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第12話 パニック記念日

大失恋し、高校へ進学。
進学といっても一貫校のため、学校生活に特に変化はなかった。

強いて言うならば、中学3年にしっかり虐めを受けたことで
「日陰者」から「鼻つまみ者」に昇格した事くらい。


男子からは「陰キャのくせに恋愛なんかしてる調子こいたヤツ」と後ろ指を指される。
正直、ここまでの展開は何となく読んでいた。
しかし計算外だったのは、女子から「あの子(元恋人)に付きまとったヤツ」と白い目で見られた事だ。

男の影が絶えることがなかった元恋人を良く思っていない女子が多かったのに加え、元恋人の友人からは「交友関係にいちいち口出ししてくる重たい束縛男」というレッテルを貼られていた。
人見知りなのもあり、女子との交流を全面的に避けていたことが仇となった。


ただ人間不信ながらも、まだ学校に居場所を求める自分がいた。
たまに振られるモノマネのムチャぶりに応えられるよう自宅で芸を磨き、
(人並み程度の画力ではあるが)得意とする絵で誇張した似顔絵を描いてみたり、ファッションの知識を必死に身につけ情報屋にもなっていた。

だが、思うようにはいかなかった。
笑いを求める獰猛なハイエナどもにとって
僕は芸という捕食対象でしかなく
腹が満たされるとコケにされるのがオチだった。


酷い時は、10人ほどの輩に囲まれ
窓際に机を置かれ
「飛べよ」
と連呼されたこともあった。
勿論、庇ってくれる人間などいない。

部活中は仲間でいてくれるテニス部の人間でさえ
その輩に混ざって嗤っていた。
長いものに巻かれる人間の弱さや醜さを目の当たりにした瞬間。
今でも鮮明に覚えている。



余談だが、サムネイルの画像は高2の時に作成したクラスTシャツのデザインである。
僕が立候補をしたわけではなく、寝ているうちに多数決で勝手にイラスト係に任命される。
株価が下がり切った状態で注目されるくらいなら認知されない方がマシだと思って過ごしていたため、何かと目立つことを避けていた僕だが、断れば何を言われるか分からなかったため渋々引き受ける。
結果、散々な酷評だった。

「こんなダセえの着れるわけないだろ」「〇組の(某有名ブランドのパクリデザインの)クラTいいな」「なんでうちのクラスだけこんなのなんだよ」

悔しかった。ただひたすら悔しかった。
だが6~7年後、アパレル業界で似たようなデザインの服がちらほら出始める。
これを知った時、心の底から全員を見下すことが出来て嬉しかった。


なんだ、俺が合ってたじゃん。




そんな学校生活が続き、気づけば高3の秋。
昼食の弁当をテニス部の仲間と食べているとき、僕の大嫌いな人物の一人であるNという男が近寄ってくる。
Nとテニス部の仲間は普段から仲が良く、楽しそうに話している。

数少ない居場所に土足で踏み込まれ、気分が悪かった。
会話に混ざることなく黙々と弁当を食べていると突然
生ぬるい何かを体中に浴びた。

Nが口に含んだ水をぶっかけてきたのだ。


頭が真っ白になった。
この時初めて知ったが、「殺意」に近い怒りを感じると
キレて殴りかかるどころか、何もできなくなるのだ。

しかも隣ではテニス部の仲間は嗤っている。


まただ。お前もそっち側か。
なんだ、やっぱり人間って信じるもんじゃないな。



そこから後のことは、頭の中の消しゴムとかそのレベルで全く覚えていない。




次の日、僕は学校に向かう電車で過呼吸と猛烈な吐き気に襲われた。
苦しい。吐くのが怖い。死ぬかもしれない。
同じ学校のやつに見られていたらどうしよう。


特急列車に乗ったため、次の駅に着くまでの10分間が永遠と思えるくらいに長かった。
途中の駅に着いた途端、倒れ込むように駅のベンチにもたれかかる。
そして、何が起こったかわからないまま母親に電話をする。


「ごめん。学校、行けなくなっちゃった。」


電車に乗れなくなった僕は、意識が朦朧としたまま、その駅から家まで2時間ほどかけ歩いて帰った。



なんで自分ばかりこんな目に合わなきゃいけないんだ。
芸を磨く努力が足りなかったから?
身の丈に合わない恋愛をしたから?
存在価値のない人間だから?
特別な人間になれなかったから?

どこだ。どこで間違えた。


暗い部屋の隅。ひたすら自分を責めては泣いた。

電車にも乗れない。月1回の楽しみである美容院にも行けない。
外食はおろか自宅での食事さえ喉を通らない。
塾に行けるような気力もない。受験まで時間がないのに。こんなところで躓いてる場合ではないのに。

もうこれ以上頑張れない。
このまま消えてしまいたい。



そんな日が1ヶ月ほど続いた。



だが奇しくも、パニック障害発症をきっかけに
初めて心を開ける人物と出会うことになる。


またそれにより、人間不信という呪いが
少しずつ解かれてゆくことになる。



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