見出し画像

突然やってくる「本を出しませんか」の営業電話に潜むウラ

ある日突然かかってくる、出版社を名乗る電話。
応対してみると、「社長様の本を出しませんかーー」

なんらかのビジネスをやっている人、特に経営者であれば「本を出しませんか」という営業を受けたことがある人は多いかもしれない。
実際、僕がふだん色んな経営者と接していると、出版の営業を受けたことがあるという人は体感で3割くらいはいる。

で、こうした出版営業。しっかりと相手を見極めて対応しないと、少なくはない額の出版費用をドブに捨てる結果になる。
企業さんの出版を手伝う界隈で10年生きる編集者・経営者である僕の目線から、今日はそんな話を書こうと思う。

「ブランディング目的の出版です」に要注意

前提として、出版の営業をかけてくるのは、本を出す著者からフィーをもらって事業を営む出版社だ。
すごく単純にいうと自費出版の営業ということになる(フォーウェイの事業であるブックマーケティングは「自費出版」とは明確に区別しているが、ここはわかりやすさを優先)。

出版営業が口を揃えて言ってくるのが、「ブランディングのための出版です」「名刺代わりの一冊です」というセールストーク。これはもうワンルームマンションの営業が「節税のご案内です」「生命保険代わりになります」と言ってくるのと同じくらいの定型文言になっている。

結論を言うと、こういう文句で説得してこようとする時点でその会社と担当者には気をつけたほうが良い。
なぜなら、出版において「ブランディング」「名刺代わり」という意義付けは間違ってはいないものの、そこを打ち出しにする時点で「費用をもらってもわかりやすい成果を提供する自信はありません」と言っているのに等しいからだ。

たとえばブランディングにしても、

誰に対するどういうブランディングなのか?
事業の全体図において、出版をどう位置付けてブランディングするのか?
どういうジャーニーマップでブランディング出版からの収益を実現するのか?
他のブランディング施策と比較した費用対効果の吟味は?

など、結果を出すために深掘りして考えるべき事柄は山のようにある。
にもかかわらず、出版営業パーソンにこうした突っ込んだ切り返しをしても、きちんとした回答が得られることはほぼ期待できない。いや、正確に言えば前述のような問いはクライアントとの信頼関係に基づく共創があって初めて答えが出てくるものであり、本来なら問いに対して「はい、それを一緒に考えたいんです」と俄然前のめりになってきてほしいところだ。

現実はそうはならない。
担当者は上司に仕込まれた切り返し文句で質問の核心から逃げ、「要は出版はなんか良くて、社長が有名になるんスよね」というレベルの説得をその後数十分にわたって続けるだろう。
こうなってしまうのには業界に潜む人的問題のカラクリもあるのだけれど、そこの深掘りはきわめて豊富なネタがあるため、また記事を改めることにする。

ともあれ、言いたいのは、出版営業には著者が出版によって得られるリターンを誠実に考え抜いてはくれない人も多くいる、ということだ。
近年はマーケに詳しくて費用対効果にシビアな経営者が多いから、そういうスタンスの営業では正直厳しいだろう。僕も経営者だから、投下するコストに対するリターンと真剣に向き合ってくれないパートナーに仕事を頼むのは相当怖い。

営業をかけてくるくせに「出版したくない」のが本音!?

なぜ、こうした出版社はクライアントに成果をもたらすことを真剣に考えないのか?
正直このテーマだけで本を一冊書けるほどに切り口があるのだけれど、今回はそのうちの大きなひとつについてだけ述べる。
出版社内部の組織構造に潜む問題だ。

簡単に言うと、クライアントからフィーを取るモデルの出版事業は書店営業などのプロモーション施策にあまり労力をかけられない。
これには2つのパターンの理由がある。

ひとつは、通常の商業出版と同じ組織で自費出版もやっている会社の場合。僕もいろんな会社を版元にする出版案件に携わってきたけど、通常の出版社において「企業案件」の優先度はぶっちゃけかなり低くなる。
これには販売部や営業部といったプロモーションの実行部隊が、本の「返品率」で厳しく評価されている仕組みが背景にある。企業案件の本は、企画ありきで「これは売れる」と判断された商業出版に比べてヒットの確率がどうしても落ちる(=書店からの返品が増える)ため、プロモ系の部署からすると、なるべく出してほしくないのが本音なのだ。
ただ、こうして返品率で本を厳しく見るのも、書籍のいわゆる再販制度という構造に由来するものだ。現場の出版社社員にはどうしようもない部分もあるが、こうした構造について今回の記事で詳細を語るのは避ける。

とはいえ結果、「流通を減らす方向でクライアントと調整できませんか」なんて申し出が社内で降ってくるパターンもある。完全に出版社内のセクショナリズムであって、わざわざ費用を払って効果を求めるクライアントからすると意味がわからない。完全にクライアントメリットの逆をいっている。

企業案件だけの出版社には良し悪しあり

一方でもうひとつのパターンである、「企業案件だけをやっている」あるいは「企業案件の部門が別会社」のケースを見てみる。この場合でも、プロモーションに対する労力はあまり費やされない。

その理由は一言で、出版社側の経営の都合だ。
通常、出版社は当然ながら本を売ることによって利益を出している。だから書店営業をはじめとするプロモ部隊は生命線だ。不断の努力によって時々はベストセラーが出て、そういうハネた銘柄がもたらす大きな利益によって、累々と重なる売れなかった本の屍を拾う。ベストセラーがあるからプロモ部隊の人件費も賄える。そういうモデルだ。
(余談ではあるが、屍になる本が多すぎるため、出版社は商業出版であってもほとんどの本には大きな販促コストをかけられない。成り行きで動きの良い銘柄に対しておそるおそる投資しているのが実態だったりする。この話もまた別記事にしようと思う)

話を戻すと、企業案件だけでなかなか10万部、20万部といったヒットは出ない。企業案件の出版社にとって主な収益源はクライアントからのフィーになり、そうすると版元の経営者にとってプロモ部隊にコストをかけるのは費用対効果の悪い投資になってしまう。
普通、出版社にとってプロフィットセンターであるはずのプロモ部隊がコストセンターとして経営者の目に映るという、奇妙なねじれが生じるのだ。
最悪のケースだと、「出版契約を取るのがゴール。その後の制作と販促の労力はなるべく最小限にするのが一番コスパが良い」という、クライアントからすれば完全に間違った利害認識が出版社側に生まれてしまう。そういう版元も中にはあるようだ。

ただ、この2つめのパターンは本当に会社による。
実際に僕が仕事で関わる同業の出版社は、頭が下がるほど誠実に企業案件に取り組んでいる。あと、妙なフォローになってしまうかもしれないが、どんな出版社も大半の担当者個人は誠実に仕事に取り組んでいる。
ゆえに、「出版するなら版元選びが超重要」と断言できるのだ。

まとめ

最後に、ブックマーケティングの専門会社である僕の会社の工夫も少しだけ述べておく。
当社は親会社であるフォーウェイ(非出版社)が子会社である出版社パノラボを管理する形態になっている。設立してそれほど年数のないベンチャーなのにわざわざ出版社を別会社にしているのには理由があって、つまり今回の記事で書いたような出版社内のおかしな歪みを生まないようにフォーウェイがパノラボにガバナンスをきかせるのがひとつの狙いだ。
クライアントの利益を最大化し、出版社としてもベストな仕事をする。そういう理想を反映させた体制になっている。

ちなみに、細かい話は避けるがプロモーションと書店営業についても、僕と取締役の江崎が10年間、企業案件だけに取り組んできた学びと反省をふんだんに盛り込んだ独自のスキームになっている。
これが実はけっこう当たっていて、「企業案件なのに最初の4冊がすべて重版」「クライアントの出版リターンが億超えの書籍が続々出ている」など実績で語れるようになっているのは嬉しい限り。
正直、ここにきて心底、自社の出版サービスに対する愛情が高まっていることは、この記事を書いた動機のひとつだ。

出版は、成長企業が次のステージに駆け上がるために良い施策だ。
良い出版によって、幸せになる著者が一人でも増えてほしい。

▼出版の相談はこちら▼
info@forway.co.jp

▼フォーウェイ公式▼
https://forway.co.jp/

▼パノラボ公式▼
https://forway.co.jp/panolabo/lp/

この記事が参加している募集

マーケティングの仕事

仕事について話そう