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【5分小説】あなたに届けたい

お題:あなたに届けたい
お題提供元:スマホアプリ「書く習慣」より
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「着払いで」
「えっ」

 それまで丁寧に対応してくれていた店員さんが、ぎょっと私を見た。

 それもそうだ。バレンタインチョコを着払いで送るやつなんかいない。私以外には。

「ち、着払いって、その」

 可愛らしい店員さんは、笑顔を取り繕うも動揺は隠せないようで、swimming eyes。そういえば小学生の時にスイミングスクール通ってたな、あいつ。

「届けた相手に送料を請求する仕組みですが、それで宜しいでしょうか」
「よろしいです」
「は、はあ……」
「大丈夫ですよ。本命じゃないし、むしろ縁を切るために送るので」

 私は本心からそう言ったつもりだったが、自分の喉から発せられた声は少し硬くてうわずっていて、やっぱり強がっているのかな、なんて他人事みたいに思った。

 昨日あいつと通話した時も、私はこんな声になっていただろうか。
だってあいつが、好きな人できたって言うから。

 店員さんは一番奥の引き出しをごそごそして、着払いの送り状を持ってきた。

 お届け日、2月14日。私があいつに告白した日。3年前、お互い高校生の時に。

 お届け先、東京都杉並区。一度遊びに行ったけど、見知らぬ住宅地にあるあいつのアパートは、どこか冷たくてよそよそしく見えて。でも部屋の中の雑多な感じは、あいつらしくてほっとしたけど。

 棚には私が生まれて初めて贈ったバレンタインチョコの空き箱が飾ってあって、いつまで飾ってんのって笑ったけれど。
 あの箱はもう片付けちゃったかな。

 品名、チョコレート。あいつ、お酒飲んでみたらめちゃめちゃ弱かったって聞いたから、この店で一番アルコール強いやつ、度数500%くらいあるやつ、いやちょっと盛り過ぎた、本当は8%、でもこれでもめちゃめちゃ強いらしいんだ、これでも喰らえって、喰らって酔い潰れて新しい彼女とのデート失敗してしまえって。

「お客さま?」

 優しく肩をたたかれる。顔を上げると、店員さんがこちらを見ている。
 そこで私は、手元の送り状が雨漏りで濡れていることに気付いた。

「お品物、取っておきますので。少し休まれたらどうですか」

 ああ。こんな風に、あいつに優しい言葉を掛けてもらえたらなあ。

「そこの向かいのジュースバー、おすすめですよ。よく行くんです。あっ」

 店員さんはポケットを探り、他の店員さんの目を盗みながら、一枚の紙を差し出した。ジュースバーの100円割引クーポン。

「飲み終わったら、また来て下さいね」

 何か言ったらまた雨漏りしそうで、私は黙ってうなずいた。

 べしょべしょに濡れた送り状は文字が滲んで、このままでは届きそうになかった。