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SyuRoのまわり.2 「季節・手入れ」 編

5回にわたり、生活道具を「周辺」とともに紹介していく「もの・の・まわり」。前回は「産業」について取材しました。そして、2回目の今回は「季節」「手入れ」です。

「もの・の・まわり」では「産業」「季節」「手入れ」「仲間」「旅」の5つを取材し、結果、「ブリキ缶」を購入するきっかけを作り、そして購入した後のこともみんなで楽しく味わっていこうという企画。この連載もそのために書いていきます。

dのwebでの「もの・の・まわり」
https://www.d-department.com/item/DD_EVENT_9902.html


と、いうことで今回の「ブリキ缶」と「季節」・・・・・・・なかなか結びつきそうにないカテゴリーですが、これから様々に登場する全ての生活道具も、この5つをもれなく考えていこうと思っています。

さてさて、今回はそんな角缶を生んだ宇南山さんが主宰する「SyuRo」というお店が考える空間の季節感として、店にとって季節感がとても大切であるということを聞くことができました。


そして、表面処理をあえてせず、錆びることを楽しむという発想も面白いですね。素材の持ち味をとても意識していました。そもそも私たちは天然なものや、加工された素材をメンテナンスに苦労しないよう下処理をしすぎるように感じます。

もちろん、真っ白な絨毯の上で使うソファの足が錆びやすい素材なら困りますが、できるだけ僕は宇南山さんの言うように「素材の個性」こそ日常の中で味わう方がいいと思うのです。


先日、富山県の材木問屋さんの名木倉庫の中から、ケヤキの端切れを頂いてきました。無垢のケヤキのその塊は、ずっしりとした天然の質感をもっていて、生活の中に使ってみたいと思い購入しました。写真のようにスピーカーの下に収まりましたが、どこにおいてもいいと思っていました。

自分の生活の中に「天然の質感が少しある」ということって、なんでしょうか、不思議と「人」が常に「人の都合」でやってしまうこととは違う次元の空気感を放つ。そんな気がしています。


植物や石、ろうそくの炎、風や水・・・・ちょっと気を許すと「人」の生活を汚してしまったり燃やしてしまったりする危険もあるそうした天然の質を持ったものとの生活は、誰しも実は気になっていることなのではないでしょうか。今回の宇南山さんの「ブリキ」「銅」「真鍮(しんちゅう)」という3つの素材のままの「缶」への思いを聞き、そんなことを思いました。


少し大げさかもしれませんが、錆びることを楽しめるって、古くは利休の時代の感覚と同居する感じ、素材に向き合う感じと同じで、心に響いてくるのだと思います。
さて、今回も西山薫さんと取材に行ってきました。


季節

季節よって違う「もののまわり」の空気感

SyuRoは「五感に響くこと」をコンセプトに、商品をラインアップしている。「木や金属、布など、素材はそのまま生かすことを大事にしています。

肌に触れたときの質感や見た目の印象、匂いなど、素材の持ち味は五感に響くんです」と宇南山さん。その多くが定番なので、商品そのものに季節感はない。角缶もその一つだ。

ただ、五感に響くというコンセプトをショップで体現するには、ときに季節感も必要だという。そこで、SyuRoではシーズンごとに仕入れるアイテムを変えている。

その背景にあるのが「今は、ものを売る時代じゃない」という考えだ。
では、何を売っているのか。

宇南山さんは「もののまわりの空気感」という。

例えば、テーブルの上にシンプルな角缶が一つあると、部屋の雰囲気が少し変わる。要するに「角缶のまわりの空気感」が変わるということ。
角缶を買うことは、空気感の変化という楽しみももたらしてくれる。その楽しみを含めて買う、という考えだ。


「季節によって、もののまわりにある空気感は変わります。そのときどきで、ものの楽しみ方も変わるはずです。それを知りたくなるきっかけになったり、自分なりの楽しみ方を考える時間になったり。お店はそんな存在でありたい」

もののまわりにある空気は、季節だけでなく天気によっても異なるだろう。外が晴れていたら晴れやかな気持ちになったり、雨だったらしっとりした気分になったりするかもしれない。「天気や季節によって缶に何を入れようか、想像するものも変わってくると思います」

そんな気持ちの変化を自分なりに解釈してみる。もののまわりにある空気感を意識することは、豊かな気持ちで暮らすきっかけになるだろう。

海外でも人気、世界28カ国で販売

角缶は、海外でも人気だ。現在はスウェーデンやデンマークなど北欧を中心に、28カ国で販売している。日本では年間通して毎月平均的に売れているが、海外からの発注は8月から11月、クリスマスシーズンに向けて伸びるという。

「海外の人は、クリスマスプレゼントとして購入する人が多いようです。缶に何か詰めて渡したり、缶そのものをプレゼントしたり。日本人には『これは何に使う缶ですか』と用途を聞かれることがあるのですが、海外の人には『何を入れようかな。どうやって使うか考えるわ』とうれしそうに言われることがあります。海外の人のほうが、自分なりにアレンジすることが得意なのかもしれませんね」


海外市場は、角缶の発売当初から視野に入れていた。販路は少しずつ広がっていったという。「海外の人たちにも、日本の職人さんの手仕事を知ってもらいたいと思っていました」

ショップに来店してくれる海外からの旅行者も増えている。来店のきっかけを聞くと、そのほとんどは口コミだ。友だちが「いいお店があるよ、と教えてくれたから来てみた」という人が多いという。

手入れ

自分でアンティークに、その過程も楽しむ

SyuRoの角缶には、取り扱い方法や注意事項を記したリーフレットが添えられている。その最後に「いずれアンティークになる、シンプルな缶を是非お楽しみください」という一文がある。


リーフレットには、素材をそのまま楽しめるように錆び止め加工は一切していないことや、洗ったら乾いた布で拭き取り、よく乾燥させること、水気に弱いこと、手の平で全体をなでると手の油でシミになりにくく、艶を楽しめることなどが記されている。

錆び止め加工をしていないブリキの缶は、少しずつ錆びてくる。

SyuRoでは、経年変化は付加価値と捉えている。時を経て変化していくことが魅力となるように、余分な加工はしていない。リーフレットにも記されているように、いずれアンティークになる。その過程を楽しめることも角缶の魅力の一つだ。「季節や時が流れて、だんだん自分だけのものになっていく。そこに価値を見いだすことができれば、大切なものになるし、長く使い続けることができると思います」

枯れゆく草木も美しい


錆びてきたら、どうしたらいいんですか。

そう質問されることも少なくないという。
それに対して、宇南山さんは「それも味として楽しんでください」と伝えている。

「SyuRoが大事にしているのは、素材のままであること。木も金属も布も、素材の持ち味を生かしている商品は、五感に響くんです」

経年変化の美しさ。そのことを実感したのは、空間について学んでいたときだという。「季節の草花や木の枝などを生けていたとき、枯れゆく草木も美しいことに気付きました。葉の色が緑から茶色に変わっても、それなりの美しさがあるんです。自分が扱う商品も、そうなったらいいなと思っています」

ご購入はこちら
https://www.d-department.com/item/2015000100156.html



さて、ここからは毎回、取材を終えた僕ら「ナガオカ・ニシヤマ」の「ナガ・ニシ・後記」です。取材を終えてカフェで一息、みたいな、本音で締めくくる原稿化前の、リアルやり取りをそのままお楽しみください。

○ナガ
西山さん、今回の取材「季節」「手入れ」、ざっくりどうでしたか?

◉ニシ
お客さんに「錆びますか」と質問されて、「それも味として楽しんで」と伝えているという宇南山さんのお話を聞いて、そこに価値を見いだせるって、モノ好きというか、高度なのことなのかな、、と思いました。
かつては手入れして使うことは当たり前だったはずなのに、手入れせず使えることのほうが価値があるという考え方になっているというか。

○ナガ
僕は文豪の家を思い出していました。

◉ニシ
文豪の家?
どういうことですか??

○ナガ
夏目漱石とか河井寛次郎の家とか・・・・笑
家中に「質感」がある。しっかりとしたものを作っている人って、しっかりとした「質」を持ったもので暮らしていて、そういう人の家、部屋って、なんか、本物な感じあります。詰まっているというか、いい「気」があると言うか。

◉ニシ
なるほど。
質感といえば、わたしアンティークのデスクを買ったんです。
これです。
これを仕事部屋に置いたら、部屋の雰囲気がガラっと変わりました。

○ナガ
わっ、すごい。アンティークのものって、雰囲気、空気感を変えますよね。なんでしょうね、それ。

◉ニシ
そうなんです!!
デスクだけ買ったんじゃないと実感しました。これが「空気感」を買うということなんですね。
このデスクの上に角缶を置いてみたら、ぴったりでした。空気感がぴったりで。

○ナガ
新しいものって、やっぱり生まれたてなので、その価値はありますが、「新しい」ということが「価値」であった時代って、もう終わっているように思います。日本にも戦後の成長期を経て、暮らしと幸せ感がもので満たせた時代、1960年から80年あたりの。
そして、今、「新しい」という価値観って変わっていると思いませんか?

◉ニシ
そうですね。私が子供だった80年代は、まだ新しいものを追い求めていた時代だったと思います。
ナガオカさんは、新しいという価値感、どんな風に変わったと思いますか??

○ナガ
とても難しい質問ですね。まず、ぼやっとそれに気づいている人たちは多いと思います。僕はまだ、感覚的にしかわかりません。極端に言うと「新しいものへの拒否感」に近いかもしれません。

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