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どのような経営者がM&A相談に来るのか~成長意欲編~

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今回は「成長意欲編」

成長意欲と実態はうまくバランスしないもの。

例えばプロサッカー選手の中には、本田圭佑氏のように、ワールドカップ優勝とか、世界トップチームでの活躍を目標に掲げている人がいる。
経営者の中にもそのような、ハンパじゃない成長意欲をもって経営する人がたまにいる。
本田圭佑氏は、その強い成長意欲によって、名門ACミランの10番を身に着けるところまで駆け上がったが、ワールドカップ優勝という壮大な目標は、少なくとも選手としては未達成で終わった。
強烈な成長意欲は自身を引き上げるが、トップオブトップを目指そうとすると、そこはどうしても席数も限られていて、意欲や努力だけではどうにもならない面がある。

企業経営も同じだ。
強烈な成長意欲と努力によって、経営力を磨き、人格を磨き、会社の成長を推し進めていくことはできるが、その目指すところがあまりにも高いと、競争市場である限り、一握りの人しか辿り着けないという現実がある。

経営者とサッカー選手とでは実は大きな違いがある。

サッカー選手はあくまで「個」だが、経営者は組織が前提だ
更には所有と経営という分離も可能で、多方面から会社の成長を促進するためのテコ入れができる。
極論、自分に経営力がなかったとしても、孫正義氏を経営者として招へいすることができれば、オーナーとして会社を強烈に成長させることができるかもしれない。

オーナー経営者として、会社の成長と自身の成長意欲にギャップが生じ、思うように会社を成長させられないとき、色々な選択肢がある。

  • 優秀な経営者を招へいする

  • 要職に優秀な人材を招へいする

  • 他社との業務提携によって、成長を促進する

  • 他社との資本提携によって、成長を促進する

などなど。

このうちの最後に記載した資本提携がM&Aだ。

資本提携

例えば、あなたの会社が相応に魅力のある会社だった場合。
その会社と協力関係になることで、双方の成長に繋がることが想定される会社は色々とあるはずだ。

オンリーワンの加工技術を持っている製造業だとすれば、そこに発注している企業は、あなたの会社と協力することで、コスト削減に繋がる。商品開発の際には、その技術力をこれまで以上に身近に活用することができるようになる。
あなたの会社は、協力関係になることで受注が安定する。また、開発の方針がまとまるため、技術を更に深堀していくことができるかもしれない。

このようにお互いに強みを持っている会社同士は、協力関係になることで、それを更に伸ばしていくことができるかもしれない。
この協力関係を、業務提携契約というあくまで他人同士の協調関係として進めるか、資本の連携にまで踏み込むことで、身内として推し進めるか、という選択肢が出てくる。

当然ながら、それぞれの連携力の違いは歴然で、業務提携契約はいつ契約を切られるか分からないという備えで進める必要があるが、資本提携にまで踏み込めば、その懸念は概ね払しょくされる。

議決権比率によって変わる資本提携の意味

基本的には、議決権の過半数、3分の2以上というのが会社の決議に大きく影響を与える。
前者は株主総会の普通決議事項を単独で決議できるようになり、後者なら特別決議事項まで単独で決議できるようになる。
例えば取締役を解任(=普通決議事項)するには、対象会社の議決権を過半数持っていれば事足りる。
あるいは会社を解散しようと思うと、これは特別決議事項なので、議決権の3分の2以上を持っていれば、単独でそれを決議することができる。

また、議決権の4割以上+条件、あるいは過半数以上を取得することで、株を引き受ける企業は、対象会社を連結子会社化できる。
対象会社が優良企業であれば、引き受ける会社からすれば是非とも連結対象に加えたいところ。
上場企業であれば株価の上昇も期待できるかもしれない。

このように買い手側の理屈が成り立つ。
それに対して売り手側としては、リスクとリターンのバランスで決議することになる。

前提としては、多くの場合、そもそも過半数以上の取得を前提とした資本提携しか買い手は受けてくれない。
何故なら、その株式の取得に相当の対価を支払うわけで、高いお金を払っても結局過半数の株式も取得できなければ、代表取締役を決める権限さえ実質的には取得できないことになる。
売主の立場からすれば、過半数を手放すということは逆に自分の代表取締役としての立場はいつでも取り上げられてしまう可能性があることになる。

資本提携によって見込まれる会社成長と、オーナーとしての株式を手放すことによるリスクを天秤にかけ、意思決定していくことになる。

過去の相談例

大変高収益な飲食業態を開発されて、直営で10店舗ほど展開。
社長は会社を上場させて、数百億まで伸ばすと豪語されていながらも、自社の資本力では年間出店できる店舗数に限りがあり、社長が望む時間軸では成長ができない。
そこでフランチャイズでの展開を考えスタートさせたが、本部構築は思った以上に大変で、これまでの直営店運営とは全く違った機能が必要となり、店舗は増やしていけるものの、事業の再現性の乏しいお店も一部では出てきてしまっている状況。
そこで、大手のFC展開実績が豊富な会社の傘下に入ることで、そのノウハウを一挙に取得し、また加盟候補企業をそこから紹介してもらうことで、FC本部としての磨き上げと出店スピードの加速を両軸で進めてしまおうと考えられた。
会社はあくまで上場を目指すということを前提とし、その時には社長も上場益を獲得できるように株式は過半数以上は手放すが、すべては手放さない。
また、自身の経営が前提としてあるべきだというお考えで、よほどのことがない限りは経営者を交代しないということを条件とした。

自力で推し進めた場合に、10年はかかると思われた上場までの過程を、5年に短縮する、というのが本件M&Aの主要件だ。

このように、M&Aを活用することで、ハンパじゃない成長意欲と、一方でなかなか伴わない会社の成長をバランスさせることができる可能性がある

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