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【1分小説】チャック開いてるよ

お題:伝えたい
お題提供元:スマホアプリ「書く習慣」より
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「ズボンのチャック開いてるよ」って伝えたい。

 平日昼間、春の公園はのどかであたたかく、ブランコでは幼児がキャッキャして遊んでいる。

 だからこそ彼に伝えたい。でも。
 彼はまっすぐ私の目を見てこう言った。

「やっぱり俺たち、別れた方が良いと思う」

 こんな別れ話の最中に言うのもなあ。

 でも早く言わないと、恥ずかしい思いをするのは彼なんだし。こういう時は多少空気を読まない方が良いかもしれない。

「あの」
「分かってる。俺だって辛い。でもこれ以上好きになったら、どうしていいか分からなくて」
「あの、チャック」
「もう一度友達に戻らないか。それくらいの関係の方が、きっとうまくいく」
「チャック〜」

 さりげないチャックをあげる動作をしてみるも、彼は話に夢中で気づかない。
 今日は水玉柄だなあ。

 まあ別れ話だからな。でも1ヶ月前もこんな話をして結局こうしてよりが戻ったんだから、たぶん大丈夫。

 どこかでウグイスが楽しげに鳴いている。