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【料理エッセイ】新宿で日本一のチャーハンが食べられるって知ってる?

 本気でオススメしたいものがあるとき、わたしはあえて「日本一」と言うことにしている。ぶっちゃけ根拠はないけれど、それぐらい凄いから試してみてと思いを込めているつもり。

 自信があるわけではない。もちろん、個人的には大好きだけど、食べ物にしても、映画にしても、音楽にしても、その人に合うかはわからない。結果的に微妙と思われてしまったら、けっこう、へこむ。

 なので、本当はハードルをできるだけ下げておきたいところ。でも、どうだろう。

「この前、原宿のお店で令和のいちご大福ってやつを食べてみたんだけど、まあまあだったの。よかったら、食べてみて欲しいなぁ」

 いや、そんなんじゃ、誰も食べたくないから!

 みんな、忙しい日々を送っているわけで、時間を割いてもらうためには、それなりの引きがなくては。で、わたしが考えに考えて、編み出したワードが「日本一」なのである。

 そして、今回、わたしは新宿で食べられる日本一のチーハンをみなさんにオススメしたい。有名なお店なので存知の方も多いかも。思い出横丁にある岐阜屋というお店のチャーハンだ。

 めちゃくちゃ美味しいのだけれど、どう日本一なのか、改めて聞かれると正直よくわからない。いわゆる町中華って感じのチャーハンで、味が濃いめなしっとり系。値段は物価高が叫ばれる2024年でも650円。新宿駅前という立地を考えたら、総合的に日本一と言えるのかもしれない。

 ただ、詳細なんてどうでもいいのだ。とりあえず日本一と言っておけば、普通は興味を抱くもので、一回ぐらい試してみたいとなるものだから。

 実際、わたしはこれまで何度も、

「新宿で日本一のチャーハンが食べられるって知ってる?」

 と、声をかけて、いろいろな人たちと岐阜屋に行ってきた。

 初対面の人と仲良くなるためにも、好きな人とデートをするためにも、観光で東京に来た人たちをおもてなしするにも、かなり有効的だった。

 なにせ、おいしいことは当然ながら、岐阜屋のある新宿思い出横丁という場所がたまらなくよいのだ。この空間にいられるだけで幸せな気持ちになれる。

2012年の思い出横丁 - いまはなき「つるかめ食堂」
ラーメン屋のところにむかしは安いうな丼屋さんがあった
この蕎麦屋もおいしいらしい

 戦後の闇市に端を発する新宿思い出横丁は、かつて、しょんべん横丁と呼ばれていたこともあった。イメージの悪さから正式には使われなくなっているけれど、最初、わたしはその刺激的な俗称に興味を持って、一人、いそいそ尋ねていった。

 中学生の頃だった。塾の先生の思い出話を聞く中で、しょんべん横丁で飲んだというエピソードが出てきたんだと思う。神奈川県のベッドタウンで思春期を過ごしていたので、東京は行こうと思えばいつでも行ける、でも、どこに行っていいのかわからない憧れの地だった。

 結局は映画が好きだったので、恵比寿ガーデンシネマや渋谷ユーロスペースなど、ミニシアターを目指すことがほとんど。その前後でご飯を食べるわけだけど、なんだかんだでビビってしまって、マクドナルドやサイゼリヤで済ますことが多かった。

 そんな地元でも食べられるものではなく、東京っぽいものを食べたいと前々から思ってはいた。でも、観光客向けのお店は混んでいるし、値段が高いし、中学生一人で行くにはハードルが高かった。

 だから、新宿駅前で安いお店が立ち並ぶというしょんべん横丁は、わたしにとって理想の空間に感じられた。

 で、いざ、行ってみたところ、想像していた以上に戦後臭が漂っていたので驚いた。いまは外国人観光客で昼から夜まで賑やかでいるけれど、当時はそんなこともなく、どんより怪しげな空気に包まれていた。

 そして、早々に、自分が来るべき場所じゃなかったのかもと不安になった。だいたい、お酒を飲むことを前提にしたお店ばかりが並んでいたので、見るからに未成年なわたしは入りにくいし、こちらも別にアルコールを摂る気は全然なかった。

 フラフラ。フラフラ。

 せっかく来たし、様子を見るだけでも。腰を引きながら通りを歩いていたところ、

「いらっしゃい。チャーハン食べてく?」

 と、しゃがれた声で呼びかけられた。振り向くと鉢巻を巻いたタンクトップ姿の強面なおじさんが、中華鍋をダルそうに振っていた。

「あ。じゃあ、チャーハンください」

 これがわたしと岐阜屋の出会いだった。

 十四歳にして、はじめて、お母さんが作ったものでも、バーミヤンでも、王将でもないチャーハンを食べた。目玉が飛び出るほど感動した。

 要するに、〆の炭水化物なわけで、かなり濃い目に味付けされていたのがお子ちゃまな味覚にガツンと響いただけなんだけど、うわぁ、こんな美味しいものが東京にはあるのかと過剰な認識が胸いっぱいに広がった。

 以来、岐阜屋のチャーハンのとりこになり続けている。

 大学に入学し、上京してきた同期の子たちに岐阜屋をオススメしまくった。先日、その一人と久々に食事をしたのだけれど、

「教えてもらった日本一のチャーハン美味しかったなぁ」

 と、感慨深くつぶやいていた。

 そういう意味では、やっぱり、岐阜屋のチャーハンは日本一なのかもしれない。




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