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秋のワイン・ハイキング ー ウィーン

9月下旬、ここロンドンにも気持ちの良い秋晴れが訪れた。穏やかな太陽の光が嬉しく、風がまた心地よい。そんな時は、ハイキングにでも出かけたくなる。そんな秋の気持ちを見通しているかのように、9月最後の週末に、ウィーンでは毎年「ワイン・ハイキングデー」という名のイベントが開かれている。

あまり知られていないかもしれないが、オーストリアにも数々のワイン生産地があり、首都であるウィーンでもワインが作られている。国立オペラ座やシュテファン寺院、リンク通りなどがある中心地から、地下鉄や市電で北へ向かい、1時間ほどでブドウ畑が広がるエリアに出る。ワイン農家直営の「ホイリゲ」と呼ばれるワイン居酒屋が集まる一帯でもある。

ホイリゲでは、ハウスワインをピッチャーで注文し、マグカップのような持ち手のついたグラスに注いで飲むのが一般的。炭酸水で割って飲むのもまたオススメだ。そして、揚げた鶏肉や柔らかい豚肉などがまた美味しい。

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アコーディオンとバイオリンを携えた陽気な奏者が各テーブルを巡り、お客さんが好きな曲をリクエストしてみんなで歌う、という楽しい時間を過ごせるのもホイリゲの楽しみの一つだ。日本人観光客には、『桜』や『上を向いて歩こう』なども弾いてくれる。観光客の方に有名なホイリゲのエリアは、「グリンチング」と呼ばれるところで、ウィーンを旅行した方は、行かれた方も多いのではないかと思われる。

私たちは、そのグリンチングからこのワインハイキングをスタートした。目指すは「コベンツル」という緩やかな丘の上。このあたりは、北のウィーンの森と呼ばれており、カーレンベルグという高台の丘から緑の森が広がっている。コベンツルはその途中にある。ということは、なだらかな上り坂をひたすら歩いていくことになるのだ。体力的には楽ではないハイキングになりそうだ。

歩き始めるとさっそく、緑のブドウ畑が見えてくる。この後のステキな道のりが想像され、ワクワクする。

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さて、大々的にイベントとして行われるからには、やはり嬉しい特典がある。まず一つ目は、周りのワイン農家さんが用意をしてくれている休憩場所があること。そう、ワインハイキングという名前がついているのだから、当然ワインも楽しめるようになっているのだ。早々にワイン好きの人たちが集まっているところが現れた。まだハイキングは始まったばかりだが、とりあえず休憩をしよう。だって、見事な景色が広がっているのだから。

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ブドウ畑の中に用意されたテーブル席に座ってワインを楽しむ人たち。ワイン樽をテーブルにしてスタンディングでワインを飲む人たち。

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そして、緑のブドウ畑の奥には、ウィーンの町とドナウ川の素晴らしい景観が広がる。清々しい空気に、見事な景色、それに美味しいワインという絶妙な三重奏。

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ワイン以外にも、濃厚なブドウジュースやチーズなどのおつまみもあり、家族で参加している子供たちや、ワインが飲めない方ももちろん楽しめる。

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さて、しっかりパワーを蓄えたところで、ハイキングに戻ろう。この途中の場所でのんびりワインを楽しんだことだし、ハイキングを終わりにしてもいいじゃないか、という悪魔のささやきも聞こえてくるのだが、いやいや、それではいけないのだ。もう一つの特典をゲットするという使命がまだ残っている。

それは、このワインハイキングのコースに用意されている、スタンプを集めること。要所にスタンプブースが設置されており、3箇所からスタンプを集めると、景品がもらえるのだ。まんまとイベント側が立てた策略にはまっているが、これを達成しないわけにはいかない。一つ目のスタンプは、すでにスタート地点のグリンチングで獲得済みだ。

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グリンチングから寄り道をせず、まっすぐ歩いて約30分でコベンツルに到着する。私たちは途中ワイン休憩を挟んだので、1時間くらいだろうか。なだらかな上り坂をやや息切れ気味に上り、ようやく目的地に到着。ここで2つ目のスタンプを取得。よし。

ここにも休憩ポイントがあり、可愛い屋台が気分を盛り上げてくれる。

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そして、ここには家畜農場のようなところもあった。コベンツルには以前も何度か来たことがあったが、これは新しい発見だった。

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さて、いよいよ最後の3つ目のスタンプを求めて出発。今度は下り坂になったため、だいぶ楽だ。美しい景色を見ながら汗をかく、なんだかとても充実した時間を送っている気分になる。

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3つ目のスタンプポイントがあるのは、「ヌスドルフ」という場所。「ベートーベンの散歩道」と呼ばれる小川沿いの小径の近くだ。コベンツルから歩いて45分ほど。今度は寄り道もせず、まっすぐと下っっていった。

引っ越し好きで知られるベートーベンは、このあたりに住んでいたことがある。ウィーンで音楽家として活躍していたベートーベンだが、難聴を煩い、医師の勧めによりこの閑静なエリアに住んだ。そして、やさしい自然に触れながら散歩をしていた道が「ベートーベンの散歩道」。この散歩道を散歩をしながらできた曲が、『交響曲第6番田園』である。小鳥の囀りのような木管楽器が、この小径を歩いていると思い出される。

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このエリアには、ベートーベンだけではなく、モーツアルトも訪れている。このハイキングの出発地点であったグリンチングから少し歩いた、オーベレ・ライゼンベルクヴェックという場所には、記念碑のようなものが残されていた。1781年モーツアルトが父親に宛てた手紙の中で、彼が住むウィーン中心部から1時間ほど離れたこの場所は、とても心地よいところだと紹介している、ということが書かれている。

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さて、ようやく3つ目のスタンプをもらい、記念品も入手した。それは、小さなバッジだった。”ワインハイキングウィーン”というロゴと、小さなブドウの葉の写真が描かれている。些細な景品ではあるが、汗を流して歩いた道のりに値する喜びを得ることができた。

このイベントを気に入った私たちは、翌年もまたこの道を歩いて、バッジを獲得した。赤いワイングラスを象っており、前年のものより小洒落ている。白状すると、初めにブースでこのバッジを見かけて、この可愛いワイングラス形のバッジが欲しくなり、急遽再びこのイベントに参加したのだ。

今でもこの2つのバッジは私の手元にある。

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このワインハイキングコースは、私が参加したウィーン北部のグリンチング周辺だけではなく、ウィーン南部や西部を歩くコースもある。約190万人もの人たちが暮らすオーストリアの首都ウィーン。歴史的建造物や華やかな音楽が楽しめる静かな町だ。しかしそれだけではなく、こうして広大なブドウ畑を有しており、美しい自然を満喫することができる。それもまた、ウィーンの魅力の一つなのだ。

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