_素直_

素直であるということ

『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』を読んでて、おやっ、っと思った。
「素直さを磨き上げよ」
という小見出し。
山口揚平さん(事業家、思想家)の本。
大隈塾のゲスト講師としてお招きしている。

「素直さを磨き上げよ」の項には、こう書いてある。

「職業訓練における最大の美徳は、『素直さ』だと思っている。
素直ということは脳のハードディスクドライブに空きがあり、
幼児の体のように思考も柔軟だということだ」

それは、松下政経塾へ打ち合わせにいった、帰りの電車の中だった。

素直 
松下幸之助

茶室の掛け軸に揮毫してあった。
打ち合わせが終わって、施設を見学させてもらった。
茅ヶ崎の名家の広大なお宅を、
松下幸之助さんが買い上げた。
建物は洋風に造ったが、
日本庭園をそのまま活かし、
茶室「松心庵」を結んでいる。
実際に、松下政経塾に来たときには、
この茶室に寝泊まりしていたそうだ。

で、その茶室の掛け軸に
「素直」
小学生の習字じゃないんだから、
と邪心満々に思っていたら、
松下幸之助さんが大切にしていた言葉で、
「人のいうことをよく聞く素直な子ども」
みたいなことではなく、
虚心坦懐、融通無碍、
やわらかアタマ、ということらしい。

揮毫には「陽州」という落款が押してある。
明るい国造りを目指した松下幸之助らしい。
一説には、
「あかるいナショナル」
はここらから来ている、とも。

松下幸之助さんはこの茶室で寝泊まりし、
そのお世話を政経塾生がやっていた。
朝、幸之助さんを起こす。
88歳を超えている、
「新聞読んでくれ」
というらしい。塾生が読みはじめると、しばらくして、
「あんた、え〜声しとるなあ」
とゆっくりした関西弁で褒める。
褒められたほうは、その嬉しさをほかの塾生に自慢し、
われもわれもと新聞を読み聞かせに来る。
朝のお世話係は、列をなした。

あるときは、
「あんたの好きな記事から読んでくれ」
と。読んでいると、
「簡単にいうと、どんなことや?」
と。
「それで、あんたはどう思う?」

朝の布団の中でも、政経塾だった。

山口揚平さんの本にもどる。
「素直さは生まれ持った特性ではなく、
訓練で身につけられる」
どんな訓練なのか。

「物事を俯瞰で見る。物事をゼロイチではなくグラデーションで見る」
「もう少し具体的にいえば、自らの人生で否定してきたものを
あえて肯定してみる。
嫌いな人、苦手な領域、避けてきた勉強を肯定してみる」

「このような訓練を1ヶ月ぐらい続けると、一点に吸着していた自分の思考パターン、すなわち偏見や固定観念を一つひとつ解きほぐすことができる」

松下幸之助さんの言葉。
「素直な心を持って物を見、素直な心を持って物に接していけば、物の実相がわかり、本当の姿がわかる。とらわれない心になって学べば、白いものは白いと見える。青いものは青いと見える。けれども、とらわれた心で見ると、白いものも黒く見える。黒いものも白く見えたりする。それで、虚心坦懐に物の実相を見るという心を養わないといかん」
(『松下幸之助のめざしたもの  松下政経塾塾生への講話から』p44 「素直だと万事うまくいく」)