【1分小説】世界の終わりに珈琲を一杯【300字小説】

お題:「待つ」
お題提供元:毎月300字小説企画(https://twitter.com/mon300nov)
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 お湯が注がれると、挽きたての珈琲がふわっと膨らんだ。

 地響きでランプが揺れる。悲鳴が聞こえる。ラジオから、緊迫したアナウンサーの声。

「隕石はまだ落下してきます! 今すぐ避難を――」

 マスターがラジオを切った。

「他へ逃げたいなら、止めはしませんけど」

 客は僕一人。ドリッパーから滴る琥珀色の雫。いつもの香り。

「本日は、ブラジルとエチオピアのブレンド」

 彼女の淹れてくれる珈琲が好きだった。

「貴方のお気に入りの、ね」

 そして彼女も、恐らくそれを知っている。

 僕は彼女に思いを告げられるほど勇敢じゃないが、ここから逃げ出すほど臆病でもない。

 僕らは温かく苦い珈琲と共に、世界が終わるその時を待っていた。