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経営戦略と整合の取れたHRであるために~タレントマネジメントの視点から~

経営戦略の成功は、適切なリーダーシップによって左右されます。理想的なリーダーは、明確なビジョンと革新的な思考を持ち合わせている必要があります。彼らは組織の文化を形成し、チームを動機づけ、目標達成に向けて導く役割を担います。また、不確実性を乗り越える柔軟性と、変化に迅速に対応する能力も必要です。効果的なコミュニケーション能力により、ステークホルダーとの関係を構築し、組織全体の信頼を築くことが求められます。


1.リーダーシップパイプラインをいかに継続的に充実させていくか

人事が経営戦略をサポートするうえでのタレントマネジメントの重要性は、いよいよ増している。しかし企業の現状はどうだろうか。初めに登壇した藤原氏は、グローバルな調査結果で示す。「これは、世界最大級の人材開発コンサルティング会社であり、当社と40年以上パートナーシップを結ぶ米国DDI社と共同で行っているGlobal Leadership Forecastの調査結果だ。直近は2010-11年に実施し、74カ国、約1万2000名のリーダーの方、約1900名のHRの方に参加いただいた。この調査でリーダーの後継管理、業績管理など、タレントマネジメントシステムの効果性について質問したが、回答結果を日本とグローバルとで比較すると、日本の方が全般的に低い傾向だ」。

また、同調査ではリーダーの供給体制についても質問したが、「82%の人事・人材開発担当者が、必要なリーダー人材が確保できていないことを懸念している」と示す結果が出たという。その一方で、リーダーの質と組織の業績に強い関係性があることも、同調査で示された。「将来のビジネスを成功させるうえで、リーダーの質をどう確保していくかが組織の大きな課題だとあらためて言える」と藤原氏は述べる。

マネジメントサービスセンター 歴代代表取締役社長 藤原 浩氏

では、リーダーの質をどのように確保するか。そのためには、初級管理職候補者から初級・中級管理職、上級管理職、経営職へとつながる「リーダーシップパイプライン」をいかに継続的に充実させていくかが重要なテーマになる。そして、このリーダーシップパイプラインを設計運用するとき、まず一番大事なことは、求めるリーダーの定義を明確にすることだ。

藤原氏は「我々は4つの要素からリーダーの定義を行っており、これをサクセスプロフィールと呼んでいる」と述べ、次のように説明する。「4つの要素の1つ目は、リーダーとしてどういう『経験』をしておくべきかだ。2つ目は『知識』。特に日本企業の場合、事業部門トップが役員になり、経験がある業務範囲は詳しいが、事業の垣根を跳び越えると全く知識がなく、意見を言うにもポイントをつかめないといった例をお聞きすることがある。各マネジメント階層で何を知っておくべきか定義することは重要だ。3つ目は『個人特性』で、リーダーとしての成功を促進する要素、阻害する要素、仕事の価値観などを明確にする。4つ目は『コンピテンシー』で、リーダーとしての成功・不成功に影響する項目を定義する」。

2.タレントマネジメントは体系的、継続的な運用が重要

このように求めるリーダー像を定義すれば、現在、リーダー候補が各要素に対してどこまで到達できているかをアセスメントなどで測定し、焦点を絞った能力開発を行うことが可能になる。では、具体的にどのような仕組みを構築して、リーダーシップパイプラインを継続的に充実させていくか。藤原氏が一例として紹介したのが、DDI社の提唱する「タレントマネジメントモデル」だ。このモデルの特徴は、まず経営戦略からビジネスドライバー(=自社のビジネスの成功要因)を定義し、これに沿って将来不足する人的能力などを予測すること。そして、サクセスプロフィールをコアとして「次世代人材の選定→準備度の診断→育成の加速→業績の推進」という「人材力拡大エンジン」のサイクルを回していく。

このサイクルを効果的に回し、リーダーシップパイプラインを充実させていくためのポイントについて、藤原氏は次のように述べた。「ひとつは、人事施策をバラバラに打つのではなく、リーダー育成に関するプロセスを体系的、一貫的に運用していくことだ。また、タレントマネジメントモデルは継続性を確保することが大切だ。特に、当社の経験では、トップのコミットメントの有無が成功を大きく左右する要因になる。期待する成果が生み出されているか定期的に測定することも、継続性を高めるうえで欠かせない」。

3.ASTD提唱のリーダーシップ開発手法「LEADSモデル」とは

藤原氏に続いて登壇した中原氏は、米国に本部を置く世界最大の人材開発研究団体、ASTDが提唱するリーダーシップ開発手法「LEADSモデル」の全体像とポイントを紹介しながら、「人事が戦略的なリーダー育成に取り組もうとするとき、必要なことは何か」に迫っていく。

LEADSモデルのプロセスは、「基盤を固める」「未来を描く」「行動計画をまとめ(明文化)、表明(公表)する」「リーダーシップ開発を促す要素を設計する」「進展を維持する」という5段階になっている。まず基盤を固め、未来を描いて、次第に具体的な施策の設計に入っていくという流れだが、現実にはどうだろう。中原氏は「具体的な施策の設計あたりから始まっている場合が結構多くないだろうか。

また、このリーダーシップコンピテンシーは本当に自分たちの会社に合っているのかといったことをよく確認せずに、なんとなく、こういうリーダー研修をやれば将来のリーダーが育ちそうだというところからスタートしていないか。実は、こういったことはASTDのなかでもよく言われるところだ」と、企業のリーダー育成における問題点を指摘する。

4.成功するポイントは明確なゴールの設定と測定・評価

では「基盤を固める」とはどういうことか。LEADSモデルにおいては、「リーダーシップ育成推進力となることは何か」、「組織戦略とリーダーシップ育成との整合、関連性」という2点を明確に理解することだ。中原氏は次のように説明する。「リーダーシップ育成推進力とは、藤原さんの講演で出たビジネスドライバーと同じ。グローバルリーダーが必要だというとき、たとえば3年後にこのビジネスをグローバル市場で何パーセントの売上にする予定なのか、あるいは会社自体が完全に外に出てしまうような話なのかによって、ビジネスドライバーも必要な人材要件も変わってくる。だから、最初に経営層とよく話し合いましょうということだ」。

そのときに重要なポイントは、漠然とではなく、経営戦略に沿って具体的な数字で定義すること。「それがないと指標が作れないからだ」と中原氏は述べる。「たとえば、イノベーティブなリーダーを育てたいとするなら、自分の会社では何が起こっていればイノベーティブなリーダーシップが発揮されたことになるのかという定義作りが非常に重要だ。そのためには、人事はそれぞれの部署のビジネスをよく知っている必要がある」。

次に、「未来を描く」段階でやるべきことは、リーダー育成の方向性を明確化し、経営者・役員層の関与を得ることだ。中原氏は「経営層がコミットしているという態度を示してくれないと、『リーダー育成って人事だけの問題よね』という意識を持たれがちだ。マネージャー層まで全員で取り組んでいくんだという形で体制・組織を作らないと成功しない」と、経営者・役員層を巻き込む必要性を指摘する。

そして、「進展を維持していく」最終段階では、定義した指標を見ながら、育成対象者が実際にどう伸びているか測定するだけでなく、組織レベルの目標達成度も評価していく。リーダーシップ開発プログラムで成功するための必須条件のひとつとして中原氏が挙げたのは、「明確なゴールの設定と、そのモニター、測定・評価を行うこと」。成果指向の重要性が強調された。

5.関連ソリューション

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7.会社概要

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント

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