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スポットライト 第3回
1 泣いて、疲れて、眠って、また起きたら泣いて。そんな1日をどれくらい過ごしたか分からなかった。もう記憶すらない。久しぶりに自分の意識というものを自覚したのは、ある人物の訪問がきっかけだった。
「浩一くん、連絡が取れないから心配したんだよ。君まで死んでいなくてよかった」
香凜の父、武さんだった。まだ結婚したわけでもなかったのに、交際を報告した当初から何かと僕を気にかけてくれていた。
「まあ、元気
スポットライト 第2回
1 新しい一年が始まった。いつもならクリスマスくらいから年末年始特有の浮かれ気分になるけれど、今年はそうはいかなかった。
香凜がいなくなってから、2ヶ月が過ぎた。
世間がどういうムードであろうとも、僕には関係なかった。彼女を失った今、精神を落ち着ける術は執筆しかなかった。だから寝る間も惜しんで原稿を書く。
食事も睡眠もろくにとらずにいると、原稿の出来も悪くなっていく。その内彼女が死んだくら
【連載小説】スポットライト 第1回
1 覚悟を決めて、テレビをつける。時間が来るまで見るか悩んでいたが、今夜くらいは泣いても構わないだろう。彼女も怒るまい。
タイトルは「吉川香凜追悼特番」。この種の番組は結構やっているが、年末のこの時期に特番を放送してもらえるというのは、やっぱり国民的人気の裏付けなのだろう。
本音を言えば僕はこの番組を見たかったわけじゃない。ただ、今見ておかないともう一生香凜の姿を見られない気がした。それはな
【ドラゴンのエッセイ】番外編 短編小説「あべこべ」あとがき
先日アップした私の新作短編小説「あべこべ」はお読みいただけたでしょうか? 実は私、1話完結型の短編小説を書き上げたのはこれが人生初だったんです。今回のエッセイでは、どのようにしてこの作品ができたかということを書きたいと思います。
この小説の核となるアイディアは、親友のNさんと話していた時に思いつきました。詳細は彼女のためにも省きますが、「昔の彼氏にこんな酷いことをされたよ」という内容でした。
【短編小説】あべこべ
1「時間よー! 早く起きないと遅刻しちゃうんじゃないの?」
目を覚ますと、まだ午前7時だった。休日のこの時間に起きるというのは、上田夢香にとっては珍しいことだった。とはいえ自力で起きられたわけではない。夢香は普段なら、昼前まで寝ていたいタイプだった。
眠気を我慢して早起きしたのにはちゃんとわけがある。今日は、デートなのだ。だから母の春香に頼んでまで起こしてもらった。待ち合わせは10時。家の近
俺と女神と小悪魔と あとがき
約5ヵ月に渡って不定期連載していた小説が、昨日ついに最終回を迎えた。本来なら今年度いっぱい続く予定でいたのだが、ずっとふわふわしていたラストシーンがやっと固まった。そうなればもう筆は止まらない。ラストシーンに向けて前後の構成を考えるのに時間は要したが、なんとか形になった。
先に言っておくが、私は今まであとがきというものを書いたことがない。なので作品がどうやって生まれたかというエピソードをもっ
俺と女神と小悪魔と 最終回
ずいぶんと間が空いてしまって申し訳ない。夏休みのことは、今思い出しても辛いんだ。ちょっと油断すると泣いてしまうくらいには、今でも心の傷になっている。
最初に言ったはずだ。この恋にハッピーエンドは待っていない。どうあがいても、バッドエンドしかなかった。例えるなら、昔話のかぐや姫って感じだ。
最初からそれを知っていたのなら、まだ対処のしようもあったかもしれない。心の準備だってできたかも。
だが
俺と女神と小悪魔と 第4話 着せ替え人形
楽あれば苦あり、苦あれば楽ありって言うよな。あれは本当だった。
俺はどれだけSF的なことに巻き込まれればいいのか。幸せの絶頂だと思っていたのに、突然不安のピークが訪れる。その不安を払拭するために、死に物狂いで走り回る。そんな経験、読者の皆さんにもあるんだろうか?
梅雨の時期って、気分が沈みがちだよな。俺も例外じゃない。アラサーと呼ばれるような年齢になっても、梅雨には苦い思い出しかない。結局は
俺と女神と小悪魔と 第3話「告白」
読者の皆さん、久しぶり。佐倉龍一だ。
前回は引っ張るだけ引っ張って山場は次回! なんていうまどろっこしいことをして悪かった。今回はその謝罪の意味も込めて、俺の人生で一番楽しかった1カ月の話をしようと思う。
俺としてはめちゃくちゃ恥ずかしい。だってそうだろ? 今から綴ることは全部俺たちの青春の記録で、人生の絶頂の記録なんだから。
あれから10年が経って、俺はアラサーと呼ばれる年代になった。だ
【連載小説】俺と女神と小悪魔と 第2話 「デートを目指せ!」
読者のみなさん、久しぶり。
俺だよ。佐倉龍一だ。
あなた方がこれを読んでるってことは、俺たちの話に興味を持ってくれた人が多かったってことだ。嬉しいね。
それじゃあ約束通り、5月の出来事について話そうか。
5月にはゴールデンウィークや修学旅行が待っている。不安材料もあった。だけど結論から言えば、めちゃくちゃ楽しかった。だから5月のブロックが、一番長くなるんじゃないかと俺は踏んでいる。下手
【連載小説】俺と女神と小悪魔と 第1話
プロローグ「龍ちゃんさ、今年もちゃんと生きてる?」
俺のことなんて本当はどうでもいいんだろうと思っていたけど、どうやら本気で心配してくれているらしい。今聞こえた声が幻聴じゃないのなら。だけどさ、あなた仕事とプライベートは分けるんじゃなかったのか? これっていわゆる職権濫用ってやつじゃないの?
……冗談だよ。照れ隠しってやつだ。こんなことここで言わせるなよ。
あなたも先生も、世界のすべてを知