見出し画像

ドーン【読書感想文】

昨年平野啓一郎さんの講演会に行った時に隣の席に座った方が勧めてくれた本、ドーン。火星探査のミッション中に起きた出来事を中心に進む、2036年という未来の世界での話。

 平野啓一郎さんの本を読む時にいつも思うのは、途中難しすぎて前のページに戻ろうかどうか悩むこと。戻ってみてもやっぱり難解。でもある時強引に読み進めてみて気付いた。「読んでいる内に理解する」のだ。本当に不思議だけど、いつもそう。そしてそれと同じことを、講演会の時に感じた。途中「こりゃとんでもなく難しい話になってるな」と思うけれど、そこでふと思い出す。「いや、この方の話はいつも最後にはちゃんと理解出来ているから、黙って聴いてみよう」そして講演会後、納得。どういう手法なのかさっぱりわからないけれど、いつもそうなのだ。

 ということで、今回も私が特に苦手とする分野、宇宙での出来事。ただ、この本は平野啓一郎さんの提唱する「分人主義」が初めて概念化された小説ということもあり、分人主義(個人主義が「本当の自分」があらゆる場面・場所で仮面を被っている、というのに対して、あらゆる場面・場所の自分はそれぞれが本当の自分だという考え方)が当たり前の考え方になっている世界が本の中に広がっていて興味深かった。この分人主義はとても希望のある考え方だと思って私も気に入っているけれど、若い頃に直面する「本当の私を誰も知らない」みたいな感覚が覆されて、「自分の好きな分人を増やすこともできる」と希望が湧いてくる。どんな時の自分が好きか、誰と一緒にいる時の自分が好きか、そんな風にして自分をカスタマイズしていくことができる自由を感じると、俄然人生の味わいが変わってくる。

この記事が参加している募集

読書感想文

読んでくださって、ありがとうございます。 もし気に入ってくださったら、投げ銭していただけると励みになります💜