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【ショートショート】白馬に乗った王子様(800文字)

 その日、ついに王子様が白馬に乗ってやってきました。

 窓からその光景を確認し、このときを待ち望んでいたお姫様は華やぎました。幼い頃、悪い魔女に触られて、この塔に幽閉されて以来、夜な夜なおとぎ話を思い出しては、いつか誰かが助けに来てくれるのだろうと夢見てきました。そして、お礼に自分はその人と結婚するのだ、と。

 お姫様はあまりにウキウキしていたので、つい、王子様を出迎えるため部屋の入り口まで行ってしまいました。ただ、すぐに、こういうのはベッドで眠っているのが相場と考え直し、慌てて布団に飛び込みました。

 スー、ハー。スー、ハー。深呼吸で息を整え、静かに瞳をとじました。そしたら、きっと、目覚めのキスをしてくれるから。

 もちろん、お姫様は塔の中で孤独に暮らしてきたので、キスはおろか、男性と話したこともありません。こうなってほしいと望んだ通りの展開ではあるものの、期待と不安で胸の高鳴りが止まりませんでした。

 やがて、

「お姫様!」

 と、王子様の呼ぶ声が聞こえました。

「悪い魔女は退治しました。ご安心ください」

 やがて、ギギーッと扉が開き、カツ、カツ、カツ、足音が近づいてきました。

 ああ。いよいよ、わたしは救出されるんだわ。お姫様は居ても立っても居られない興奮に身体が沸き立つも、人間、第一印象が大切とばかり、可能な限りお淑やかであろうと努めました。

 ドキドキ。

 ドキドキ。

 しかし、その瞬間は一向に訪れません。

 このとき、王子様はお姫様を見て戸惑っていました。

(あれ? 嘘でしょ? お姫様って聞いていたから若いとばかり思っていたのに、おばあちゃんじゃないか……)

 白馬に乗った王子様がやってきたとして、お姫様が年老いてしまっていたら、きっと二人は結ばれない。

 王子様がやってこないなら、お姫様は自らの力で逃げ出さなくてはいけなかったのです。たとえ、それが危険なことであっても、一か八かの勇気を出して。

(了)




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