インド物語–デリー⑦-

リクシャーの引き手は大胆にふっかけてきた。それは今日の宿に4泊できる金額だった。

歯もなく、抜け目もない男だった。ニヤけた面の貼りついた顔に、かろうじてへばりついている髪の毛が頭頂部から垂れ下がっていて、まるで昔話に出てくる老人のようだった。

それで私はこれから魔法のランプを取りに行かされるのかしらと思いながら宿2泊分の料金を払う約束をした。

これでも十分、法外的に高いけれど、猛暑を鍋に入れて煮詰めたくらい暑い日だったので早く帰りたかった。

走り始めたリクシャーは軽快で、ランプを探しに砂漠に連れて行かれる心配もなさそうだった。

でも長い上り坂に差し掛かるとみるみるスピードが落ちてきて、大丈夫かな、と思い始めたときには男は歩き始めていた。

次第に人から亀の歩みになった。仕方がないので座席から降りて後ろからリクシャーを押した。

男は振り返ってこっちを見た。疲弊した顔に表情はなく、わずかな毛髪は汗で額に貼り付いていた。

目的地に着いたとき、料金は半分で良いと男は言いニヤリと笑った。それでも私は男のかぶった面と歯無しが気になって笑えなかった。彼が人生で拵えてきたあれこれが表に出てきているようで気持ちが悪かった。

宿に帰って一息ついた。顔を洗って水を飲み、ベッドに腰掛けて鞄を開けた。中には見たこともない瓶が入っていた。透明なガラス細工に刺のような紋様が加工されている小ぶりの瓶で、どんなに力を入れても蓋が開かなかった。

サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。