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海に沈んで

世間はクリスマスで浮足立っていて活気で溢れている。

クリスマスという行事が一切関係ない今の自分でも不思議と明るくなってしまう。


クリスマスは誰とも過ごすことなく、
年越しに向けて部屋の掃除をしていた。


掃除をしていると捨てきれなかった元カノの手紙やらなにやらが出てきた。


「うわぁ…」


未練やら後悔やら、思い出やら、
色々な感情と記憶が蘇ってきて何とも言えない気持ちになった。

ただただ心臓がキュッとなる感じ。


自分には未練や後悔とか、そういうことを思う資格はないんだけど
捨てきれなった物というだけあってさすがに思ってしまう。



今は何をしているかな。


と思うことも多々あったが、あの子も今は誰かとクリスマスを過ごしているんだと思う。
自分と離れて幸せに過ごしているんだと思う。


だからなおさら、手紙とかはすぐに捨てないといけないんだけど
なんか普通の”ゴミ”として捨てたくなくて
かと言って持ち続けるのも違うくて

徐に車で自分が悩んでいる時や苦しいときにいつも行く海へ行った。


着いた頃にはもう夕方で、
冬の海は誰もいなくて風も強く、海はすごく荒れていた。

今の自分にはちょうどよかった。


暗くなってきているせいか
海がどす黒く見えて吸い込まれそうになった。


今ここで海に飛び込んで死んでも何も思わないんだろうな。


自分にはそう考える資格もないんだけどさ。


ていうかなんなら今頃新しい人と楽しく過ごしているのかも。
2人で手つないで歩いてんのかな。なんならセックスしてたりして。


もはや被害妄想じみた考えをし始めるとなんか悔しくてイライラして、ポケットに入れたアクセサリーを取り出して海に投げ捨てた。


手紙は海に置いていくように、ゴミ箱に捨てた。


どす黒い海が自分みたいで心地よかった。
激しい波の音がすべてを遮断して、世界に1人ぼっちのような感覚になった。


消し忘れていた写真もすべて消して、
荒れた海を眺めていた。


正直部屋の片づけをする前からずっと分かっていた。
捨てないといけないなぁと思っていたし、その存在を忘れたことなんてなかった。

ただ捨てられなかったのは、何かしらのつながりが欲しかっただけなのかもしれない。
たかが物だし、その子がいるわけでもなんでもないのに。


それに物を捨てたところで何も変わらないし、
物がなくなっただけで記憶はなくならない。


この海に来るときも、
音楽を聴くときも、
自分の部屋ですらも、

何をしても、どこに行っても思い出すんだと思う。

いつまで経っても女々しくて、未練たらしくて、
君の中に自分はいないという事実を受け入れられないでいる。


君はもう戻ってもこないのにね。


でも君を感じる物を僕は捨てたよ。
絶対戻ってこない場所に捨ててやったよ。

君には伝わらないだろうし、今頃知らない男とよろしくやってるんだろうけど。
僕も一歩踏み出したんだよ。




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