見出し画像

本格ミステリのゆえん【大山誠一郎 アリバイ崩し承ります1・2】

今回は、最近読んで面白かった本を紹介します。
大山誠一郎「アリバイ崩し承ります」(以下、「1」)と、その続編「時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2」(以下、「2」です。
ミステリー小説ですが、ネタバレなしでお送りします。


本書の概要

「1」は2018年に最初の単行本が発売され、「本格ミステリ・ベスト10」の第一位を獲得。
連続TVドラマ化されるなど、大いに話題を呼んでいたようです。
2019年には文庫になっていましたが、2022年3月には続編の「2」が発売されました。
たくさんの時計に囲まれる中たたずむ女性のイラストが描かれた表紙は、書店でも目を引きます。

ストーリーは、新人の警察である主人公が、アリバイが崩せない難事件と出会って困っているところ、商店街の時計屋が目にとまる所から始まります。
「美谷時計店」というこのお店は、「アリバイ崩し承ります」という不思議な貼り紙がしてあるのです。
どうしても事件が解決できなくて行き詰まっている主人公は、店主の美谷時乃にアリバイ崩しを頼んでしまいます。

すると、時乃は主人公から話を聞いただけで、犯人のアリバイをいとも簡単に崩してしまいます。
その後も主人公が難事件に遭遇する度に時乃を頼り、あっという間に解決してしまうのです。
「1」では7つの事件を、「2」では5つの事件を、警察が何日も頭を悩ませたアリバイを一瞬にして崩壊させてくれます。


本書が本格ミステリたるゆえん

本書は、いわゆる「本格ミステリ」に分類されます(「1」文庫版の乾くるみ氏の解説より)。
「本格ミステリ」とは、「謎と解決、あるいはトリックやロジックを中心に作られた物語」だそうです。

実際に読んでみると、その理由が如実に分かります。
物語は、いつも鉄壁のアリバイを持った犯人と、なんとかそれを崩そうとする主人公を含む警察の対決構図になります。
時乃は現場に赴くことなく、主人公からの話を聞くだけで、そのアリバイを崩してしまうのです。

「犯人が誰なのか?」「なぜなのか?(動機は?)」といったことは、本書ではほとんど問われません。
犯人は最初から怪しげな行動を取っていることが明記されていますし、動機もほぼ明快です。
ミステリの楽しみのひとつである、犯人さがし(いわゆる、フーダニット)や動機(ホワイダニット)は、本書ではあまり取り扱われないのです。

あくまでアリバイ(どうやって犯行を行ったか=ハウダニット)に集中して物語が描かれます。
犯人も分かるし、動機もほぼ間違いないのに、その人が犯行したとは証明できない・・・
このことによって、何とかしてアリバイを崩すという目的で、読者と主人公がシンクロします。


この状況を際立たせるために、それ以外の要素はできるだけ省かれています。
例えば、このシリーズは主人公の名前が呼ばれません(「お客様」とか「新人」とか呼ばれるだけ・・・だったはず)。
またメインキャラクターの美谷時乃は、事件そのものに巻き込まれることはなく、お店の中の会話だけで事件を解決します(いわゆる「安楽椅子探偵」)。

こうした謎に集中して読める状況が整えられているからこそ、読者も一緒になってアリバイを崩そうとします。
ただ、時乃よりも先に事件の全貌が見えることはありません。
章を進める毎に、「次は途中で謎を解いてやろう」と思うものの、結局分からず時乃の答え合わせを待つことになります。


トリックもちゃんと面白い

本作は時計店がテーマということもあり、「時間」がテーマになる事件が多く登場します。
時間というものは曖昧になりがちで、「急げばなんとか犯行に及べたかもしれない」と考え始めるとキリがありません。
しかし本作の時乃は、その曖昧さを許さず、ばっさり解決します。

個人的にお気に入りは、「2」に収録されている、同時刻に2人の女性が殺される事件のトリックが面白かったです。
突然、「実は双子でした!」なんてオチもなく、分身のようなファンタジーでもなく、しっかり時乃が「時を戻して」解決してくれます。


解決の鍵になる伏線は、ちゃんと主人公の口から説明されます。
その時は違和感を感じないこともないのですが、どうしてそれが解決につながるのかは全く想像ができません。
読者ながら、時乃の推理力には脱帽してしまいます。


「2」では、「1」にはなかったような人間模様(主人公の時乃への憧れ、警察の組織間対立など)も少し見え隠れしますが、あくまでスパイスです。
あくまで謎解きを中心に据えた「本格ミステリ」を引き継いでいます。


まとめ

以上、大山誠一郎「アリバイ崩し承ります」と、その続編「時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2」のご紹介を致しました。

ご興味を持ってくださった方は、ぜひ読んでみてください。
既に読まれたという方は、是非コメントで感想を教えてください。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

この記事が参加している募集

読書感想文

最後までお読みいただき、ありがとうございました。 私の積読増殖(そして読書)のために、サポートいただけると嬉しいです!