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感想 ハンチバック 市川 沙央 障害者のフィルターを通して見える世界の屈折度は、あまりにも汚で吐き気すら感じた。


タイトルの「ハンチバック」とは背中が曲がった「せむし」のこと。 背骨がS字に湾曲した症状を抱えた主人公・井沢釈華が自身をそう称している。

本作は、芥川賞受賞作品です。
著者は、重度の障害者でもあります。

井沢釈華は、障害者です。そういう施設で暮らしています。
すごい金持ちです。
バイトでHな小説などを書いていて、その印税を寄付している。
貧しい人、食えない人たちに、ふりかけを寄付している

何故、ふりかけ なのか?

そこに僕は悪意を感じた
貧乏人なんて、腹さえ満たせればいいんじゃんという底意地の悪さを感じる

本書に見え隠れする障害者の性欲について考えさせられた
障害者は、てっきり、そういうものはないとカン違いしていた

違った。障害者も健常者と同じなのだ。

彼女は妊娠したいという
妊娠し、その子を殺害する
つまり堕胎するという願望があります

田中という仕事が丁寧な介護士がいる
彼は、彼女が書いているSNSを読んでいた
そこにはHな発言や愚痴のゴミ捨て場だった

そんな彼が、彼女の欲望を金で叶えてやるという
彼の子を産み、堕胎することにする

1億で・・・
という彼に対して
彼女は・・・
1億5千5百万で・・・と答える
彼の身長が155センチだからだ。

性格、悪!!
ひん曲がってる。

芥川賞受賞作なので、本作のモチーフについては、色んな人が触れている
目立つのは、障害者の生と性。生殖権、反出生主義、優生思想などいうワードだ

妊娠したい、でも、堕胎する。
確かに、障害者は性を否定されている
障害の遺伝を恐れているからだと思う
その背景には、優生思想などがあるのかもしれない。

それでも、彼女は「妊娠と中絶がしてみたい」のだ。
自分を嫌悪し軽蔑している介護士に頼ってでもしたいのだ。

この田中が、主人公が入院している間に退職し姿を消した
結局、金は受け取らなかった

貧乏な彼がどうしてと考えてしまう。

この行為の裏側にある感情が大切だ
人間は複雑だ
ある意味、人の世界は弱肉強食の世界なのかもしれない

誰かを攻撃しないではいられないのが人の本質なのだ
強者は弱者を攻撃する
それはバカにするという形をとる
その軽蔑されている弱者もまた、さらに弱いものを見つけて攻撃する

介護士は底辺にいる貧しい人たちだ
障害者は、彼らにすら軽蔑される存在なのである

そんな中、金持ちの主人公は特別な存在なのだ
田中の心中は複雑だ
自分よりも下であり、上でもある
実際、精子提供で一億五千万も出すとオファーされている
つまり雇われる存在なのである

金で田中は彼女に支配されるのである。

田中の不遜な態度や挑発は、その複雑な彼の心の葛藤だと思う
それでも仕事は引き受けた
金のためだ。
一番軽蔑している彼女を受け入れた
金のためだ

しかし、彼にとってそれは屈辱だったに違いない
だから、金を貰わない
なかったことにして、彼は彼女の前から姿を消したのではと思うのだ

それは彼の自尊心の問題なのだ。
それだけは認められない事柄だったと後に気づいたから逃げた。

底辺の人間だからこそ、さらに下の人間に対して
なにか特別な自意識というのかプライドのようなものが存在し
その根拠のない感情が彼をこのような行動をとらせたように思えてならない

たぶん、こんな読み方はみんなしないと思う。
でも、僕はそう感じてしまった。

人間の複雑さに頭が痛くなる。


2023


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