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フランス人の自信の秘密は性教育にあった。

昨年1年間で、SNSによって性犯罪などの被害にあった18歳未満の子供は、1813人であることが警察庁により発表された。その割合は中高生が9割を占め、11歳以下の被害児童数は17と報告されている。これだけの子どもが巻き込まれていることを皆さんに知ってほしい。歩けさえすれば、乳幼児だって被害にあう可能性は非常時高い。

家庭で性教育を行えるかが、子どもたちを守る鍵になる。

フランスでは3歳から「性に関する教育」をする。一方、日本では思春期まで性教育をしない。国際セクシュアリティ教育ガイダンスという全世界で性教育の指針としている手引書によると、スタートは5歳からとある。しかし、私はそれでは遅いと思うんです。歩けるお子さんだったら、何歳でも性犯罪にあう可能性があります。私は子どもとコミニケーションがとれる2歳前後からはじめるべきだと思います。わが家では息子には1歳の頃から性教育をしています。

体には自分だけの大切な場所があることを教えていきます。それは「口」と「胸、性器、おしり」です。「胸、性器、おしり」は水着を着たら隠れるので、「口」も含めたこの4カ所を分かりやすい言葉で伝えています。そこは、他人に見せても触らせてもいけない、自分だけの場所だと教えるんです。それはお友達にとっても大事な場所であることを繰り返し言い聞かせます。分からないことがあったら、何でも私たちに聞いてねと。

実際に「赤ちゃんってどうやってできるの?」「〇〇って何?」と不意に質問された場合、きちんと説明ができるのか不安という声もあります。確かに「性交」や「受精」といったワードを子どもの前で口にすることに、恐怖感を抱く親御さんもいらっしゃいます。まずは親が性教育に関するワードに慣れることが必要です。わが家では、絵本の大好きな息子に日本語と英語の性教育の絵本を使い教えています。どうやって子どもができるのか、どうやって息子が誕生したのか。決して恥ずかしいことではありません。

― 性の話をすることで、重要なのは、性教育は命の授業でもあるということです。

「生まれてきてくれたことが奇跡」「あなたが大切なんだよ」と、子どもの心に愛情をたくさん与えてあげることが大切です。欧米は愛情表現がストレートですが、日本では言わぬが美徳という文化もあります。「大好きだよ」とお子さんに言えない親御さんもたくさんいます。でも愛情は、言わなきゃ伝わらないんです。大きくなるにつれて、受験、恋、スポーツ、自分の容姿など悩むことはたくさん出てくるはず。何か子どもがつまづいたときに、親からの愛情が必ず助けになる。そう思って、お子さんに愛情を注いでほしいですね。


ー 日本の学校における性教育の現状はどのようになっているのでしょうか。中学校で「性交」や「セックス」「コンドーム」という単語は、指導要領のなかに載ってはいません。学校の現場に行くと、先生方は「私たちは性教育はできません」って公表されています。学校ではやりませんと。家族形態も多様になっているなかで、その子の環境を考慮した対応ができない。だからご家庭でお願いしますとなる。それが今の現状。学校教育に性教育が入るというのは、これから10~20年ほどかかるはずです。であれば、まずはお子さんを一番理解するご両親から、家庭から性の教育を確立すべきです。

実は、私が母から性教育を受けたのは初体験後でした。父から性の話をされた記憶はありません。彼氏は結婚するまで家に連れてきてはいけない暗黙のルールがあった我が家。母も私がこんなにも早く性体験をするとは、母自身とかさねても想像もしていなかったと思います。父が娘の私に性の話をするなど我が家ではタブーだった気がします。それを私に教育するのは母親の仕事のような雰囲気もありました。性教育については、かなり古くお硬い家庭環境で私は育ちました。そしてアメリカ人の主人は面白いほどに私とは完全真逆の性教育をきちんと受けて育っています。だからこそ私は正しい選択をしたいです。

ー 性欲の意味がわからなくても、話すべきことがある。
残念ですが犯罪者はどこにでもいます。男の子でも女の子でも関係ない。自分を守るために、子どもたちは『されてはいけないこと』と『ノー』の言い方を知るべきである。あなたの体はとても大切なもので特に水着に隠れる部分は、誰も見たり触ったりしてはいけない。そうする人はおかしい。そんなことになったら、その場から逃げるか、大きな声で叫ぶことを教えます。

子ども自身に性の目覚めはなくとも、彼らに性加害をする人間はいる。それに対して身を守る手段を得ることもまた性に関する教育です。日本の性教育はセックスの話ばかりする。日本の学校で受けた性教育を振り返るとそれは生殖にまつわることのみだった。世界には男と女がいる。その男女が交わると子どもができる。その交わりのために男女には異なる生殖器がついており、それはこう機能する……というように。体の機能以外の知識、例えば性犯罪やそこから身を守るための方法については、教わった記憶がない。性教育とは生殖する体についての学習であり、当時小学生の私には、それはただただ恥ずかしく、一刻も早く終わってほしい時間だった。そして現在でも日本の性教育の内容は、あの時から大きく変化していないらしい。

教育機関における日本の性教育の実態を俯瞰した「わが国の性教育の現状と課題」によると(齋藤益子氏著、日本性教育協会「現代性教育研究ジャーナル」87号、2018年6月発行掲載)、文科省の学習指導要領では、小学4年生からは体の発育・発達、中学校では第二次性徴と性感染症、高校では性感染症と妊娠出産・結婚生活への言及がされている。どれも生殖する体とその体を使った行為、その行為の結果(妊娠出産・性感染症)に関するものだ。授業は保健体育の担当教員の裁量のため、優先順位が体育実技に置かれ、保健は雨の日の補完オプション、という扱いも多い。

性教育は「性器教育」ではなく人間教育

しかし現実には、性にまつわる現象や問題は、生殖周辺に限らない。性指向や性自認などの精神面、性的マイノリティー差別やアウティングなどの社会面、虐待・犯罪に関わる人権・法律面など多岐に渡る。が、日本の一般的な性教育授業では、その多くについて触れていない。今年改定が発表された東京都の性教育の手引きのように、性同一性や性犯罪について取り上げた指針もあるが、日本全体で見ればとても先進的な一例だ。

性教育は性器教育ではなく、生と性の教育、人間教育そのものである。そう提言する必要があるほど、現状は性器教育に偏っているのだ。その結果、性教育は公に語るのがはばかられる秘め事として扱われてしまっている。この教育を充実せんとする議論では必ず、頑強な反対派が登場するのもそのためだ。彼らの反対理由や論調は、まさに性教育をセックスを教えることと理解しているゆえのものだ。

ー フランスの性教育は国家政策のひとつ。一方フランスの性教育は、日本のそれより範囲が広く、内容も異なっている。幼児が自衛するための方法を教えることも含まれるし、中学生・高校生向けには日本と同様、生殖の仕組みやそのための体、避妊や性感染症について学ぶ授業ももちろんある。

フランス国家教育省公式サイトの冒頭には、性教育を定義する以下の一文がある。成人としての人生に備え、平等・寛容・自他の尊重という価値観の基盤を養うのが、性に関する教育である。続いて、性教育は以下の3つの観点から、国家政策に含まれると述べられる。

1. 国民の人生におけるリスク削減及び予防(若年での望まない妊娠、強制結婚、性感染症、エイズ)
2. 性犯罪・性差別・同性愛差別言動への対策
3. 男女平等の促進
そして上記の国家政策に即するため、公教育では5つの狙いを定めている。―客観的情報と科学的知識を与える
―多次元に渡る「性」の事象を区別・認識させる:生物学面・情愛面・文化面・倫理面・社会面・法律面
―批判精神を養う
―個人・団体の両方で、責任のある言動を促進する
―学校外に求められる的確な情報源や支援先・援助先を周知する
倫理公民では「性暴力に関する法の成り立ち」を調べる
続いて、この5つの狙いを各学校課程でどのように教えていくかが述べられ、そのための指導指針や副教材へのリンクが提示される。

一見して性教育の重要性と教育的視野の広さが感じられる上、どの説明も分かりやすく、具体的だ。日本から見て特に興味深いのは、性教育が「ひとつの教科」として考えられていないことだろう。性に関する知識は、生命科学・倫理公民・地理歴史・国語などの各教科の中で、横断的に取り上げるよう定められている。これらの授業では「生徒が発言する対話形式」が指定され教員が一方向的に持論を展開するのは禁止されていることも、大きな違いだ。たとえば生命科学では、生徒たちに現時点での生殖に関する知識を語らせ、そこから避妊や性病予防について情報を与えていく。倫理公民では性マイノリティー差別や性暴力に関する法の成り立ちを生徒に調べさせ、その是非を議論する。国語では「性」に関して知っている表現を生徒に列挙させたのち、その意味を教師とともに考える。中学・高校ではこうして「性に関する授業」が行われ、授業には外部の専門家を招くこともある。

フランスの公教育で、性に関する教育が正式に組み込まれたのは1973年。それ以前からも生殖や性病予防に関する教育は行われていたが、社会の変化に従って変革・補完しつつ、現在の形になった。近年の分水嶺は、2001年の教育法典改正による性教育義務化、2013年の公教育改革での男女平等教育の強化などだ。男女格差の是正は前フランソワ・オランド大統領、現エマニュエル・マクロン大統領とも任期中の主要ミッションとして掲げており、その実現のためには性の包括的で客観的な知識を、できるだけ早い時期から与えるべし、と、社会的合意が相成った。また昨年には小学校での性教育を再定義する大臣通達が出され、教育指針がさらに詳細に示されている。

フランスでの性に関する教育は満3歳から始まる。これらの性に関する授業の狙いは、フランスの国家教育省が関わる全ての教育機関を対象としている。授業が義務となっている小・中・高校の他、大学や専門学校、そして満3歳の年からほぼ全ての子どもが3年間通う公立幼稚園保育学校もその対象だ。保育学校では性に関する授業はなく、もちろん生殖に関わることなど、年齢にそぐわない情報は与えない。が、自分と他人の体を大切にすることは、学校での生活のあらゆる時間に伝えられる。たとえばトイレの時間やプール遊びの際に、「男女には体の部位に違いがあること。違いはあっても平等であること」「違う部分は体の大事な場所なので、水遊びの時も水着で守ること」「その部分を他人が見たり触ったりしてはいけないこと」などを教えるのだそうだ。このように性教育の意味が、日仏ではまったく違う。現在ではフランス全土の中学校の97%、高校の89%で、上記の指針による性にまつわる教育の実施が確認されている。

下ネタが大好きな年齢でも、その用語を自然に使い、守るべき場所と認識している子に育てることはとても重要である。同じ言葉を使いながら、内容がこれだけ異なる日本とフランスの性教育。

そこには当然ながら、両国の社会通念や文化、習俗の違いが大きく影響している。性教育のあり方は、社会背景のあり方を映す一つの鏡なのだ。


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