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【連載小説】聖ポトロの彷徨(第7回)

17日目

果てしない荒野を、とぼとぼとひたすら歩いた。

どこまで行っても全く同じ景色が広がっている・・・地球よりも少し濃い青の空、ぎらぎらと照りつける太陽、赤茶色の乾燥した大地。

だが、夜になってしまえば、昼の暑さは少しずつ和らぎ、そして美しい星空が見えてくる。
星座については残念ながら門外漢なので、どのあたりが地球なのかとか、どの星が地球から見た何座のどれだとかいうことは全く分からないが、この星の夜空でひときわ目を引くのは、やはり二つの月だろう。
詳しく観察したわけではないので、軌道などについては何とも言えないが、この二つの月の輝きを見ていると、ここが地球ではない、遥か遠くの惑星であるということを改めて思い知らされる。

今日は片方の月が半月、もう片方の月がほぼ満月だ。

日没前には、すでに頭上にあった半月のほうは、地球の月に似た大きさと色をしている。
はっきりとは観測できないが、肉眼で見た時の色のムラからして、多分地球の月にとてもよく似た表面をしているのではないだろうか。
一方、日没後しばらくして昇ってきた、もう一方の月は、地球のそれよりずっと大きく、色もだいぶ黄色みがかって見える。表面は滑らかで、若干縞模様のような色ムラが見える。もしかしたらあの衛星には大気があるのかもしれないが、はっきりしたことは、ここからでは知りようがない。ただ一つ分かっていることは、この月たちの輝きによって、ここ数日のサバラバの夜は、いつにも増して非常に明るいということだ。

岩陰での野宿にも慣れっこになってしまった。岩陰すらないような日でも、地面になんとなく大の字になって眠れる。とにかく誰も居ないし、何もないのだから、何かにおびえる必要すら無いと言える。
今日も何も無い荒野の只中で一人眠ることになりそうだ。だが、前述の通り月の光が少しばかりきついので、うまく眠れるかどうか心配だったのだが、その心配は見事に現実のものとなった。真上に輝く太陽の代理人、降り注がれる黄色い月光に目が冴え、私はなかなか寝付くことができなかった。

ぼんやりした頭で、任務のことを考えてみた。
この計画は失敗したと言える。ほぼ間違いなく失敗だ。この星には、少なくともクライアントが考えているような理想郷など、存在しない。緑豊かな自然の大地が、ここにかつてあったのだとしても、もはや存在しないのだ。
だから、人工島暮らしで足腰の弱い上層の皆さんがこの星に来たとしても、すぐさま居住可能な状態にはまずならないだろう。

しかしながら、この星に開拓可能な土地が残存している可能性は否めない。徒歩圏内のみの探索で断定するのは難しいが、この星にかつて豊かな緑と生物圏が存在したとするならば、当然ながら何らかの形で、たくさんの水分が残されているはずだ。極周辺部で凍っているのかもしれないし、地下にあるのかもしれない。もしくは、この土地の果てまで歩いたらやがて海にぶつかるかも知れない。ともかく、この惑星にもし水があるのなら、うまくやれば、テラフォーミングして居住可能な土地を作り出せるかもしれない。ただ、そのコストを企業国家側が負担できるかどうか、という大きな問題は残るが。

それにしても、資源開発や居住地として開発の可能性があるかもしれないこの星は、やがてわが企業国だけでなく、他企業国にも発見され、そしてまた地球や火星のように穴だらけに食い尽くされてしまうのだろう・・・人間とは業の深い生き物だとつくづく思う。しかし、その「業」こそが、生命の本質であることも、科学者の私は十分すぎるほど理解しているつもりだが。

いや、自分もまた、その業深き「人間」の一匹に過ぎないのだ・・・今夜はまだ眠れそうにない。

【記録終了】



「ニンゲンのトリセツ」著者、リリジャス・クリエイター。京都でちまちま生きているぶよんぶよんのオジサンです。新作の原稿を転載中、長編小説連載中。みんなの投げ銭まってるぜ!(笑)