歴史小説「Two of Us」第3章 J-8
~細川忠興父子とガラシャ珠子夫人の生涯~
第3章 本能寺の変以後から関ヶ原合戦の果てまで
(改訂版は日本語文のみ)
The Fatal Share for "Las abandonadas"
J‐8 ~Shelter@水戸野~
あなた細川珠子の棲む茅葺一軒家に、侍女の清原が戻って来た。
「只今戻りました。今朝は、丹波栗と椎茸を頂きましたよ、御方様」
上がり框から、清原が声をかける。
「お戻りなさいませ。おおきにね。ありがとうさんです」
三和土と連なった畳敷きの部屋から、あなたは返事する。
すっかり町衆の言葉に馴染んで来たあなた珠子は、清原から竹製の平籠いっぱいの丹波栗と椎茸を受け取り、釜戸近くの棚に置く。
三和土上り口まで、お長が出迎えに来た。
「おかえりなさい、ばあばさま。かあさまが、交代で参りまする」
清原は、眉を思い切り持ち上げて大げさに喜び、応える。
「お長様も、すっかり言葉が馴染みはりましたねぇ」
「はい、ばあばさま。母上はかあさま、父上はとうさま、清原はばあばさまと呼びまする」
「興之丸様は?」
「弟君は〈オキ〉です」
「はい、よろしゅうに。ばあばさまは昼から、宮津に参ります。
忠隆殿がお風邪をお召しになったとのこと。町医者から、丸薬を頂きましたので、急ぎ、速籠で城に戻ります」
「ばあばさまと入れ替わりに、姪っ子の『イト』が参ります。
何かとお世話をしてくれますさかいに、姉さまとお呼びくださいませ」
「イトさんは『マリア』のことですか❔」
「はい。『マリア』が清原イトの呼び名なのです」
「イト姉さまと呼びまする」
「かしこまりました。よろしゅう♪」
「はい、ばあばさま」
外出時は家族を装い、農家や町衆に紛れているが、家の中でも本当の祖母と孫のように、馴染んでいる。
興之丸を抱きかかえて、あなたが三和土に戻って来た。
仰向けに寝かせると、清原から茶屋の前掛けを受け取り、あなたは身に着ける。ほやほやと笑い手足を動かしている興之丸を観て、微笑む。
「では、行ってきます❕」
交代で、あなた珠子は日雇い手伝い(アルバイト)に出かけた。
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