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寝取られた報復とその代償 第4話

相変わらず雄介は欠勤が続いていました。

沙也の荒れっぷりが伝わってきます。しかし、これではただの雄介の火遊びで終わってしまいます。大事なことは、これが二人への私の復讐であることを思い知らせることなのです。私は有休を取って、二人が住んでいる所に行きました。そう、沙也に直接会うためです。

精神的なダメージをより大きくするために、約束を取り付けて、と言うより、偶然を装い会って、不倫をカミングアウトしたほうが衝撃が大きいはずです。住所も、どこの保育所を使っているのかも雄介から聞き出してあります。私は、仕事の途中を装うためにあえてスーツを着て、その保育所の入り口がよく見える喫茶店に入り、沙也が来るのを待ちます。二杯目のコーヒーを飲み終えたあたりで沙也が二人の子供を連れてやってきました。私はすかさず店を出て、保育所から出てくる沙也を待ち伏せしました。
「あれ? 沙也?」
しらじらしく声を掛けると、沙也はしばらくきょとんとしていました。
「わからない? 陽子、佐藤陽子」
「陽子?!」
沙也の顔には一瞬、再会を喜ぶ表情が浮かびましたが、すぐにバツの悪そうな表情に切り替わりました。自分が親友の男を奪い、しかも結婚までしていることを自覚しているのでしょう。
「久しぶり、元気だった?」
引きつった笑いでそう返事をすることくらいしか出来ないようでした。思えば、二人の会話で私が主導権を握ることは無かったように思います。それだけで沙也のうろたえっぷりが伝わってきます。私は再会を喜んでいる風を装って、沙也を喫茶店に誘いました。

初めのうちは表情が硬く警戒していた沙也ですが、私が恨みに思っていないと感じ取るとだんだんと色々話を始めました。大半は雄介の愚痴です。子供の面倒をすべて自分に押し付け、自分は飲みに行ったり遊びたい放題の雄介に怒り心頭のようです。そして話は今、二人の間を険悪なものにしている、私からのメッセージに及びました。雄介は初めは「浮気なんかしていない」としらを切りとおそうとしたらしいですが、画像が送られてくると態度を豹変し、「酔っぱらって覚えていない、不可抗力だった」などと言っているようです。私は、タイミングは今ここだ、と決心しました。

「沙也、その画像ってさ、これの事かな?」
私は雄介に送った画像を表示させ、スマホの画面を沙也の鼻先に突きつけました。
沙也は画面を凝視しながら固まってしまいました。私はさらに沙也を追い込もうと話を続けました。
「どう? 最愛の人を親友に奪われる気分は。奪った方は、こんなにいい気分だったのね。そりゃそうよね、女として自分の方が価値があるって証明したようなものだもの。あの時のあんたもこんな気分だったのね。どう? 今の気分は。惨めでしょう?」
沙也の顔色が蒼白になっています。私はさらに続けました。
「でも、雄介、女に簡単に手を出すのね。あんたとのセックスに満足していなかったんじゃないの? 最近、セックスレスだって言ってたけど。子供産んでから、お腹もオッパイもたるんじゃって、女としての魅力が無くなったって愚痴ってたよ? だめだめ、ちゃんとママになっても女であることを忘れちゃ。まあ、こんな体たらくなら、私じゃなくてもそのうちもっと若い女の子に手を出してたんじゃない?」
沙也は怒りのせいなのか、体がプルプルと小刻みに震えています。沙也は半べそになりながら、ようやく口を開きました。
「こんなことして、何が楽しいの……」
私は、おもむろに言い返しました。
「あんなことして、何が楽しかったのかしら」
沙也はうつむいてしまいました。涙をポロポロこぼし、スカートにシミが出来ています。「目的は何? 雄介のことを取り返したかったの?」
「まさか…… あんな粗チンの浮気野郎なんていらないわ」
「じゃあ!?」
「復讐よ。あんたへのね」
復讐と言われた瞬間、抑えていたものがポッキリと折れてしまったのか、テーブルに突っ伏して泣き始めてしまいました。
「あんたが私から雄介を奪ったように、私もあんたから雄介を奪うから。これからも会い続けるし、セックスもするわ。あんた、雄介にとって女として機能してないみたいだし、その部分は私が補ってあげるわね」
私は、泣きじゃくる沙也をほったらかして、店を出て行きました。
大学生の頃の、あの屈辱の出来事から止まっていた私の時計が動き始めたような気分になり、すがすがしく、晴れやかな思いで歩き始めました。

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