「名誉総裁秋篠宮殿下賞」の瓢箪細工を観賞しつつ考えたこと:絶滅危惧種の「秋篠名誉総裁宮」的表記

画像1 令和四(二〇二二)年五月二十九日、知立神社(愛知県知立市)での「ひょうたん展示会」にて。多くの瓢箪細工が廻廊に並べられていて、それらを眺めているうちに「名誉総裁秋篠宮殿下賞」という表示に目が留まりました。
画像2 こちらが受賞作です。名古屋城天守閣の金鯱でしょうかね? 瓢箪の愛好家として「全日本愛瓢会」の名誉総裁を務めていらっしゃる皇嗣秋篠宮殿下。その宮号を用いた「名誉総裁秋篠宮殿下賞」という表現を見て、戦前期に催されていた「泰東書道院展」の「(東久邇)総裁宮賞」などとは単語の配置が違うんだよなぁ、とふと思ったのであります。
画像3 戦前期には、参謀総長たる閑院宮は「閑院参謀総長宮殿下」と呼ばれることが多々ありました。(軍事教育研究会『非常時国防写真大観』より)。役職と宮号を一体化させて、役職を「宮」の直前に挿入してお呼びする形です。いつからある形式かは知りませんが、江戸時代には式部卿である京極宮家仁親王を「京極式部卿宮」と呼ぶ事例がありました(『妙法院日次記』享保十年正月)。平安時代の敦儀親王は「岩蔵式部卿宮」と呼ばれるようですが、後世の呼び方ではなく当時すでにこう呼ばれていたのでしょうか?
画像4 同様に、軍令部総長たる伏見宮は「伏見軍令部総長宮殿下」としばしば呼ばれました。このように往古は「有栖川征討総督宮」「北白川近衛師団長宮」「梨本神宮祭主宮」「朝香大将宮」「東久邇首相宮」「高松総裁宮」「三笠御名代宮」といった表現がそこそこ見られたものです(※なお、大日本帝国憲法下の男性皇族は成人すれば自動的に貴族院議員になりましたが、皇族議員は名ばかりの存在で活動がなかったからでしょうか、「◯◯貴族院議員宮」という表現に関しては、不可能ではないはずながら見たことがありません)。
画像5 したがって、名誉総裁としての秋篠宮殿下は、昔なら「秋篠名誉総裁宮(あきしの めいよそうさい の みや)殿下」と表現されて、賞名は「秋篠名誉総裁宮殿下賞」ともなりえたのでしょうが、今日ではそんな古風な言い回しはほとんど使われませんね。少なくとも、TVニュースで「秋篠皇嗣宮」などと聞くことはまずありません。東京五輪の際に「秋篠御名代宮」と呼ばれることも、天皇陛下の海外訪問(※英女王エリザベス二世の国葬にご参列)の際に「秋篠国事行為臨時代行宮」と呼ばれることもありませんでした。
画像6 そういえば、秋篠宮家の若宮でいらっしゃる悠仁親王殿下は昔風にお呼びすれば「秋篠若宮殿下」となるはずですが、これも今ではほとんど目にしない表現です。三笠宮を継ぐべき立場だった生前の寛仁親王も「三笠若宮」でしたが、そう呼ばれていた記憶はありません。このような言い方は、戦後のいつ頃から消えてしまったのでしょうか? ――そんなことを、瓢箪細工を前に考えてしまったのでありました。皇室の方々の呼び方というのも、古くから伝わってきたものの一つに違いないのですから、伝統として大事にしていきたいものです。【終】
画像7 【以下余談】「ひょうたん展示会」は一時的なものですが、知立神社境内には、いつでも見られる皇室関係の記念碑がいくつかありました。同社公式ウェブサイト上でも紹介されていないものを、せっかくなので紹介いたします。こちらは幕末から明治時代にかけて大きな存在感を示した高位皇族、有栖川宮熾仁親王が揮毫した碑です。
画像8 こちらは明治時代の皇族、小松宮彰仁親王が揮毫した記念碑です。地方の神社ではありますが、「延喜式内社」の格式を持ち、また三河国の二宮でもありますから、二人もの皇族の揮毫碑があるのも「むべなるかな」という感じです。他にも、境内には明治天皇の御休息所が、周辺には御製碑や「明治天皇行在所聖跡」、「明治天皇駐蹕地」の記念碑がありますので、参拝時にはお立ち寄りになるとよいでしょう。――などと締めくくりっぽいことを書きましたが、一応それも撮影済みでありまして、大変もったいないので続けて放流いたします。
画像9 明治十九(一八八六)年に建てられた「養生館」です。明治二十三(一八九〇)年には、明治天皇の御休憩所になりました。愛知県下でも珍しい、明治十年代の現存する洋風建築です。
画像10 知立公園の西公園――明治天皇が愛した名品六十種が植えられている花しょうぶ園――にある、明治天皇の御製碑です。「ありとある人をつどへて春ごとに花のうたげをひらきてしがな」とありますが、歴史的仮名遣いで書かれているため、読める人は多くなさそうです。揮毫したのは明治神宮宮司の伊達巽。知立公園の花しょうぶは明治神宮から下賜されたものらしいので、その関係に違いありません。この碑に注目する人はほとんど誰もいませんでしたが、場所によくマッチするものをと選び抜かれた御製なのでしょうね。
画像11 「明治天皇駐蹕地」の記念碑です(知立古城址にて)。
画像12 「明治天皇御小休所址」の記念碑です(知立古城址にて)。
画像13 「明治天皇行在所聖跡」の記念碑です(池鯉鮒宿本陣跡にて)。

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