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「思いこみ・決めつけ採用」がもたらす組織へのダメージ~<こんなはずじゃなかった>ではもう遅い Vol.3(2/3)

5.採用活動におけるゴールの勘違いとコア人材の不足

あるクライアントの経営企画室の責任者から、 こんなお話を、つかがいました。

そのクライアントの業界全体では大きなビジネス環境の変化が起こり、 経営者は抜本的な経営変革に向け、それを担う中核組織として経営企画室を新設しました。

「経営企画室で策定したビジネス戦略の内容については、 社長は大いに満足してくれました。だけど、その戦略実施の中心となって、実務的にプロジェクトを推進できるだけのコアとなる人材が、 わが社には不足しているんです。学歴重視の採用のツケが、今になってボディブローのようにきいてきました」


この会社は、 けっして新卒採用の母集団形成に困るようなところではなく、 知名度やプランドカのかなり高い大手企業の一つです。そのような企業でさえ、 いざ、大型のプロジェクトを実行するにあたって、有能な若手人材 (コア人材) が少ない。 そのような現実を、当の責任者は嘆いているのです。

そのクライアントは、 先ほども述べたように知名度が高く、毎年いわゆる一流大学の優秀な学生がたくさん応募してきます。多くの企業がそうであるように、 当該社においても「採用の成功とは、 予定している人数を確保し入社にまでもっていくこと (アタマ数採用)」という近視眼的なゴールに向かって採用面接が行われ、面接官の方たちの思いこみと決めつけで、 ステレオタイプの人材を大量に採用したことが、 コア人材の不足をもたらしたのかもしれません。

現在のビジネス状況における採用の本当のゴールは、 採用予定人数の確保ではなく、 「企業の競争力を確実に高めてくれる人材の確保」にほかなりません。

「アタマ数採用」とは、 要員要請の人数を満足させるために、 採用期間の後半あたりから人物評価のバーを下げて、 とにかくアタマ数を確保するというたぐいの採用をいいます。

採用開始当初は能力・適性本位で合否のい分けをしていたとしても、それでは人数が足りないことが見えてくると、人事・採用部門はなんとしても採用予定人数の確保を至上命令として動いてしまうものです。つまり、 アタマ数をそろえること、 つけ加えれば、内定を出した学生を入社まで引き留め、全員が入社式に出席することが、人事・採用部門のゴールになってしまうわけです。

アタマ数をそろえることにプレッシャーがかかると、どうしても採用基準がぶれてしまいます。そのため、本来なら採用すべきではない人材が会社に流入して、組織にさまざまな弊害が生じる結果、組織力を弱める可能性が高くなるわけです。

6.「バブル採用」は日本経済の不幸

その典型的な例は、 いわゆる「バブル採用」でしょう。1980年代の後半からはじまったこの時期、どの企業も社内からの旺盛な要員要請に応えるため、「う~ん」と心では唸りながらも、「数はパワー」「そこそこ能力もありそうだし、あとは社内で鍛えればいいんだから」と、とにかくアタマ数をそろえることを優先して大量採用を行いました。

その結果は周知のとおり。 バブルがはじけて数年後、会社の業績が急速に悪化してきたころ、バブル期の採用ミスが顕在化してきたのです。

この時期、多くのビジネス誌が金融機関を例にして取りあげたように、バブル採用された多くのサプライズ社員たちは、20代後半にして早くも余剰人員と化してしまいました。とはいえ、平成不況のまっただ中ですから、サプライズ社員としてもおいそれとは転職できません。

そして現在、そのまま会社に残った彼らは、今や40代。会社はコア人材の不足とともに、この人たちの処遇にも困っているという状況は、最近のビジネス誌が話題の一つとして伝えるとおりです。

誤解のないように申し添えれば、ここでいう「採用ミス」とは、業務遂行能力のレベルが低い人を採用した、ということだけではありません。先にも述べたように、志向性や行動様式が会社の事業内容やカルチャーにそぐわない人の採用も、これに含まれています。

最近よく採用担当者から聞くことですが、内定をいくつもとっている学生に、どこの会社に内定がでているかを尋ねると、金融、商社、 コンサルタント業界、はてはメーカーに至るまで有名どころの名かいくつも挙がり、彼らが受験した業界の幅の広さに驚くということです。

これは学生の無節操さばかりではなく、採用する側にも問題があるのではないでしょうか。つまり企業が、「自分たちの業界や自社の特性にマッチする適性とは何か」を真剣に考えているのか、疑問を感じずにはおれません。

本来であれば商社のビジネスモデルに適性のある人を都市銀行が採用してしまう、というようなものです。こうした採用ミス (適性のミスマッチ)は、本人にとっても、また会社にとっても不幸なことだといえます。そしてこのことが、若手社員の早期退職の原因の一つにもなるのです。

さらにいえば、「アタマ数採用」によって、他の業界や他の企業にこそ適性をもった学生を採用するということは、採用した企業にとっても、また適性のある人材をさらわれた他業界・他企業にとっても、ともに不幸なことだといえるでしょう。 一方、自分の適性に合わない会社に採用された学生もまた、入社後にミスマッチが顕在化するため、自分の将来のキャリアばかりか、人生設計そのものにも大きなハンディを負う可能性があるのです。

7.採用の失敗が企業にもたらす多大なコスト

次に採用の失敗によってその企業が負うことになる「ツケ」について考えてみることにしましょう。

このツケを企業の「コスト」や「リスク」と考えれば、下記の表にあるようなコストやリスクの発生が予測されます。

①にある余分な人件費の発生・増大は、説明するまでもないでしょう。求人活動と母集団形成にかかわる採用コストおよび、採用後の人件費は膨大なものになります。求人活動については、採用の戦略化についてお話しするVol.8で触れることにします。

次に②と③ですが、 これらは採用した社員を一人前にするまでにかかるコストです。 つまり、業務遂行能力が明らかに劣る社員、あるいは配属部署の業務内容になじまない社員を部下として受け入れた上司は、彼(彼女) の戦力化に向けた指導や育成、あるいは行動や思考の軌道修正など、 いわゆる部下指導全般に関して、通常の部下以上に労力を費やさねばなりません。その時間コストは膨大なものになるでしょう。

同様に、 人事あるいは研修部門もまた、そうした社員の存在を前提にして、教育訓練や研修を計画・実施しなければならず、そのことに従来以上の予算を費やす結果になるわけです。

④にある 「顧客満足」とは、 顧客満足を得られないための機会損失を意味しています。というのも、 たとえばバイタリティがあっても人間関係形成力に難のあるサプライズ社員が営業を担当したとき、 顧客との取引が縮小または停止してしまうリスクが大きくなるからです。そのリスクが現実のものとなれば、 本来なら売上として得られたはずの収入が減少する、あるいはなくなるという事態になってしまうでしょう。

🔶不適切な採用選考のコストやリスク
①求人活動およひ人件費
②コーチング/メンタリング
③教育訓練/新人研修
④顧客満足
⑤職場の士気
⑥好ましからざる企業イメージ

【著者プロフィール】 伊東 朋子
株式会社マネジメントサービスセンター 執行役員 DDI事業部事業部長。国内企業および国際企業の人材コンサルティングに従事。

お茶の水女子大学理学部卒業後、デュポンジャパン株式会社を経て、1988年より株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)。

人材採用のためのシステム設計、コンピテンシーモデルの設計、アセスメントテクノロジーを用いたハイポテンシャル人材の特定およびリーダー人材の能力開発プログラムの設計を行い、リーダーシップパイプラインの強化に取り組む。
(※掲載されていたものは当時の情報です)

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会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント


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