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【観劇レポ】ロンドン ミュージカル 『アリージャンス』/2020日本版と比較


ロンドン留学中の女子大生です🇬🇧
今回は、2020年に日本で観て虜になった作品『Allegiance』をロンドンで観劇 \♡/  日本版との比較等を書いていきます!


演目『Allegiance』 について

2015年にブロードウェイで幕開け、アジア系アメリカ人やアジア人によって製作・上演された作品として話題になりました。2020年には日本語版が東京、名古屋、大阪で上演。今回が UK premiere です。

題材は、第二次世界大戦下の日系アメリカ人。
開戦前、開戦後の収容、そこでの生活、忠誠登録、神風特攻隊、戦後の流れを、そこに生きる一家族にフォーカスを当てて描きます。


アクセントはアメリカ英語。
ロンドンで上演されるブロードウェイ作品の多くは、演出はそのままで現地のキャストが演じるのですが、本作はブロードウェイ・ロンドン共に、Sam/おじいちゃんを George Takei が、 Young Sam を Telly Leung が演じます。他はそれぞれの国のキャストさんです。
この George Takei さん、日系アメリカ人2世で、実際に第二次世界大戦下の収容所生活を経験された方です。
ブロードウェイやウエストエンドのミュージカルをキャストの名前で売ることは少ないのですが、本作は Takeiさんが居てこそ生まれた作品。正式なタイトルも『George Takei's Allegiance』ですし、ポスターにも大々的に彼の写真が載り、パンフレットには彼の人生やインタビューが掲載されています。
経験者の手により、事実が、そこで生まれる思いが語られる、貴重で尊い作品です。


劇場について

Charing Cross Theatre は、overground・underground 双方の多くの電車が通る Charing Cross 駅の高架下的にあります。時々、電車が上を走る音が聞こえます。
バーに併設されている小劇場に近く、ロビーや物販はありません。プログラムは、チケットオフィスを兼ねている窓口で購入しました。
客席は地下で、もぎりを通過したらもう客席です。
キャパは265席ですが、今回はバルコニーもステージとして使われていたので、実際にはもっと少ないです。

エントランス外


この劇場、ステージの取り方が2つあるようです。まず、客席前方にステージがある一般的なタイプ。次に、真ん中のステージを両側から客席がサンドイッチするタイプ。今回は後者でした。どっちが正面とかではなく、どちら側からでも楽しめる工夫がされています。
客席の入り口は1つで、ステージの奥の席へはステージを突っ切って行きます。
私の席はステージ奥の3列目。セットが組まれ、小道具が置かれているステージを歩くの、わくわくしました^^
ステージと客席1列目が同じ高さで、列が下がるにつれて段がつきます。1列目の方の上半身が被り、キャストさんの足元は見えにくいです。

開演前 3列目より


日系アメリカ人を演じること

キャストは、日系アメリカ人役は基本的にアジア人。時々発せられる日本語の台詞のイントネーションから推測するに、日本人もそれ以外もいます。1名、日系アメリカ人を演じるアジア人ではないアンサンブルの方がいたのですが、黒縁メガネを着用していました。目の表情が隠れる縁の太いメガネは舞台ではあまり着用しない印象なので、彫りの深さを隠しているのかなと。
他方、アメリカ人役はザ・アメリカンフェイスの方々が務めます。アメリカ人看護師のHannah役は金髪で彫りの深い白人女性の方でした。
Racial-blind、人種を考慮しないキャスティングが議論される今日の舞台業界ですが、なかなかいろいろ難しいですねえ🤔

また、劇中のイントネーションですが、
日系アメリカ人1世・2世はカタコト (所謂ジャパニーズイングリッシュ) で、3世は流暢な英語です。敢えてそうしているようですが、実際に1世・2世はこのような英語を話したのか?中でもネイティブに近い発音を習得した人はいなかったのか?ザ・ジャパニーズイングリッシュ、な英語が印象に残りました。
おそらくほぼ日本語しか理解できない程の人もいたのですが、英語圏で上演される以上、本来日本語で話しているとされる部分も英語で上演されます。誰がどこまで英語を話せるのかがいまいち掴めない…。2つ以上の言語が混ざり使われる状況を、一方しか通じない地域で上演する難しさも感じました。


感想 (ネタバレあり)

舞台と客席の近さが最高でした。
アンサンブルを含め全キャストさんのお顔を覚えられる距離感で、曲中にキャストさんと目が合うことも^^
他方、生演奏だったり、小道具が凝っていたりと、しょぼさは全くない。舞台が高くないので、スモーク演出等では客席も舞台の一部のようで、リアルな空気感を共有できる。キャストの人数も舞台の広さに対して多過ぎず少な過ぎず、小劇場を完璧に活用していました。ただ、大勢が舞台で踊ったり動いたりするシーンでは若干窮屈そうでした。

他方、客席サンドイッチ型のステージは、ステージの形が変わると見え方や感じ方、印象の受け方もこんなに違うんだと興味深かったです。斬新ですよね。
ただ時々、キャストさんの後ろ姿や横顔しか見えず、ここの表情見たいのに…みたいなシーンがありました。反対側のお席から再度観ると違って見えて面白そうです。

開演前


開演前にラジオのSEがかかっています。
開演と同時に暗転、Samが登場してラジオを止めます。
開場中のSEを冒頭のシーンに繋げる演出に、観客を舞台の世界に自然に引き込む工夫を感じました。

開戦前の、日系アメリカ人が現地のアメリカ人たちと七夕を祝うシーン。'Wished on the Wind' の曲中、浴衣を着て踊ったり、短冊を掲げて願いを込めたり、隣人同士がお辞儀をして挨拶したりするのですが、ああ日本文化って美しい…と感動しました。日本を離れて生活しているからこその実感かもしれません。

Keiの注目シーンは、1幕後半の 'Higher'。
歌自体もKeiの心が動く瞬間を表しており熱量が高くて圧巻ですが、特にすごいのが、このKeiが 'Paradise' でFrankieと踊りまくった直後であること。息を切らしつつも捌けることなくビッグナンバーを1人で歌い切るんです。脱帽。
また、本作ではKei始め女性らの苦悩も丁寧に描かれます。母親代わりに家族の調整役として頑張る姿、その中に芽生える自身の意志・抵抗心、愛するFrankieとの別れ、1人での妊婦生活… 報われないKeiの努力がいたたまれないです。加えて、1人でHannahやおじいちゃんの死を経験し、その後Samとも辛い決別をする。何とも切ない…
そのようなKeiが幸せを感じられる、Frankieと愛を確かめ合う僅かな時間やHannahとの和解の瞬間、Frankieからのプロポーズレターを読む時間はこちらも安心します。プロポーズレターのシーンは、戦況が悪化し人々がばらばらになり、シーン的にも深刻なものが多い中、その緊張をふっと緩めてくれます。
また、本作ではキャストさんが客席の横にある捌け口を出入りします。KeiとTatsuoとおじいちゃんが捌ける際、Keiがおじいちゃんの手を取って段差をエスコートする様子が見え、心が温かくなりました。

Young Sam、格好良いですとても。
日本版で同役を演られていた海宝直人さんの、英語の台詞のアクセントや姿勢、所作が、UK版かつブロードウェイオリジナル版Samの Telly Leung に似ていたので、海宝さんは彼を参考にしたのかなあ、と。
1幕ラスト 'One Time Now' の最後、暗転までの一瞬にSamが敬礼するのがお気に入りです。

老いたSamとおじいちゃんの2役を務める George Takei は、おじいちゃんを演じる際のカタコト英語 (ジャパニーズイングリッシュ) と、Samを演じる際の流暢な英語の使い分けがプロでした。

Tatsuoは日本出身のMasashi Fujimotoさんが演られていたのですが、正直見た目年齢が若干お高めでおじいちゃん寄り… 特にSam役、Kei役のキャストさんがお若いので家族4人で並んだときのお父さん感に欠ける…

'442 Victory Swing' 後の Mike Masaoka の1人語りシーン。
日本版では「自分のやったことは果たして正しかったのか…?」という苦悩を感じたのですが、UK版では「自分のやったことは正しかったんだ、絶対そうだ」と言い聞かせる自惚れ屋味が強かったです。

休憩中


最後に、これは観る度感じるのですが、内容構成が素晴らしい。
膨大な情報量を持つ歴史的事実を描くのに、伝える情報の取捨選択が適切で、観客は必要最低限の情報を確実に受け取ってストーリーを追える。
基本的にはキムラ家を描くので都度の戦争状況の解説はないが、広島への原爆投下等の外してはいけない情報は緊迫感を持って伝える。
終戦後の、悲惨な状況の故郷に思いを馳せる日系アメリカ人らの思い詰めた様子と、アメリカ人兵士の心から勝利を喜ぶ様子の対比が皮肉的です。

また、人物のすれ違いの描写が切なくて辛辣でもどかしい。
全員に共感できるのに、それらが共存できないことも理解できる。
誰も悪くないのにどんどん離れていく各々の思い、伝わることのないお互いを思いやる気持ち、ほんっとうに切ないです。1幕ラストの 'One Time Now' や 2幕後半の 'How Can You Go?' ではそれらが繊細に描かれます。
ネタバレですが、おじいちゃん、Tatsuo、Keiが皆命を絶った後に全てを知り取り返しのつかない過去を後悔するSam、そんな彼に「大丈夫、まだチャンスはある」と語りかける天国のKei、Keiの娘・ハナコとの再会。 なんて美しくて尊い展開なんでしょう…
完全なハッピーエンドではないが、現実的に実現し得る中で最も温かい結末です。観客の涙腺を狙うポイントをラストにつくる完璧な構成です。


日本版との演出の違い

場面展開の時間が短い。暗転がほぼない。場面同士の繋ぎが滑らか。
全体的なテンポ感も早い。'How Can You Go?' 後のKeiは秒速で泣き崩れる。
日本版にはあり、UK版にはないシーンもいくつか。
故に、全体の上演時間もUK版は短め。
日本版では「曲終了→台詞」なのに、UK版では曲に台詞が喰って入る箇所がある。Frankieの 'Paradise' → Sammy の台詞とか。
日本版では倒れて命を落とすおじいちゃん、UK版では光の指す方へゆっくりと自身で歩いて行って捌ける。など。他にも沢山。

また、日本では時節舞台上に出てきて台詞を述べていた Mike Masaoka は、UK版ではバルコニーに常駐しています。普段は座っており、出番の時は立ってマイクに話す。限りある舞台スペースですが、下は市民の生活、バルコニーは政府機関、と使い分けが上手かったです。

2020年日本版『アリージャンス 〜忠誠〜』


総じて

日本人として様々なことを考えさせられる作品です。
日本版と合わせて4回目の観劇 (wowow放送を合わせたらもっと) ですが、未だに観る度に新しい気づきがあります。日本版との比較も面白かったです。
美しいストーリー、巧妙な構成、丁寧な演出、豪華なミュージックナンバー、愛すべきキムラ家のキャラクター、高い実力のキャストさんたち… 改めて大好きな作品だと実感しました。
長くなりましたが、『Allegiance』の魅力が伝われば本望です。
最高の2023年観劇初めでした!!


※見出し画像は『London Theatre Direct』HPより


作品情報

Date: 11 January 2023 2:30 PM
Venue: Charing Cross Theatre
Cast:
  Sam Kimura / Ojii-chan - George Takei
  Young Sammy Kimura - Telly Leung
  Kei Kimura - Aynrand Ferrer
  Tatsuo Kimura - Masashi Fujimoto
  Hannah Campbell - Megan Gardiner
  Frankie Suzuki - Patrick Mundy
  Mike Masaoka - Iverson Yabut
Creatives:
  Book by Marc Acito, Jay Kuo and Lorenzo Thione
  Music and Lyrics by Jay Kuo

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