・・私はこの学びや経験を祖母からの贈与として受け取ることができて嬉しく思う。

贈与とは、お金では買えないもの。すでに数えきれないほど多くの贈与を受け取っていることに気づいたとき、感謝の思いで胸がいっぱいになった。今度は私も差出人として、受け取った贈与をまた次の宛先へと届けていきたいと思う。

✳︎

こちらの御本は、星読み係yujiさんのブログ内(2020年12月の記事)でもご紹介済みでした!👀✨

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