【連載小説】聖ポトロの彷徨(第8回)

26日目

どうにか平静を保ててはいるが、以前から薄々感づいていた問題がついに表面化しつつある。それは、ずばり食糧問題である。

圧縮水分が圧倒的に足りない。
そもそも、起こらないはずの「いざという時」の為の装備であった為、任務完了までの3ヶ月間まるまるの分は、携行しなかった。まず使うこともあるまいと誰もが思っていたのだろう。私も出発前にはざっとしか数を数えなかったし、そもそも1個も必要ないとさえ思っていたのだ。

しかしながら、今日の分を食べてしまうと、あと10個しか残らない。そして残念なことに、圧縮水分は1日に1個と決まっており、半分ずつ食べるといったことはできない形状になっている。

つまり、あと10日で、食料と飲み水の両方が、完全に底を尽きるのだ。

ここで、私が毎日食べているこの圧縮水分について記録しておこう。
圧縮水分とは、中にフルーツソースの詰まったグミキャンディーのようなものだ、と説明すれば分かりやすいだろうか。
口の中に含んでいると、グミの中から分子圧縮された水分が、少しずつ染み出して体に水分を補給し、さらにグミそのものにも栄養素がたくさん含まれている、という構造をしている。一辺が3センチくらいの立方体なので、最初はかなり大きいのだが、口の中で転がしていると、少しずつ溶けて小さくなっていく。
そしてそれらの圧縮水分は、完全密閉のパックに一粒ずつ整然と納まっていて、食べる為には一つ分のフィルムを破らなければならないし、一度破ってしまえば、もう再び密閉状態でしまっておくことはできない。
こういうものであるため、残りが少なくなってきたからといって、かじりついて明日の分を半分残す、などということはできない造りになっているのだ。もし仮にそれをすると、残った半分は、次の日にはカリカリに乾燥してしまって、もはや何の役にも立たなくなるだろう。

私が回収日まで生き残る為には、なんとしてもあと10日以内に、この食糧問題を解決しなければならない。
だが、行けども行けども、赤土の大地、枯れ果てた木々、建物の跡、干上がった河川・・・一体どうやって食料を得ればいいのか。

今の私は、コムログの周辺探査情報を頼りに、何か地形の変化を見つけてはそこを目指す、ということを繰り返している。その結果は惨憺たるものばかりで、植物を含む生物らしいものに出会ったためしなど、一度もなかった。これから先も、この問題が一気に解決するような、奇跡的な出会いなどには期待できないと考えていいのかもしれないが、もしその奇跡が起こらなければ、私は確実に命を落としてしまうだろう。

正直、恐ろしい気持ちはある。だが奇跡を起こす為には、この探索をやめるわけにはいかない。少なくとも、あと11個の圧縮水分があるのだ。これからは睡眠時間も削って、ペースを上げて探索をしなければならないだろう。

【記録終了】



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)