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論破のエッセンス【アイデア保管庫#1】

#1 その論破は必要か

戦わずして勝つ、これが最上の勝利である。議論の最終目的は自分の意見を押し通すことであり、敵対して敵味方とも消耗するよりは話し合いで妥協点に落ち着くのが一番良いのである。仮に相手が意見を押し通そうとも、あまり重要ではないことなら借りを作らせておくのが良い。原因が自分のプライドにあるのなら、論破はやめたほうが良い。論破するなら慎重に。最もまずいのは、準備不足で論戦に挑むことである。

#2 目的・勝利条件を明確にする

敵を知り己を知れば百戦危うからず。衝突は避けられなくても、最小のコストで納得できるところまで持っていけばもう十分なのである。過剰な攻撃は利益を生まない。そのためにも、論破の目的や議論の着地点を見極める必要がある。

今後の自分と相手の関係、自分と周囲との関係の変化も予想しておくのが良い。人生は長い。くだらないことで論破して自分の印象を落とせば、後々苦みを味わうことになるだろう。勝負に勝って試合に負けるのだけは避けたい。むしろ、相手をそのように誘導すべきである。

#3 聴衆を味方につける

多くの人が間違えているが、論破の目標は相手を説得することではない。一度話し合いが決裂し論破が避けられないのなら、相手を説得する試みは虚しい。聴衆を味方につけ、圧倒的多数で圧力をかけるのが勝利条件になる。DQNがインキャをいじめられるのは、圧倒的多数の暗黙の了承を得られるからである。

議論を通して、聴衆に相手の理不尽と自分の正しさを見せつけなければならない。プレゼンが一人による説得なら、論破は対話による説得である。事前の根回しもできればしたほうが良い。サクラを準備できると一気に優勢になれる。

#4 論理より信頼

説得には三要素ある:ロゴス(論理)、エトス(信頼)、パトス(情熱)である。学術討論や裁判ではロゴスが最も重要である。しかし一般大衆を相手にした議論では、高度なロゴスでは聴衆を説得できない。自分の潔白を示し、相手の信頼を落とすことが勝利の鍵になる。いくつか有効な方法を挙げる。

  1. 間違いを指摘する:ロゴスが重要な場面では、いくつかの論点に間違いがあっても、その他の論点が反駁されなければ、正当性は定量的に判断される。しかし一般大衆は、0か100で判断する。わずか一つの矛盾でも、適切なタイミングで上手に指摘すれば、信頼は崩れる。従って学術討論とは異なり、なるべく手の内を明かさずに相手にたくさん喋らせ、その矛盾を指摘するのが効果的な方法である。

  2. 信用度の格差を利用する:相手が社会的に立場のある人間であることは、すなわち倫理的な正しさに関する指摘に弱いということである。「それは教師としてどうなのか」「上司がそのようではまずいのでは」と相手の立場を利用して信用度を失墜させる

  3. 聴衆との情報格差を利用する:議論の上で相手に悪印象になる発言をさせ、一方で自分の印象を上げる言動をする。聴衆を自分の味方にするのではなく、私はあなた方の味方だとアピールする。逆に相手を敵と認識させる。

詳細を次の章で述べる

#5 矛盾の指摘

前述の通り、アカデミックな討論と違い一般人相手の議論ではただ一つの矛盾で残りの論点が水の泡になることがある。それは、一般人には黒か白かという判別しかできないからである。従って、全ての論点で反駁しようとせず、一点に集中して矛盾の穴を広げることが相手の信用度を落とす最も効果的な方法である。

矛盾を導く上で、詭弁を上手に使うことは重要である。一般人を説得するのに論理的な正しさは重要ではなく、むしろ高度な論理は遠ざけられる傾向にある。もし「詭弁だ」と反論されたなら、「どういう部分が詭弁ですか?」と相手に込み入った説明をさせるようにしむけ、聴衆からの支持を失わせることも可能である。

まず誘導から始める。

  • 先手をとる「まずあなたが言っていることはこういうことだと思うのですが、云々」:議論の組み立てを相手に任せると、相手は自分の有利なように議論を進める。相手の論点にある程度自分の枠組みを強制すると勝ちやすい

  • 喋らせる:まず、聴衆は一方的に話を浴びせる側に不快な印象を持つ。また込み入った説明も嫌う。その上、喋ることは運動と同じで精神を興奮させ思考力と冷静な判断力を奪う。何をせずとも喋らせておけば相手は勝手にヒートアップする。

  • 説明を求める「理由はそれだけですか?他に何か理由があるでしょ」:相手に喋らせるテクニック。相手は「自分の論点を補強しなきゃ」と躍起になるが、むしろ話題を広げており、守らなければならない論点が増える分脆弱になる。

  • 根拠を求める「なんかそういうデータとかあるんすか?」:この時、自分の方に根拠がないとただの粗探しになってしまう。事前に理論武装して罠を仕掛けるのが望ましい。また、相手のデータの不備を指摘するさい、「ここがおかしいけどどうしてこういうデータとったんですか?」と理由を求める。当然相手が自分で調べたわけでもない(場合がほとんど)ので分からないが、聴衆は相手に説明責任があると思い込む。

  • 連続→非連続「16億までOKなら、何億からダメなんですか?」:本来は連続的なものを、無理やり相手に区切りをつけさせることで、聴衆に違和感と不信感を植え付ける。その際、自分の意見は絶対言わないこと。砂山のパラドックスの応用である。

  • 主語をデカく「つまり女性は馬鹿ということですね?」:まず、自分は相手が使う用語を理解していると思わせる。その後、少しずつ用語を変えて質問する。人間は聞かれた通りに答える傾向があるので、相手はやがて本来意図していない用語を使い始める。例えば初めは「30代の未婚の女性が」だったが、白熱して言うのが面倒臭くなってきた頃に「未婚女性が」などと省略し、最終的に「女性は」と言わせる。この際、「全ての」「いつも」など全数を露骨に示唆する言葉は控える。あくまで、相手と聴衆の認識にわずかでも差を作るだけ良い。後の後件否定につながる。

  • 主語を小さく:逆に議論の対象を狭くしていく。方法は上と同じ。ただしこちらも、「だけ」「のみ」など露骨な限定詞は避ける。

  • 多重尋問「なぜワクチンは危険ですか?」:上記の主語をデカくの穴をさらに広げる誘導。必ずしも全ての場合で正しくない論点の理由を求める。なぜと問われると、人はその前提が正しいと無批判で受け入れその理由を考えるのに必死になる。これを確証バイアスという。

  • 二択問題「これは〇〇ですか、はいかいいえで答えてください」:矛盾を導く最終段階で使用するのが効果的。明らかに第三の答えがある時に使用を避けるべきである。早口で畳み掛け聴衆に第三の選択肢を与えないのがベスト

そして上手に詭弁を使って矛盾を指摘する。もちろん「ここおかしいですよね」と
ストレートに矛盾を指摘できるに越したことはない。キーポイントは詭弁が生じた責任を相手に負わせることである。

  • 前件否定「自分がされて嫌なことは相手にもするな」「じゃあ自分が嫌でなければしてもいいんだな」「お前が嫌じゃなくても人が嫌な時もあるじゃんキモ」「じゃあなんで自分が嫌なって言ったのさ?人が嫌なこともって言うべきでしょ?」

  • 後件肯定「ワクチン打つと癌になる」「じゃあ癌になった人はみんなワクチン打っているのだな」「そんなこと言ってないじゃんなんなの?」「でもワクチン打たなくても癌になるって言ってなかったじゃん」

  • 隙間の神「結構主張と違うデータもあるんですが、このデータは全部デタラメの改竄だとでも言うんですか?」「そんなことは言ってないだろ」「じゃあこの違いをどう説明するんですか」:相手の説明しきれない主張を、受け入れにくい・間違っていることを根拠にしていると聴衆に思い込ませる

  • 論点すり替え:「肉食は倫理的に間違ってない」「じゃあ犬肉も食えるってことだな」「犬は違うだろ」「どう違うんだよ」「感情の問題があるだろ」「なんで倫理の話なのに感情の話に論点すり替えるの?」

  • 二択問題:「地球は丸く見えないから、平らだと思うんですね?」「その通りだ」「じゃあ見えないものは基本信じないんですね?」「そうだ」「じゃああなたは自分の脳みそ見たことあります?」「待て、見えなくても脳はあるだろ、他の人にもあるんだから」「じゃあなんで見たものしか信じないって言ったんですか?(言ってない)」

  • 連座の誤診:「夫婦別姓には反対だ」「某教会も同じこと言ってたぞ、お前は奴らの味方なのか?」「そうじゃない、誤解だ」「でも現にお前はそいつらと同じ意見を主張している」

重要なのは、これら一連のやり取りを長くても15分以内に収めることだ。15分をすぎると人間の集中力は急激に衰える。聴衆を離れさせないためにも、集中力が持続する時間内に矛盾を導き出さなければいけない。

相手の詭弁を使ったのを待って、それを指摘したあと自分も同じ詭弁を使うと、バレにくい。それは、「あなたが信じていたものは嘘だった!」と宣伝する陰謀論にハマりやすい理由と同じで、詭弁を指摘したあなたを聴衆はより盲目的に信じてしまうからだ。ただし、あまりにも露骨な詭弁はバレるとまずいので避けるべし。

#6 信用度の格差を利用する

私たちが議論しなければならない相手がいわゆる「格上」の時がある。上司、警察、教師、目上の親戚、先輩、いじめてくる人などである。多くの人はこの時引け目を感じる。しかし、この社会的な立場の差をうまく利用して相手の信用を切り崩すことができる。

私たちが普段使っているテクニックであり、私はそれを学びやすく編集したにすぎない。

まず、自分の信用度を保つテクニック

  • 落ち着いて話す:基本中の基本である。落ち着いている人間は知的で頼り甲斐があると思われ、聴衆の信頼を得られる。ただし、ボソボソと自信なさげにするのはNG。あくまで堂々として自信ありげに議論をするべき。具体的に、目線、顎、背筋、手の位置、立ち方が視覚的なイメージに関わる。鏡を見て日頃練習すると良いだろう。また、自信がない人は人とすれ違う時積極的に身をよける。自信がある人(悪く言えば態度が横柄)は自分からよけない。普段から意識して「人をよけない」訓練をすると、自信を持つということが如何なるものかのイメージが多少つくようになる。

  • 真面目にならず適度におちょくる:笑いは余裕を意味する。また現代社会では真面目に議論することは「ダサいこと」とされる。常に自分が場をリードしている雰囲気を出す。

次に、相手を怒らせて余裕を奪うテクニック

  • 煽る(1): 「そんなこともわからないのですか?」特にエリート意識が高い相手に効く。戦前、アメリカのスパイは日本側の情報を得る際に「そんなこともわからないのですか?」を使った。頭にきた日本人は物知りを装うために次々と情報を吐いたという。相手に喋らせるテクニックである。

  • 煽る(2): 「なんか電車で遊ぶのが大好きなキッズっているじゃないですか、鉄オタっていうんですけど…」言葉の端々に相手を煽る言葉を入れる。直接的な煽りは罵倒と見做されエトスを減じる。あくまで余裕を装うのが肝。

  • 千日手:「ちょっと職質いい?」「嫌です」「なんで」「警察が嫌いだからです」「なんで嫌いなの?」「職質するからですよ」要するにウザい論理で堂々巡りにさせて相手をイラつかせる。煽り能力が高く、議論が行き詰まりやすい。あまり使わない方が良いと思われる。

煽られた時の対策

  • 「あっ自己紹介ですか?」最も手軽、煽り性能が高い

  • 「どうもご教示ありがとうございます。大変物知りなんですね!」じわじわ来る。形式的にはこちらが折れているので相手はこれ以上煽れない。コジコジを参照すべし。

  • 「その通りだね。マウント取れて嬉しい?よかったね」上に同じ。要するにいなすテクニックである。

  • 「姑息だね。もう他に反論はないの?」相手の残弾を示唆するセリフ。こう言われると相手は必死で新しい論点を探そうとする。すると、大抵その場で思いついたものは理論武装も薄く矛盾をつきやすい。結果、相手はさらに泥沼にハマり聴衆の信用を失う。これも相手に喋らせるテクニックである。

避けるべきは無意味な煽り合いである。程度の低い煽り合いは聴衆の支持をなくす。マウント取り合いの無限ループに入りそうだと気づいたら、上記の第二、第三のテクニック「いなす」を使うと良い。余裕を見せつけられる。

次に、社会的立場が上であるからこそ、大人な対応が求められている相手に向かって放つ煽り文句である。先進国の軍隊は民間人に被害が出ないように細心の注意を払う。それは。彼らに大国としての信用があるからだ。同様に、彼らはすでに高い社会的信頼を保つため、より「紳士的な」戦い方を強いられている。この弱点を突く。

例)煽りが効いてイライラしているとき「おい、お前ふざけてんのか?調子に乗っていると承知しないぞ?」「おっ、脅迫か?職場で白昼堂々と脅迫ですか」立場が弱いことを利用して自分が保護されるべき人物であることをアピールする。
例)議論が白熱して相手が熱くなっている時:「教師なのに落ち着いて生徒とも喋れないんですか?」
例)議論が噛み合わない時:「私はこういうつもりで言っているだけなんですが(極度に単純化)どうして大人のあなたは理解できないんですか?」
例)串刺しの技「先生も先輩のあの素行を見て見ぬふりですか。恥ずかしくないんですか」

などなど。特に一番目の脅迫対策は、実践で怖気付く人が多いので要練習といったところである。

#7 情報格差を利用する(書きかけ)

多くの場合、聴衆は議論している人の状況や過去の言動をよく把握していないことがある。その情報格差を利用して、相手の印象を落とすことができる。

例)「〇〇がかわいそうじゃん、それでもいいんだ?」:別に直接の対象ではなくても良い。相手の論理の通りならこういうこともできる、と仮定と論点ずらしのダブルパンチもOK。

例)「お前はいつもそうだよな」:相手の何かの失言に対して傷口を大きくするテクニック。

同情させる「みなさん、私の立場だったらどう思いますか?」:聴衆を味方に引き込むテクニック。ただし、その前に自分と聴衆の共通点を強調しておく必要がある。例えば、いじめ対象のインキャが突然「僕の気持ちになってみてよ」と言っても響かない。「みんな誰だって次のいじめの対象になるかもしれないんだ、その時俺みたいなことになったらどうする?」と共通点を先に述べることで自分と聴衆の距離がグッと近くなる。

また同時に、相手は共通の敵であると認識させる

#8 引き際を考える

世の中にはたまに本当に頭の切れる輩がいる。そうでなくても、議論のテーマの専門家である人には喧嘩を売らないほうがいい。専門家ではなくても、高度な教育を(真面目に)受けた人なら小手先の技は簡単に見破られる。その上社会的信用も上であるなら、どう考えても勝ち目はない。

というか、そこまでの人なら素直にアドバイスを受け取ったほうがたぶん結果的に得をする。

議論する前に見破って争いを回避するのが最善である。議論の途中で遅まきながら気づいたなら、平身低頭、プライドを隠して敗北を認めるべきである。負けても自分のエトス(信頼)は大きく損なわれずに済むからだ。人生は長い。後々、相手が苦手な分野で小さな勝利を積み重ねて、着実に信用度を削ってから、再戦を望むべきである。


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