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特別にはなれない

私には好きな人がいる。


相手は年上でどうしようもない人。
私じゃなくていいし、私以外にも女はいるだろうし、

でも、私は彼しかいなかった。


特別じゃなかったのは分かってた。


今日も彼の家に行って、酒を2本ほど飲んで抱かれる。
雑で短い前戯。


「あぁ、私は特別じゃないんだ。」


相手の手でそれを思い知らされながら、
私を女とは見てないことを感じながら彼に抱かれる。

彼にとってはこの夜は特別でもなんでもなくて、ただの日常。
言うなら違うメニューの晩御飯を食べるのと同じ。


雑な前戯で雑に扱われて、それでも私はそれをやめられなくて

彼から離れられなくてこんな関係を続けてしまう。
こんなでも彼を求めてしまう。


ベッドの上でしか彼の温もりに触れられないから。

終わった後にどうせ虚しさがやってくるのは分かってる。
もはや、自分でも好きなのかどうかすら分からない。

執着なのか。依存なのか。


私のことなんて考えてない。
自分のことしか、自分が気持ちよくなることしか考えていないこの男から私は離れられない。

抱かれながらそう考えていると気づけば彼の首に手が伸びていた。


「ねぇ 少しは私のこと考えてよ」


「何の真似?」
彼は苦しそうに答える。


「少しは私で苦しめばいいじゃんと思って」

彼を絞める手を一気に強める。
彼は目を細めて明らかに苦しそうな顔をして、思わず私の手を解こうとする。

私は手を離す。

「なんてね。なんでもないよ。」


彼は私の行動にびっくりしたようで、途中で辞めてタバコを吸いはじめてしまった。


月明かりに照らされる彼の横顔を見て

何人の女がこの横顔を好きになったんだろう。


彼はタバコを吸いながらこっちを向いて「何?」と聴いてくる。


私は「ううん 早く続きしよ」と言う。


私はこれからも彼から離れられないし、こんな雑なセックスですらも愛せてしまうのだと思う。
良くないとは思う。



でも良くないからと言って離れられるわけでもないし、
彼は私を好きになることもないんだと思う。

雑なセックスが変わることも、外で手を繋がないことも、会う時は彼の家でやることをやるだけ。


私は彼の顔を見上げながら、好きなんだからとことんズブズブに堕ちてもいいや。そう思えてしまった。


今日も来週も、私は好きな男に雑に抱かれてしまうんだと思う。
たくさんいる女の1人でも、この温もりがあるなら私はそれでいいと思った。

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