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Nのために~すべては大切な人を守るため~

新井P×塚原監督×奥寺脚本の「最愛」が2021年秋クールにスタートするということで、私は久々にドラマ好きなら知らない人はいない「Nのために」を見返すことにした。人生で4度目の「Nのために」だ。4度目にして初めて自分の言葉で感想を綴る。しっかりとこの作品と向き合いたい。

~それぞれのNとは~

「あの時、そこにいた全員が誰かのことを考えた。それぞれに大切な人がいて、その人のことを思った。自分以外の誰かのために。そう、すべてはNのために」

この作品はそれぞれが大切なNのために、自分を犠牲にしてでも、相手を守り抜く姿が描かれる。なぜ、Nのためにそこまでできるのか?その理由は「愛」だ。愛する人=Nというように考えて良いだろう。

①杉下希美(榮倉奈々)

「下は見ない。上を向く、、、、。上を向く」

杉下希美にとってのNとは誰だったのか?
杉下希美は父親に追い出され、そして母親は精神的に壊れ始め、彼女の高校時代の生活は幸福なものとはいえなかった。そんな絶望的な状況でも彼女が下を見ずに、上を目指して進んでいけたのは成瀬君(窪田正孝)という存在のおかげだった。ずっと住んでいた自分の居場所を追い出された杉下と思い入れのある料亭さざなみが売られて人の手に渡ってしまうことが決まった成瀬君。

「私ね、あの先まで見てみたい。何もない場所で何もせんで、幸せって言い聞かせながら狭い世界で人生終えるなんていやよ。奨学金でもなんでももらって大学行きたい。広い世界で生きていきたい!野望について話そうや。これからのこと考えよ」

彼女が窮屈な状況下で頼れる人がいないなか、未来のことを希望を持って語れる相手は成瀬君だけだった。彼がいなければ、彼女は自分の中にあるやりたいことすら口にすることができなかったのだ。彼女の野望の一つである「バルコニーで演説する」を初めに叶えてくれたのも成瀬くんだった。そして、2人にはお互いに「島を出ていく」という共通の野望ができ、大学に行くため、彼らはさらに共に行動することになる。

しかし、彼女の環境はどんどん悪い方向へ向かっていた。さらに、おかしくなっていく母親に追い詰められ、サイコパスな父親には頼れない。彼女は思わずシャーペンで成瀬君に向けて「たすけて」と4回ノックする。成瀬くんは彼女の心の叫びを悟ったのだろうか、、、、。

杉下「あんな家なくなればええんよ。あの家がなくなれば、お母さんも私も楽になる。成瀬君にこの気持ちわかる?」
成瀬「わかる。燃やしてしまえば、誰にも取られんもんな。大事な場所自分だけのものにできるもんな」
杉下「こんなに辛いなら、全部燃やしてなくしたい、、、」
成瀬「なら俺がやる。杉下に犯罪者になってほしくない」
成瀬「苦しいなら助けるけん。どうしてほしい。俺に何ができる?卒業したら島を出よう」

成瀬君も杉下と同様、心のどこかで料亭さざなみが誰かの手に渡るなら、燃やしてしまった方が楽になると思っていたのだろう。そんな2人の目の前で起こった料亭さざなみの火事は残酷ながらも救いであったのかもしれない。だから、2人はただ立ち尽くすまま火を見つめていた。

成瀬君が放火したかもしれないと思った杉下にとって、これは「罪の共有」が初めて生まれた瞬間だった。そう。究極の愛の始まりだったのだ。

「共犯じゃなくて共有。誰にも知られずに相手の罪を半分引き受けること。誰にもっていうのは、もちろん相手にも。罪を引き受け黙って身を引く」

しかし、杉下は成瀬君を守るため、この事件以降距離をとるようになってしまう。そして、奨学金がなくなり進学が絶望的で諦めかけていたが、杉下は成瀬君がくれた「ガンバレN」と書かれたフェリーのチケットを見つけ、上に行く野望を立て直す。父親に大学費用を出してもらうため土下座する姿は「野望を叶えるために、どんなことでもする」という杉下という人物の性格そのものだった。
島を出て、新たに出会いがあっても彼女の心の支えは成瀬君だった。成瀬君との島での思い出と成瀬君からもらった「ガンバレN」と書かれたフェリーのチケットが拠り所だった。


その後、杉下は広い世界を目指し、常に高いところへ行こうとする安藤(賀来賢人)に惹かれていく。ゴンドラに乗せてくれて、高いところに連れていって、水平線を見せてくれたのは安藤だった。

「こんなとこ、私一人じゃ来られなかった。ありがとう安藤」

広い世界を見せてくれた安藤が杉下を高校時代のトラウマから解放する。杉下はその日以降、冷蔵庫いっぱいに食事を作ることはしなくなった。確実に安藤は杉下にとって上へと引き上げてくれる存在だった。

西崎「杉下には明るいところに連れてってくれる男がいいんだ。罪の共有とかじゃなくてな」

高い場所を目指す安藤の邪魔をすることはしたくない。杉下は彼がこの先も誰にも邪魔されず進み続けて欲しいという思いを持っていたことが、N作戦2の話を彼に伝えなかったことからもわかる。


このスカイローズガーデンでの悲劇を招いた理由の1つに、杉下が安藤が野口の手によって僻地へ飛ばされるのを何としてでも阻止しようとことが含まれている。野口に暴行を起こさせ、警察に逮捕されるよう仕向けるため、不倫相手が野口奈央子を迎えに来ていることを知らせたのだった。この時点で、杉下の何としてでも守りたい相手が安藤であることがわかる。

「その時考えていたのは、大切な人のことだけだった。その人の未来が明るく幸せであるように。みんな一番大切な人のことだけ考えた」

安藤を守りたい。その一心で殺害現場の部屋にも入れようとしない。徹底的に安藤をかばおうとする。

「外からドアチェーンかかっとったこと、警察には言わんで」

あの日、杉下にとっての大切なNは安藤だったのだ。
そして、この時、西崎(小出恵介)さんのための嘘、安藤のための嘘を貫き通すという一人では背負いきれない罪を共有してくれたのは成瀬君だった。       杉下にとって、誰にも邪魔されることなく目標に向かって進み続けてほしいと願い、そのためには自分が何としてでも守りたいと思う相手は安藤だった。ただ、自分の弱さを見せることができて、自分の心の支えになってくれる、助けを求めることができるのは今も昔も成瀬君だけだった。

「いかにも崩れ落ちそうなつり橋の向こうに杉下がいたとしよう。杉下がつり橋の向こうで助けてと呼んでいたらどうする?君はつり橋を渡るかい?橋が崩れ落ちるかもしれない。今までの生活にはもう戻れないかもしれない」

この西崎の問いに成瀬君が

成瀬「普通ないですよね。そんな状況」
西崎「橋の向こうから杉下が助けてって君を呼んでいたとしよう」
成瀬「呼ばれれば渡ると思います」

このように答えたのに対して、安藤は

安藤「杉下はそんな簡単に助けてって言わない」
西崎「言ったとしたら」
安藤「何だってする」

と答えた。この返答からも、安藤から見た杉下は誰かに助けを求めるような姿には映っていないということがわかる。それは杉下が安藤には弱いところを見せないように助けを求めようとしなかかったからだ。
また、この問いから、安藤は今の生活に戻れないとしても杉下を優先して助けると答えている。その答えを聞いた西崎はそれは杉下の本望ではないと判断し、彼女が病気であることを告げなかったのだろう。

杉下「安藤には弱っていくとこ見られたくないし。元気な所だけ覚えててほしい」
西崎「後で知ったら、、、何で言わなかったんだって怒るぞ、あいつ。」
杉下「そしたら、西崎さんがなだめて」

だから、10年経って余命宣告を受けた杉下を支えるようにと西崎が成瀬君に頼んだのだろう。安藤ではなく。

「もう一度、杉下を助けてやる気はないか?杉下本人は誰の助けも必要としていない。だがあるいは成瀬君ならと思っている」

大学時代の杉下には、安藤のような「罪の共有」を自己満足と切り捨てて、どこまでも正しく美しい生き方をしている人が必要だったのかもしれない。でも、結局杉下には自分と同じ場所で支えて支えられる罪の共有を分かり合える成瀬君が必要だったのだ。

「一緒に帰らん?ただ、一緒におらん?」
成瀬「杉下の思う通りにしたらええよ。杉下の人生や。生きたいように生きたらええ。でも、待っとるよ」
杉下「甘えられん」
成瀬「待っとる」

杉下は安藤には未来への希望を託して、残りの人生を成瀬君と島で暮らすことを選んだ。あの日、杉下にとっての大切なNは安藤だった。しかし、杉下の人生において大切だったNは彼だけではないだろう。「成瀬君」「安藤」「西崎さん」「野薔薇荘のおじいちゃん」が杉下にとってのNだったのだ。

「私に人生をくれた大切な人達。ありがとう」

②成瀬慎二(窪田正孝)

成瀬君にとってのあの日の大切なNは言わずもがな杉下希美だった。さざなみが火事で燃えているとき、何も言わずに自分のことを守ってくれた。杉下が高校時代、成瀬君に救われていたのと同様に成瀬君も杉下に救われていた。そして、杉下にとって上京後も成瀬君が心の支えだったように、成瀬君にとっても杉下が心の支えだったのだろう。

成瀬「杉下がおったけん。島を出られた。これからは杉下が言ってくれたこと裏切らんようになんとかやってく」
杉下「私、成瀬君に何て言った?」
成瀬「火事の時励ましてくれた。あとからあの一言に救われた」

「成瀬君なら、どんなことだってできるよ」それが彼を暗い方へ行かないように守ってくれた言葉だった。そんな言葉をかけてくれた杉下を守るため、彼は目の前に広がっている事件の状況を把握し、とっさに判断し、混乱する杉下を落ち着かせるように語りかける。

成瀬モノローグ「どうして、今自分がここにいるのかわかった。4年前杉下は何も聞かずに俺をかばってくれた。今度は俺の番だ」
成瀬「大丈夫。全部偶然だって言えばいい?杉下と俺は何も知らんかった。それでいいね」
西崎「杉下を守ってやってくれ」

そして、彼は杉下一人では背負いきれない嘘という名の罪を共に背負うことになった。

彼はあの日自分の罪を共有してくれた杉下に対して、今度は彼が杉下の罪を共有した。成瀬君にとっても、究極の愛とは罪の共有だったのだろう。

③安藤望(賀来賢人)

安藤にとってのN。これがまた難しい。好意を寄せている相手と言うなら、杉下で間違いないのだが、あの日安藤はみんなから、完全に守られていて、事件の蚊帳の外だったため、「杉下のために」した行動というのはないのではないだろうか?あの日に関することで「Nのために」行動したと考えると、安藤にとってのNは西崎になるのではないだろうか。

西崎「杉下には明るいところに連れてってくれるやつがいいんだ。罪の共有とかじゃなくてな」
安藤「罪の共有って、、、。黙ってかばってやったとか、そういうこと?そんなのただの自己満足だろ。俺だったら、黙ってないで一緒に警察行ってやるよ」
西崎「刑務所に入ることになったら?」
安藤「待つ。それでできる限りのことをしてやる」
西崎「まったく、君の人生は正しくて美しいな」

この言葉通り、安藤は西崎の逮捕後、彼の刑罰が軽くなるよう最善を尽くしていた。この台詞は罪の共有を自己満足と考える安藤がどのような行為をその人のための行動と捉えるのか示されている。まさにこの言葉通り、安藤は行動したのだ。
けれど、やはりどちらかと言うと、あの日、安藤はNたちに守られた側だったように思う。

高野「仕事柄人が何かを隠すのはやましいことがあるからだと思ってました。独りよがりやなと思わんこともないですが、誰かを守るために無心に嘘をつく人間もおるんですね」

④西崎真人(小出恵介)

西崎にとってのあの日のNは、野口奈央子(小西真奈美)だった。彼女を犯罪者にしたくない一心で、彼は罪を被ることを引き受けた。それは過去に犯した自分の罪を償いたいという思いもあったが、、、。

西崎「何も見なかったことにしてくれ。俺が殺した」
杉下「何でそんなウソつかなきゃいけないの?西崎さんが罪を被ることはないでしょ。」
西崎「俺は罪を償いたい。前にも、母親を見殺しにした。それを償わず生きてきてどう現実に向き合えばいいのかわからない。償い終わったら今度こそお前たちと同じように現実を生きていく」

10年拘置所にいることになったけれど、結果的には罰を受けたことで、彼は母親のトラウマから解放されたのだからよかったのかもしれない。
あの日、最も大切なNだったのは野口奈央子だったが、このドラマを通して西崎はあらゆるNを守っていたように思う。野薔薇荘、安藤に事件の真相を伝えないこと、杉下の願いを尊重すること、最後に成瀬君と杉下を繋げたこと。


あの日という点においては、みんな唯一のNを守ることを考えていた。けれど、彼ら彼女の人生という長い棒で考えると、繋がりに繋がって様々なNを救っていたのだ。

「誰も悲しませずに死ぬことはできるんでしょうか」
「それはできないよ。誰も悲しませずに生きるのが難しいのと同じ。一人で生きていくことなんてできないんだから」

人は大切な誰かと繋がって共に生きているのだということを実感させられるドラマだったのではないだろうか。

「私に感動をくれたNのために、ありがとう!!!」



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