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18歳になった君は、校庭の真ん中でドラムを叩いていた

高3長男が通う高校は行事が多い。めちゃめちゃ多い。
特に9月はあらゆる行事をまとめて一週間で行うスペシャルウィークがあって、前夜祭から始まり、体育祭、分科会、討論会、文化祭、後夜祭と続く6日間、生徒達は勉強のことなど忘れて全力で青春を楽しむ。

そして軽音部でドラムを叩いている秋生まれの長男は、去年、17歳の誕生日に前夜祭のステージに立った。それは生徒会の審査を通過した限られたバンドしか出場できない舞台で、2年連続で出場した彼らの演奏は大いに盛り上がり、「良い誕生日になった!」と笑顔で帰ってきた長男に、私は「おめでとう」と返してケーキを食べた。


今年の誕生日は体育祭だった。

この高校の体育祭の自由さは半端なく、一般公開をしていないので私も実際に観たことはないのだけど、長男から聞く話によると、選手宣誓は「めっちゃオモロイ」らしく(思い出し笑いばかりで内容がよく分からん)、玉入れは脱いだクラスTシャツに玉を詰めて投げ入れたり、クラス全員リレーでは馬の被り物を被って登場する強者もいるとのこと。

ちなみにその馬が(わざと)フライングをしたものだから、たちまち乱闘騒ぎに発展し、止めに入った校長が揉まれた末に馬の被り物を被せられて一周走るという、どう考えてもドリフやないかっていう結末(注*最初から仕組まれたコントです)を楽しそうに話す息子の姿に、私は『この高校に入れてくれてありがとうございます』と心から神に感謝した。あっ、でも玉入れの竿が重さに耐えきれずに折れて怒られたオチは、ちょっとはしゃぎすぎやないかと思う。節度は守りましょう。


そんな高校の体育祭の日に誕生日というだけで、もう忘れられない記念日になるのは間違いないのだけど、何故だか軽音部3年のドラマーは『校庭の真ん中で演奏を披露する』という伝統?があり、今年は3人がリレー方式で演奏することになっていて、そのトップバッターが長男だった。

それは絶対観たいやんか、どうにか紛れ込めんのかと画策する私に、長男は「ムリ。やめて」とにべつもなく言い放ち、「それなら動画だけは撮ってもらってや、じゃないと観に行くで」としつこく言い続けた結果、体育祭から帰ってきた長男は「アングルがあんまりだけど」と言いながらも友達に撮ってもらった動画を転送し、さっさと風呂へ入ってしまった。

早速テレビに繋いで観てみると、ドラムしかない校庭の真ん中でスタンバイする長男と、その後ろに立つ2人のドラマー。30秒ほど経つと長男はスティックを持ったまま両手を上げてマルと合図を送り、「それでは…」というアナウスの後、演奏が始まった。

「キャー!!カッコイイー!!!」

演奏が始まると同時に歓声を上げる撮影者とクラスメイト達。「スゲー!!」「カッケー!!!」「ヒュー!!ヒュー!!」と盛り上がる声に私は隣にいた夫に向かって、

「キャーキャー言われてんで!!!」

と、大はしゃぎした。

こんな黄色い声援が送れらるなんて、赤ちゃん以来かもしれない。いつも後ろの方でバンドの演奏を支える役目を担っているドラムは、良くも悪くも目立たない。両手を広げてみたり、スティックをくるくる回してみたり、できる限りのパフォーマンスをしているが、やはりバンドのメインはボーカルでありギターだ。それが不満だとは微塵も思っていないけれど、やっぱり我が子が、たとえその場のノリであっても、女子高生から演奏をかき消すほどの声援を送られているのは嬉しい。嬉しすぎる。ありがとう、この動画は一生の宝物にします。



思えば長男の人生の区切りには、いつも音楽があった。

4歳からピアノを習っていたこともあり、10歳の時に市の小中学校が行う音楽祭でピアノを演奏し、12歳の小学校卒業式で合唱の伴奏を務めた。15歳には中学校卒業式で指揮者に選ばれ、そして今年、18歳の誕生日に校庭の真ん中でドラムを披露した。私が思い出す彼の学生生活の節目には、必ず音楽が浮かんでくる。

あっという間だったな。

腕の中ですやすやと眠っていた小さな身体が、私より大きくなったのはいつだったのだろう。徐々に私の知らない友達と過ごす時間が増え、次第に自分の夢を持ち、そしてもっと広い世界に旅立つと決めたのは、ほんの数ヶ月前だ。

もう大人になったのだ。

18歳になったからといって、すぐに親としての役割が終わる訳ではない。それでもやはり、大人になった日に校庭の真ん中で力強くドラムを叩く息子を観て、私はこの子が今日まで無事に生きていることに安堵し、彼の成長を心から嬉しく思い、そしてほんのちょっとだけ肩の荷が下りた。

それは親として最高に幸せな瞬間だった。



風呂上がりの長男を「キャーッって言ってもらってたやん!」と茶化しつつ、どうしても気になることがあったので聞いてみた。

「あの動画さ、途中から筋肉マッチョが並んでたのは、なんで?」

3人リレーでドラムを演奏する後方に映るサッカーゴールの下、水着姿の筋肉マッチョが突如現れ、さらに一人、もう一人と増えていき、最終的に10人くらいの筋肉マッチョがドラムのリズに合わせてゆらゆら揺れている光景に、私の目は途中から演奏そっちのけで釘付けになっていたのだ。

「あぁ、あれね。水泳部の胸筋に水風船を投げつけるってのがあってさぁ」

話しながらゲラゲラ笑う長男はまだまだ幼くて、いつまで経っても私の可愛い息子のままだ。「ウソやん!」と一緒にゲラゲラと腹を抱えて笑い、そういえば朝は慌ただしくて言い忘れていたなぁと思い出した私は、ケーキを頬張る彼に向かって「遅くなってごめんやで」と断ってから伝えた。


「お誕生日、おめでとう」


#ドラムスコ応援日記


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