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怪異蒐集『集合写真』

■話者:Rさん、会社員、30代
■記述者:黒崎朱音

「ここで集合写真を撮らないでください」

 みたま市にある火葬場の待合室には、そう書かれた一風変わった張り紙がある。理由は不明だが、この場所で集合写真を撮ると、知らない人物が映り込んでしまうという噂があった。

 Rさんは高校生のときに、葬儀のためにこの火葬場を訪れたことがある。大叔母が亡くなったからだ。100歳近くになってからの逝去で、大往生と言ってもよかった。そのせいか葬儀も暗い雰囲気はなく、集まった親類が思い出話に花を咲かせる和やかなものだった。

 焼骨の間、待合室で待っていると、大勢の親類が一同に介する機会はめったにないので、写真を撮ろうという話が持ち上がった。Rさんは張り紙のことは知っていたが、止めなかった。噂自体が眉唾だと思っていたし、何かが写るものなら見てみたいという気持ちもあったからだ。

 写真はRさんの父親のフィルムカメラを使って、タイマーで撮られた。集まった全員で待合室の壁際に並び、写真を撮った。ちょうど、修学旅行の集合写真のような構図だ。写真を撮っている前後で、特に変わったことは起こらなかったという。

 葬儀後、しばらくして写真ができた。Rさんはさっそく写真を受け取って確認したが、変わったところはなくがっかりした。しかし、もう一度見直したときに、その人物に気がついた。

 写真の中央近くに見覚えのない男性が写っていた。男性は周囲と同じく黒いスーツ姿で、人懐っこい笑みを浮かべている。誰かの肩越しに、などではなく、他の人と同様、きちんと1人分のスペースを取って並んでいた。

 あまりに自然に、堂々と写っていたので、自分が知らない親類の誰かだと思ったが、両親に聞いても見覚えがないという。念のため親類にも確認したが、誰も知らない人物だった。他にも父親のカメラや携帯電話で何枚かの写真を撮っていたが、それ以外の写真には、その人物は写っていなかった。

 Rさんは写真の人物が気になって、火葬場に写真を持って行った。写真を見せると、職員は困った顔をして、次のように言った。

「ここで集合写真を撮ると、この方が写ることがあるんです。集合写真だけで、不思議と他の写真には写りません。あまり悪意のあるような顔には見えませんが、気味悪く思う方もいらっしゃるので、ああいった張り紙を貼っているのです」

 写真に写るのは毎回同じ人物で、判で押したように毎回同じ髪型、同じ服装、そして同じ人懐っこい笑顔なのだという。ただ、写る際の条件があって、Rさんの大叔母の葬儀のように、暗い雰囲気のないカラッとした葬儀で撮られた写真にだけ、写り込むことがあるのだという。

 火葬場の方で懇意にしているお寺に相談したことがあったが、「写真に悪意は感じないので、放っておけばよい」と言われた。例えばここで火葬された人物など、霊的なものかと尋ねると、「そうだと思うが、正直、よくわからない」と首をひねったという。

 親類の間で、件の写真はしばらく語り草になった。Rさんは友人にもこの写真を見せたが、あまりに自然に写っているためなかなか信じてもらえず、もっと幽霊っぽく写ればいいのに、と不満に思ったそうだ。

■メモ
・写真を見せてもらったけど普通のおじさんにしか見えなかった。火葬場の張り紙はなくなってて、職員の人に聞いたら「話は聞いたことありますね」って感じだった。今は写らないっぽい?(朱音)
・住職の話だと霊じゃない可能性もあるのかな。毎回同じ顔だから霊的なものなんだろうけど。(水鳥)
・これ、北に抜ける山道の途中にある火葬場だよね。ていうかみたま市の火葬場そこしかないけど。(亜樹)
・そうそう。(朱音)
・というと懇意にしてる寺って最寄りの浄樂寺?(水鳥)
・え? てことはあそこの和尚の台詞? うっわ、一気に言葉の信頼度が下がるな。(朱音)
・こんど日本酒でも持って話聞きに行ってみよう。(水鳥) 
・集合写真以外に写らないってとこが妙というか、面白いよね。(亜樹)
・集合写真にだけ写りたいっていう、こだわりっていうかいたずら心を感じる。(朱音)

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